表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

何気ない婚約破棄騒動の背景

掲載日:2020/10/18

「リリス! リリスはどこに居る! 今日こそは言う事がある!」


 王宮での舞踏会。

 その真ん中で第2王子ツォード・ド・アイステリアが突然に声を張り上げた。

 自分の婚約者リリス・ド・イワノワを呼んでいる。

 第二王子の腕には、まるで恋人のように女がしなだれかかっている。

 女はきっと最近社交界で密やかに噂になっている子爵令嬢マリア・リボリーヌだろう。

 男にしなだれかかるしか能がない、とは社交界のもっぱらの噂だった。

 宮廷魔法士として活躍しているリリス様とは大違い、と噂はいつもそう締めくくられている。


 そんな様子に周りの貴族たちは不敬にならない程度に距離を取った。

 厄介ごとの匂いから距離を取りたい。だが、不敬だとは指摘されたくない。

 そんな距離だった。


 しかし、第2王子ツォードがいくら周りを見渡してもリリスは見つからないようだった。


 その時、会場の入り口に立っている文官が焦ったように声を上げた。


「第3王子ネスト・ド・アイステリア殿下。御入場されます! イワノワ伯爵家リリス・ド・イワノワ様。御入場!」


 予定になかった入場だ。読み上げている紙を持つ手が震えている。


 文官の声に、会場がわずかにさざめいた。

 しかし、そこは貴族だ。王族の入場にいっせいに入り口の方を向き頭を下げる。

(もちろん既に入場していた王族は別だ)

 末の王子は13歳になったばかりで、社交界デビューはまだまだ先だ。

 しかも、第2王子の婚約者を伴ってだ。

 文官がネストの合図で「顔を上げよ」と号令をかけると、貴族は一斉に顔を上げてネストとリリスを見た。

 13歳のネストはまだリリスよりはわずかに身長が低かったが、リリスの手を引いてなかなか様になるエスコートを披露していた。

 というより、見た感じリリスはツォードより三歳も年下のネストとの方がお似合いだった。

 リリスは銀の髪に菫色の瞳をしていて、ネストは金の髪に紺色の目をしている。

 まるで一対の繊細な人形のようだった。

 特にネストは少年から青年に変わるアンバランスさがあり、それが人間離れした美しさに拍車をかけているのだった。


 対して、ツォードは正妃譲りの濃い赤い髪に太陽のようなオレンジの瞳をしており、一旦リリスとネストの対を見てしまうとリリスの婚約者としては違和感を周囲に感じさせるのだった。リリスとツォードは同い年にも関わらず。


 数舜、ツォードはリリスとネストに見とれていたがハッと我に返る。

 言わなければいけない事を思い出したのだろう。


「リリス! お前というやつは婚約者がある身でありながら別の男にエスコートされてくるとは! やはりマリアが言うようにとんでもない悪女のようだな」


 ツォードがリリスに向かって歩みながら、口汚くののしり始める。

 周りの貴族は完全に引いている。

 一方、壇上で舞踏会の様子を眺めていた別の王族はどうツォードを収めていいのか決めあぐねているようだ。

 間の悪いことに王は王妃が直前で少し気分が悪くなったとかで入場していない。


 ネストはツォードが「リリス!」と叫んだ時点で、「失礼」と小さく言ってリリスの耳を塞いだ。

 もちろん手袋をしたままでだ。

 緊急とはいっても未婚の女性に直に触れるわけにはいかない。


「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


 耳を突然塞がれたリリスはわずかに頭を振ってネストの手を払う。

 人形のように端正な顔をしてはいるが、リリスは知性的な表情でツォードに向き直る。


「ツォード様。僭越ながらツォード様のお手を煩わせるのは失礼と思いまとめて参りました。今回、ツォード様が仰りたい事は、

 一、婚約破棄

 一、私つまりリリス・ド・イワノワが子爵令嬢マリア・リボリーヌ様に害をなした

 一、それは何故か。ツォード様にリリス・ド・イワノワが思いを寄せているための嫉妬

 一、私情にて人に積極的に害を与える者は王子妃にふさわしくない

 一、国外追放か処刑もしくは修道院に入る

 という事でよろしいですね」

「なっ」


 人形のように端正な顔から繰り出されるリリスの機関銃のような言葉に、ツォードは圧されてわずかに頷く。

 ツォードの態度にリリスも満足そうに頷いて、すぐに次の言葉を繋げた。


「では、お返事を致します。

 一、婚約破棄は私の方では承っており、必要な所に許可を頂いた書類もできております。こちらにサインを。はい。ありがとうございます。魔法契約書ですので後は自動で舞踏会後に処理されます。

 一、私がマリア様を嫉妬でもって害した。とんでもございません。誠に失礼ながら私はツォード様の事をお慕いしておりません。昔、私の顔をお気に召して無理に婚約を結ばれたのはツォード様でございます。証拠はこちらに。こういう事があったら割るようにとツォード様が仰せでしたので割りますね」


 こちらに、と言いながらリリスは空中から空間魔法で取り出したピンク色の結晶を素早く割る。

 砕け散った結晶が霧となって王子に吸い込まれた。

 しかし、王宮の王族や貴族に害をなす魔法を検知し除去する結界は反応しない。

もともとツォードにあったものを返しただけだからだろう。


「リリス! ああ、俺は君になんてことを! 君を愛しているのに!」


 ツォードの顔色が変わり、リリスに愛を叫んだ。

 だが、リリスは軽くかわして言葉をつづけた。


「まあ、昔の愛を冷凍していた物を解凍してお返しすればそうなりますね。まあ、もしかしたらツォード様は婚約破棄前に割って欲しかったのかもしれないですが。順番は仰せではなかったですし、私はツォード様の言いつけに従ったまでですね。

 一、王子妃にふさわしくない。ですが、まあ、これは合っていると存じます。不敬が過ぎますしね。というか婚約する前に私はそう申し上げました。

 一、国外追放、処刑、修道院ですが。いずれも不可です。実行できません。私は空間と精神の専門宮廷魔法士であり、国外に行ってみたいですが、王の命令と監視役がないと国の外には出られません。処刑ですが、こんなに王宮に縛り付けられているので、もうほぼ私も精神を病んでおり、処刑について考えてみた事もありますが、契約魔法により自死は選べない上に、処刑もされません。死ぬまで魔術を使い続けさせられ、老衰でようやく死ねるかどうかですかね。修道院ですが、行ってみたいです。でも多分行けないと存じます。

 そう、私はツォード様からネスト様に婚約者が変わり、必ず王族と結婚させられて魔力の強い子を産むことを柔らかに強いられるでしょう。

 せめて心からの永遠の愛ぐらい寄越せ馬鹿野郎! 王宮で飼われている猫の方がたっぷりと可愛がられているわ!

 糞が! 糞が! 糞が!」


 リリスは真顔のままツォードに暴言を吐いた。


 いまや会場全体が静まり返っていた。

 しかし、会場に待機している兵はリリスを拘束しない。


 いつの間にか、王と王妃が入場していたが、この騒ぎでいつからかは分からなかった。

 ただ、王妃はまた気分が悪そうに頭を抑え、王に連れられて去っていった。


「そう、リリス嬢。僕はそんなおかし………んんっ、精神を病んでしまっている繊細な君が好きだよ。婚約して僕が成人したら結婚しよう」


 リリスの暴言の嵐にもずっと涼しい顔、いや少し興奮した顔(?)をしていたネストが口を開いた。

 ネストはずっとリリスの傍に立っていて何でもない顔をしていた。

 とんでもないネストの女の好みに、大抵の事は慣れている周りの貴族も目を剥く。


 ネストはまだ社交界デビュー3年前という事もあり、人柄は全然といって良いほど広まっていなかった。

 ツォードに輪をかけてやばそうだ、というのが周りの貴族の見解だった。

 正直、王と王妃はこんなところに自分たちを置いていかないでくれ、というのが周りの貴族の総意だろう。


 でも、そんなネストの性格のやばさには、堂々と人の婚約者をエスコートして現れた時点で気づいて良かったのかもしれない。

 他の王族はいまだにこの騒動を眺めているだけだ。


 とりあえず、舞踏会の場の愉快な仲間たちを紹介するぜ!


 第2王子ツォード! 婚約破棄を申し出たにも関わらず、昔の恋心を思い出してリリスに愛を叫び続けているー!ちなみにマリアとかいう恋人は放っている。


 子爵令嬢マリア! 満を持して第2王子をひっかけそそのかし、婚約破棄までさせたがもはや空気で誰も存在に気を払っていないー! こんな騒動を引き起こした責任を取らせられるのかー!


 第3王子ネスト! 駆け込みで「ヤンデル人が好き」と王族としては超弩級の好みぶち込んでくるヤバいやつ。


 そして我らがスターのリリス! いつもは真面目で勤勉な宮廷魔法士だが、スイッチが入ると病み病み全開ファイヤー。空間と精神の魔法士は自分に直接魔法を使えないのが弱点であり、チャームポイント。


 アーンド盛り上がってない観客ー! 貴族達! 




 そして、俺!

 背景の王太子!




 ーーー王太子レオナルドの視点ーーー



 今日はまだ良い方だ。


 俺は自分にそう言い聞かせた。


 ずっとずっと辛抱してだいぶ前から騒動を眺めていた。

 しかし、そろそろ騒動を収めた方が良いだろう。



 チラッと隣に座っている俺の奥さんを見ると、普通の顔して目の前の騒動を眺めている。王宮料理人特製の栗のプチシューを食べながら。

 俺が見ている事に気づくと、口を優雅に拭いてからニッコリと微笑んだ。


「甘い物を一口食べてからにしたら」


 奥さんの言葉に、それもそうだなと頷く。

 従者がサッと差し出した栗のプチシューを味わって食べる。

 うまい。甘さが染みる。


 よし、やるか。と俺は立ち上がった。


 最近は父上も母上も年取って弱くなった。

 俺がやるしかないのだろう。


 まず、宮廷魔法士のリリスに声をかける。

 会場全体に今日の出来事のストレスと記憶を和らげる魔法をかけて貰う。

(この魔法の弊害として、王や王妃や俺が事件の解決をしている事がいつも記憶に残らないし、だからいつも皆同じような事を繰り返す)。


 リリスとネストのカップルは放っておこう。

 結構うまく行きそうだ。

 ネストは絶賛捻くれた思春期中だ。

 病んでる女が好き、とかまだまだ甘い。

 ネストはその思春期の勢いで、


「僕が婚約破棄を申し出たら命を捧げましょう」


 とか言って、リリスにとても気に入られていた。

 とても。

 頑張れよ。

 正直、リリスみたいな令嬢は国で保護しないと危なかっしくて仕方ないから。


 次に愛を叫び続けているツォードは……。

 どうせすぐ冷めるだろうから、騎士に言ってツォードの部屋に連れて行って貰った。

 キリッとした女騎士に連れてって貰った。

 早速美人の女騎士相手に叫んでるのが恥ずかしくなったのだろう。

 ツォードは静かになっていた。


 子爵令嬢マリアは……。

 そこそこイケメンの子爵次男を紹介しておいた。

 俺の友達なんだが、ダメ女が好きという困った趣味の持ち主だ。貴族令嬢にはあまりダメ女はいないので困っていた。

 マリア嬢は早速イケメンに目を輝かせているし、一生ダメ女で居てくれそうで何よりだ。

 そのイケメンは狙った獲物はどんな事しても食いついて離さないタイプだから、お幸せにな。

 子爵次男は困った趣味以外は有能だから、リボリーヌ家に婿入りしてうまくやってくれるよ。


 一通り解決して回った頃には、舞踏会はお開きの時間になっていた。


 席に戻ると、奥さんが「お疲れ様」と頭を撫でてくれた。

 癒される。


 こんなにやってもリリスの魔法のおかげと言うかせいでと言うか、俺はまた明日から『背景』なんだろうな。


 仕方ない。

 俺には奥さんが居ればいいか。

 王太子だからこそある程度贅沢できるわけだし。


 会場はお開きとなっても、まだ少し賑わっている。

 だけど、今日はもう大丈夫だろう。


 俺は奥さんの手を取り、周りに退場を告げた。

最初からずっと王太子レオナルドが場を観察して「心の中で実況」していたお話しでした。


奥さんは横でスイーツ食べて、レオナルドに付き合っている。

レオナルドが心の中で実況してるんだろうな、という事も長い付き合いで知っている。

奥さんは王太子の奥さんなだけあって、魔力値と精神値が高いから、リリスの魔法で記憶の印象が薄くなったりしない。

騒動をいつも優しく解決する優しいレオナルドが大好き。

この後レオナルドと奥さんの夜は盛り上がっていきます。



ここまで読んでくださったらありがとうございました。

もしよろしかったら星の評価を押していただきますと、非常に嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ