君の一番になれたなら
私達はふたりの部屋に帰ることにした。途中でコンビニで買い物をして、明日の朝ご飯にと沢山の甘いパンを買って、ユキヤが大好きなソフトカツゲンを五本も買った。
運転中はずっと、手を繋いでいた。
マニュアル車のシフトチェンジは忙しいけれど、一緒にブルブルと震えるレバーを動かして。段々と、笑いのツボが同じところになっていく感じも楽しくて。
部屋に入ると、玄関で靴を脱ぐ前に抱き合ってキスをした。
狭いところで肘をぶつけ、お互いかばい合うように身体を重ねながら床に寝転んで、服を脱がされていく。
一枚剥ぐたびに、目と目で確かめ合う。
本当にこれで良いの?
後悔しないの?
自問自答をして、心はもう揺るがないことを確かめる。
ユキヤは自分から服を脱いで私を横抱きにすると、自分の部屋と私の部屋の間で、立ち止まった。
「どっちにする?」
「ユキヤのベッドが良い」
「…ほんとに?」
声が裏返り、思わず笑ってしまう。
ベッドで抱き合って甘噛みされて、ほぼ全裸になった頃。
ユキヤが急に起き上がって、なぜか正座をした。
そして、意を決した様子で私の目をじっと見つめて、言った。
「俺、こう見えて初めてだから、きっと下手くそだけど、それでも良いよね?」
「え? うそ…」
「嘘じゃないけど……?」
「だって、助手席の女の子達とは…」
唇をとんがらせたユキヤは、拗ねた子供のような顔をして人差し指で頬を掻いた。
「あぁ……。まぁ、ぶっちゃけほんの少しはそんな雰囲気になったこともあったけど…。
でも。いざとなったらさ。やっぱり、俺にとっての初めてはミユじゃなくちゃいけなかったんだ。それで、うやむやになったっていうか……。でも、一度だけだよ、そういうのは。
他の人達はただ、悩みを聞いてあげていただけで、向こうが勘違いしないようにちゃんと俺には好きな人がいるって言ってたし」
ユキヤは落ち着いた声で、淡々と説明した。
「それを、事実だと証明して」
「…いいよ」
彼は再び、私の上に覆いかぶさって来て、キスをしながら大きな手で肌を撫でていく。
くすぐったくて、じっとしていられない。
手を握りしめて押し返すと、困った顔をして私を覗き込む。
「くすぐったがってたら、できないじゃん」
「うん、そうだけど」
「じゃ、ミユが俺にする?」
「え? するって、なにを?」
ドキドキしていると、ユキヤは立ち膝になり普段は見せない場所を前に突き出した。
下着を履いているけれど、それはアレなわけで。
私は思わず悲鳴を上げる。
それを眺めていたユキヤは苦笑いをして、ため息をつくと。
私の隣に身体を横たえて、添い寝を始めた。
「え?」
「もう終わり? っていう顔されてもね。あんな悲鳴上げられたら、手なんて出せないし…」
落ち込んだユキヤが、なんだか急に可愛らしく思える。
私は照れながらも、自分からユキヤにキスをした。
彼は瞼を降ろして、ウットリとする。
無防備な表情に見惚れながら、つい言葉が溢れた。
「ユキヤ。ありがとう。本当は、ずっとあなたが、好きだったよ…。でも、それを言えばいつか終わりが来ると思ったら、怖くてこわくて言えなかった…」
驚いた顔。
でも、すぐにそれは甘く溶けてしまう。
「俺もさ、ずっと怖かったんだ。
お前がこれ以上傷付いたらと思ったら、一生トモダチでも良いって覚悟を決めてたのに……。
お前が、働き出して具合悪そうにしてるのを見たら、やっぱり俺が一生お前の面倒を見たいとか、そんなことばっかり考えるようになって。俺に、お前を護らせて。絶対にがっかりさせないから」
ベッドに入って、私達はしばらくお互いの本当の気持ちを語り合った。
そしてうっかり忘れていたけれど、この日。私はまだ生理三日目でエッチはお預け。
どこかでわかっていた筈のことだったから、二人で腹を抱えて笑った。
やっと眠りに落ちてすぐやってきた月曜日の朝。
まどろみの中で永遠の愛を誓ったかもしれない。つい昨日までの私は、孤独で寒くて寂しさに震えて泣いていた。信じられないということは、つまりそういうことだ。
「お前の両親みたいなことにはならない。俺は嘘をつかない。なにがあっても」
疑わずにただ信じることが難しいけど、それでも私は雑念を捨てて「私も。この先なにがあっても、ユキヤには嘘をつかない」と伝えた。
勇気と愛を信じる。
どこかで聞いた言葉だけど、本当に大事なことだと思う。
私達は表裏のない関係を望んだ。
結ばれても、その先へと続く永遠は幻だということを私は知っている。
君の一番になれたなら、簡単に投げ出さないことをここに、誓います。
了




