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そんなことは二の次だ

 紙を破る音。


 薄いピンク色で銀色の光沢がある包み紙を、思いのままにむしり取る。綺麗に包装されたプレゼントを早く見たいという気持ちに急かされ、ほどいたリボンと千切られた紙が足下に散らばっていく。


 無邪気な頃は疑うことも知らず、与えられるものに満足しては、夢中になって遊んだ。


 あの頃がまるで、嘘みたいな今の私。


 どうしたら良いんだろう。


 変わりたいのに、方法がわからないよ……。



「ミユ!」



 真っ白い光と共に名前を呼ばれ、我に返る。


 目の前にユキヤの顔。


 驚いて息をとめる。


 肋骨のあたりに鋭い痛みが走り、さらに下腹部の重く冷たい痛みが体を駆け上ってきた。


 どうしてこんなに苦しいの?


 辛くて、つらくて、全身がブルブルと震える。目をギュッとつむり、自分手を強く握っていると、急に温かいものに包まれた。



「見てらんねー…、お前のそんな顔」



 涙声のユキヤが私の耳元で囁く。



「どうすりゃ良いんだ? 俺じゃ、何の力にもなれない…。ごめんな、ミユ…」



 抱きつかれるがままに、彼の腕と大きな手を意識する。自分よりも熱い肌から伝わるユキヤの想いが、じわじわと私を覆っていた氷の膜を溶かしていく。


 溺れて冷えた身体に、熱が流れ込んでくる。


 言葉より確かな温もり。


 肩越しに見えた部屋の明りよりも眩しい光のシャワーが降ってくる。


 私はいつの間にか、ユキヤの背中に手を回し、服を握りしめていた。


 なにも要らない。


 正しさや間違いは、どうでもいい。


 ユキヤの体温が教えてくれる。


 もう、ひとりよがりはイヤだ。


 独りになりたくない。


 寂しい。


 苦しい。



「……ユキヤ…」



 彼の肩の骨に涙をこすりつけた。次の瞬間、大きなふたつの手のひらが私の両頬をつかまえる。この手にどこを触れられても、イヤじゃない。怖くない。



「…ミ……ユ……」



 消え入りそうな声。


 近付く吐息。


 鼻の先同志が、触れた。思わず身体が、跳ねる。


 心臓の音が早くなる。


 目を開けると、さっきよりずっとそばにユキヤがいた。


 瞼の細い筋までもがはっきりと視える距離。


 なにかを探す瞳が、私の表情を読もうと小さく動き回る。


 こんなに私を良く見てくれる人は、きっとこの先現れることはない。


 そう思ったら、喉の奥から鼻にかけて熱を持つ爪が鋭く肌をひっかいた。


 ジワリと涙、それと同時に愛しさが、溢れ



 重なる唇。



 思いがけないほどの柔らかさに、ため息が零れた。


 

 まるで夢のようなひととき。これが、この気持ちが、永遠に続けば良い―――



 もうなにも考えたくない。


 なにも要らない。


 ユキヤさえそばにいてくれるなら。


 トモダチとか、恋人とか、そんなことは二の次だ。


 いつか、私から気持ちが離れていくのだとしても、私にはユキヤが一番。


 それがわかったなら、もうこれ以上は要らない。



 私達は目を開けて、お互いの瞳を覗きあう。


 言葉が出ない。


 でも、なんだろう。確かに、触れ合えた。心と心が通じ合えた。


 ユキヤから貰った熱が逆流して、彼に伝わっていく。


 私から溢れるものを彼はイヤな顔せず、むしろ嬉しそうに小さく微笑んで、受け止めてくれる。


 私の身体を抱きしめる手にも力を、意思を、感じる。



「……ミユ……、俺は………」



 息苦しそうな、疲れたような、頼りない声。


 剥き出しのユキヤがいる。


 思い通りにいかないと、怒って当たり散らしていた少年だった頃の面影を感じる。


 これが、ありのままの、わたしたち。


 涙が、溢れる。


 愛があふれる。



 次の言葉はもう、わかってる。それを聞くのが怖くなった私は、咄嗟に右手でユキヤの口を抑えた。



「……言わないで」



 ユキヤの左手に手首を掴まれる。


 力を込めた手を、上回るほどの強さでゆっくりと引き下ろされた。


 その間もずっと、絡み合う視線は離れない。


 揺れる瞳に、私と同じような感情の波が見える。



「いや、言う。言いたいんだ、聞けよ! もう、十分なほど待ってやってるんだから、俺のわがままを聞いて。ミユ」



 ズイと前のめりになったユキヤが、唇が触れるほどの距離に来る。心をすべて覗かれてしまうほど、近い場所から私を真っすぐに見つめ続ける。


 泣きたくなった。



「……好きだよ」



 夜に溶けてしまいそうな、甘い囁き。


 初めて聞くその声音に、私の心は決壊。


 自分から、彼の唇にふるいついた。


 

 こんなはずじゃなかった。


 こうなるなんて、望んでもみなかった。


 いや、違う。


 本当はずっと欲しくて、欲しくて、乾いて、苦しくて……。



 窓ガラスが曇るほど熱く燃える肌を重ねて、ユキヤの唇が私の女らしい場所に届いてしまう。冷えた場所を探り出す手に温められ続け、ゆっくりと溶けていくバターになった気分だ。


 頭が痺れてゾクゾクとした不思議な感覚が、思考を止めてしまう。


 されるがままに身を任せ、手と手を、指と指を絡ませた。


 擦り合う肌も滑らかによくすべり、猫のじゃれ合いのように柔らかく身を絡ませ合う。


 夜が輝いて見える。


 世界中に祝福されているような、美しい光を浴びている。


 皮膚の下にまでユキヤが滑り込んで、私と一体感をわかち合う。


 時々、ブルブルっと震えが走り、そのたびに目と目が合って笑った。



 だけど、この日は生理で。


 私達はただ、服の下に手を入れ合って肌を撫で続けただけで、一線を越えることはなかった。



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