ねこと問題児
こんにちは。ねこです。よろしくおねがいします。
ねこは財団日本支部の職員の1人として、コンテナでレストランを経営しています。
とても楽しい毎日を過ごせています。ねこは満足です。
ねこには大切な人間がいます。彼も同じく財団の職員で、研究とレストランのお手伝いをしてくれています。
ねこは彼が居ないと生きていても楽しくありません。ねこはどうやらミーム汚染されてしまったようです。
ねこは以前、知識不足からとても迷惑をかけてしまいました。なので、ねこは今財団のSCP達についてこっそりと勉強しています。
色んな方からお話を聞いてメモに残したり、(こっそり)研究資料を(盗み)見たりしています。
これで知識を沢山つければ、もっと彼と色々お話できるでしょう。楽しみです。
そういえば、最近コンテナにひとつ扉が増えた気がします。
以前はあそこには扉がなかったはずですが……しかも、何故か開けることが出来ず鍵穴も見当たりません。
コンテナは一体なにを作り出したのでしょうか。
今日もねこはレストランで働いていましたが、なんだか職員のみなさんがそわそわしていました。
特に、物理学部門に所属する方々からは緊張と焦りの匂いがします。ねこは意外にも匂いに敏感なのです。
「あの……どうかしましたか?」
「えっ?あ、あぁねこさんじゃないか!いや、いやなんでもないんだ、ああ」
「なんでもないような態度には見えませんよ」
お客様の1人、物理学部門のネームプレートをぶら下げていた男性に話を聞いてみようと思います。
「うーん、でもねこさんも今や財団職員だもんなあ……話していいものか……」
「問題ないと思いますよ」
たぶん。
「……じゃあ、今回のお代金ということでひとつ、いいかな?」
「かしこまりました。では聞かせてください」
「ああ……実は明日、財団の本部からお偉いさんが来るらしい」
「本部から、ですか」
「ああ、俺たち物理学部門で知らない人はまず居ないだろう。それに、部門が違ってもかなりの有名人のはずさ」
「そこまですごい方が、どうしてここに?」
「そこまではまだわからない、が、何かの実験のために来るらしい……」
「そうなのですか……、それでなんて言う方なんですか?」
「ああ、その人の名は……」
彼は一瞬ためらい、生唾を飲んでまるで何か覚悟を決めたような表情で呟きました。
「ジャック・ブライト博士」
今日はレストランを閉じていて欲しいとお願いされました。というのも、今日がブライト博士来日の日なのでサイト全体が忙しいから手伝って欲しいとの事らしいです。ねこは彼と共に手伝うことになりました。
朝早くから備品整理やサイトの巡回ルート確認、そして1番大事だと言われたのが禁止リストの暗記でした。
なぜかブライト博士の「禁止リスト」にはねこもよく知る(勉強して知った)SCPに関するであろうものが沢山リストインしていました。
「しかしなんでこのサイトを選んだんでしょうね」
彼が問いかけてきました。
「ねこにも分かりません、ですが何かここでないと出来ないことがあるのでしょう」
「そうですね、無事に終われば良いですが……」
彼はなんだか不安そうでした。まあやってはいけないことリストを見れば誰もがこうなるでしょうが。
そしてついにその時は訪れました。
彼が、ブライト博士が到着しました。
ブライト博士はいつの間にかチンパンジーから普通の人間へと乗り換えたようで、チンパンジーが喋るとこを見れると思ったねこは少しだけ拍子抜けしました。
「ジャック・ブライト博士!いやいや、よくぞお越しくださいました!」
サイト管理長が流暢な英語で語りかけます。
やはり1つのサイトの全てを任される人間はこういう能力も必要なのでしょうか。
「ああ、歓迎ありがとう。ブライト博士と呼ぶといい。それと、私は今回翻訳機を持参しているのでお互い母国語で話しても構わないだろう。
……さて、君たちはこれから私と共に仕事が出来る。それはつまり成果を残せるということだ。最も、私のこちらでの仕事が済むまで君たちが残っていればの話だが」
その言葉を聞いた日本支部の皆さんは一気に緊張した様子でした。
彼は問題児と語られているとはいえ、その頭脳と知識と実績は揺るぎないものです。数々の危険を乗り越えているのですから。
「……っ、で、では、早速ですか巡回ルートの方を」
サイト管理長がなんとか重苦しい空気を跳ね除けて話を進めようとするも、即座にブライト博士がそれを遮って大声で話しました。
「どうやら、ミーム系統で猛威を振るったSCPかを無力化させたと、そう聞いたのだが?全くこのサイトは何をしている!我々の理念はなんだ!?使命はなんだ!?言ってみろ!そう、『確保・収容・保護』ではないか!?確かに、SCPとは『特別収容プロトコル』の略語だ、『確保・収容・保護』はあとから着いてきた標語に過ぎない!だが!今やそれは財団内部の基本の信念としているはずじゃあないのか!?おい、この中に居るんだろう!オブジェクトの無力化の原因となった男が!自ら名乗り出ろ!でないと片っ端から本部仕込みの拷問にかけてやる!」
そう、ブライト博士の目的はどうやらこの事でした。
ねこは保護されず、無力化してしまいました。
それは財団の理念とする3ヶ条に逆らった形になるのです。
ねこはこれ以上迷惑をかけてはいけないとおもい、名乗り出ようとしました。ですがその時でした。
「私です!私が主に関与しました!」
彼が名乗り出たのです。
「ま、待ってください!まずはねこが」
「ねこさん、大丈夫です。それにブライト博士は原因となった俺に名乗り出るよう求めました。だから、俺が行かないといけないんです」
彼は怯えと決意が混ざったような匂いを発していました。
「ほう、君か。……ふむ、まさか本当に正直に名乗り出るとは面白い。
君、名は?ああいや、やはり名前などいい、興味が無い。それより、今日これよりとある実験を行いたいのだが、付き合ってくれるだろうか?」
「……実験、ですか」
「ああ、そう怯えるな。殺しはしないし死にもしない。言うことを聞いてくれたら、の話だがな。」
彼は管理長の方に目を向けました。ですが、管理長は本部で物理学の権威として活躍するブライト博士に逆らえるとは思っていないようで、口を挟むことができない様子でした。しかたありません、人間の社会では『縦の関係』が大事だと学んだことがあります。
彼はどうやら覚悟した様子でした。
「わかりました、是非、尽力させていただきます」
「よろしい、なら着いてきなさい。ああ、それと……そこの『耳としっぽが生えた職員』君もだ、来たまえ」
まさかのねこをご指名でした。
「ま、待ってください!彼女は」
「静かにしたまえ。何もとって食うつもりはない」
本当でしょうか。やってはいけないことリストを見る限りその言葉は信憑性が低いのですが。
「で、ですがブライト博士」
「だから黙れと言っている、君はそもそも生きているだけで救われているのだぞ。終了されたくなければ黙っていなさい、いいね」
「……」
彼が黙り込んでしまいました。もはやパワハラですねこれは。
「わかりました。ねこも同行します」
「よろしい」
「よろしくおねがいします」
そうして他の職員さんにもいくつか協力要請(という名の命令)をして、実験室へと向かいました。
「君、これをつけたまえ」
ブライト博士はねこと彼と博士の3人だけを残して他の全員に実験室から出ていくように命じた後、彼にリストバンド?のようなものを渡しました。
「これは……」
「君はそれを付けて、実験観察室の椅子に座って、マイクの前で待機していてくれ」
命じられたとおり、彼は実験室の外から中に命令する時などに使うマイクの前に座りました。
「そして君、ああっと……ねこさん?だったか?ああ確かそうだ。ねこさんとやらはこっちへ来なさい」
次に博士はねこを目の前に座らせました。
「ああ、それとこれに着替えてくれないか」
博士はねこになにかを手渡しました。
「実験室の最奥にトイレがあるだろう。そこで着替えてきなさい」
……!?
こ、これは!?
「まっ、待ってください。ねこにはこれは」
「いいから、着なさい」
「ですが……ですが……」
「まさか、断るというのかね?彼がどうなっても、構わないと」
脅しじゃないですか!
しかし、彼の名を出されるとねこは弱いです。大人しく着替えることにします。
別室の彼をチラッと見ましたがなぜか全くの無表情でした。
「着替えて……きました……あの……」
「ふむ、こちらへ来て、彼によく見せてあげなさい」
うう、ぅぅぅぅ〜ううううううう〜!!
ブライト博士が渡したのは、そう。
水着でした。
しかもなんだか布面積が小さい気がします。えっちなのはいけないとおもいます。しかもなぜか一緒に首輪を着けるように言われました。
ねこは今、水着姿に首輪付きという格好です。
「よく似合っているじゃないか、ははは」
「わ、笑い事ではありません……」
彼の方を見るのが恥ずかしいのでねこはあちらを向けませんでした。
「ああ、さて。実験と行こうか」
「こ、こんな格好で何をするのですか……!」
「これさ」
そう言って博士が懐から取り出したのは、ねこじゃらしでした。
……ねこじゃらし?
「あ、あの……?」
「なにか質問かね?」
「ね、ねこはねこですけど、猫ではないので、そういったものは……」
「いいからいいから、ほれ」
そういって博士がねこじゃらしをねこの目の前で振り回し始めました。
すると
「……!?」
なんと、ねこの体がかってにねこじゃらしを追いかけ始めました。
なんですかこれは!
「ふむ、やはりか……」
ねこは一心不乱に追いかけます。
「やはり君はこれを気に入ったようだな」
ねこはそんなつもりは無いのですが、体が言うことを聞きません。
「ところで……そんなに元気よく飛び回っていいのかね?君の胸部が激しく揺れている様子が彼に見られているぞ?」
!???!?!?!?!!!!?
な、何を言っているのですかこのセクハラ猿は!!
見ないでください!見ないでください!
ねこは心の中で叫びますが、声が出せません。
「それにそんなに飛んで走ってを繰り返していたら水着が取れてしまってもおかしくないな、はっはっはっ!」
なにわろてんねん。です。
「さて、次はこれを……」
そう言って次に博士が取り出したのは
手のひらサイズのボール?のようなものでした。
「ほれ」
博士がねこじゃらしを仕舞いそれを投げた途端、今度はねこの体はそれに夢中になりました。
「さて、君がそのボールで遊んでいる様子をしっかりとビデオカメラに残そうじゃないか」
博士はどこに隠して居たのか、ビデオカメラを取り出して撮影し始めました。
うぅ……彼はなぜ止めてくれないのでしょうか。それとも本当にこれがなにか大切な実験なのですか……?
「ほほお、君は美しい体をしている。ふむ、そこはそんなふうになっているのか、ほう……興味深い……」
うるさいです。
しかしねこの体は一向にコントロールを取り返せる様子がありません。
なんでですか……
「さあ、次のステップだ」
博士はボールをねこから奪い上げて代わりに小瓶を取り出しました。
「これは所謂……またたびだ。今までのことを考えると、これを私が使えばどうなるか、君には想像が着くだろう?」
またたび……!?またたびとは、つまりあのまたたびですか……?
辞めてください!そんなものを使われたらねこは……ねこは!
ねこには大切な彼がいます!その目の前で、ねこは……きっとブライト博士に……
辞めてください!!!
「さあて、お楽しみの時間だ、いくぞ……」
博士が小瓶の蓋を開けようとした瞬間。
「辞めてください!!!ブライト博士!!!」
彼の声がしました。
「これのどこが実験ですか!!!あなたの、あなたの趣味や快楽にねこさんを巻き込まないでください!!!」
「……君は何を言っている。これが仮に実験でなく、私の娯楽だとして、君にはなんの関係がある」
「それは……それは……」
彼は戸惑いを見せましたが、やがて博士の方をしっかり見据えて言い放ちました。
「ねこさんは!!僕の大切な女性です!!あなたの好きさせる訳にはいかない!!」
……ねこは、ねこは今どんな顔をしているのでしょう。
自分ではわかりませんが、きっと人に見せていい顔ではないはずです。
だって自分でもわかります、口角が痛いくらいに上がってて、顔は暑くて熱くてたまりません。
「……はっはっはっ!全く君という男は……私を墓にぶち込んだあの忌々しいカメラで今の君を撮影したらとんでもなく面白いものが見れるだろうなあ!」
ブライト博士は悪びれる様子もなく声を上げて笑っていました。
「ああ、わかったわかった、これでしまいにしよう。はあ、楽しかったよ」
ブライト博士はこうして、本部へと帰っていきました。
「ねこさん!大丈夫でしたか!?」
「……はい、大丈夫です」
「ねこさん……?ど、どうしてこっちを見てくれないんですか?」
こんなニヤニヤした顔、見せられません……!
しかし……ブライト博士は何がしたかったのでしょうか……やっぱりただの、セクハラ……?
ブライト博士の報告書
今回、日本支部サイト-○○○○への実験出張の許可、感謝する。
今回の実験で得た情報を報告するレポートをここに提出する。
まず説明しておくと、今回私が持っていった新たなアノマリーは「首輪を着けた者をペット、リストバンドを着けた者を飼い主として強制力を与える」という能力があるらしい。
さらにわ「ペットが虐待されている場合、飼い主はそれを見ているしかできない」という力もある。どうやら見ている飼い主はペットの虐待されている様子に性的興奮を感じ始めるようだ。
だが今回の調査で分かったことがある。
どうやらこれは「想い」に弱いらしい。
Dクラスを使った実験では、顔も知らない他人同士をこのアノマリーに当てた場合、全く抗えなかったが、どうやら恋人関係にあるらしい職員同士を当てた場合は、飼い主の方が若干の抵抗を見せた。
そしてそんな時、日本支部で面白い話があったじゃないか。
私はそれを利用しない手はなかった。すぐにこのアノマリーの事を思いついたさ。
結果は寧ろ予想通り、男の方が完全な抵抗に成功した。
それだけ想いが強いってことだろう。
あれほどの純粋で深くて強くて輝かしい愛は見たことないな。
全く忌々しい。
報告は以上です。
ねこです。今日もしあわせです。