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ジークの回想 従者のマシュー

 変わり者で気分屋の師匠は、自分の都合の悪い事になると急に耳が遠くなるとても便利な耳をしている。

 そんな時、ぼそりと悪口を言うと確実に小さな稲妻が頭上から落ちてくるので要注意だ。

 小さな稲妻と言っても、床を焼きプスプスと黒煙が上るほどの威力で、最近は不意打ちで落としてくるため中々気が抜けない。

 ちなみに、稲妻を落とした耳ざとい本人は涼しい顔でお茶をすすっている。


 その稲妻で出来た床の焦げ跡を見て、毎回の如く頭を抱えるのは従者のマシューだ。彼は他国にいる師匠の親戚の孫で、七男一女の8人兄妹で両親を合わせて10人と言う大家族である。

 ある日突然、師匠が俺と歳の近い子供を連れてきて、今日から一緒にここで暮らす俺の従者だと言ったのがマシューとの出合いだった。

 当時、俺はとにかく何に対しても興味が薄く、聞かれた事にしか答えない何を考えているのか分からない子供だったそうだ。そんな俺に危機感を覚えた師匠は、話し相手に歳の近いマシューを連れてきた。

 風にふわふわと揺れる猫っ毛と、そばかすの散る鼻が印象的で、表情一つ変えない俺にマシューは困ったように垂れ気味の赤い瞳をさらに下げて笑ったのを何となく覚えている。

 マシューとの出会いで、まさか師匠も自分の大事なチョコレートを盗み食いされる程、俺がやんちゃ坊主になるとは思っていなかったようだ。だが、上に6人の兄を持つマシューを話し相手に選んだのが運のつきだった。

 マシュー本人は比較的、兄達より大人しいとしても、そのやんちゃな兄達から仕込まれた悪戯心満載の遊びを悪意なく純粋に俺に吹き込むのだから、そうなるのも仕方がない。



 師匠の父の兄がマシューの曽祖父だそうで、本当はマシューの曽祖父が家督を継ぐはずだったらしい。

 だが、とても自由な人で、ある日ふらりと幼馴染だった婚約者を置いて旅に出てしまい、貴族の地位を捨てそのまま冒険者になってしまったのだとか。

 その為、実は幼い頃より好きあっていた師匠の父と、その婚約者が結婚する事になり、師匠の父が家督を継ぐ事になったそうだ。

 そんな自由なマシューの曽祖父は、様々な国を旅して隣国で平民の娘を嫁に娶り腰を据え男児をもうけた。

 その後、マシューの曽祖父と折り合いの悪かった当主が他界し師匠の父が家督を継いだ数年後、ふらりと自分の家族を連れて遊びに帰ってきたのが、師匠とマシューの祖父の初めての出会いだったらしい。

 元々兄弟の仲は良く、ふらりと旅に出た後もこっそりお互いに連絡は取り合っていたそうだ。


 そのマシューの祖父は、孫の様子を見にきたと言う名目で、師匠が家に繋げた魔法陣を使い幾度となく酒を片手に遊びに来ている。

 いくら身内で、しかも友好国だとしても他国の人間が自由に出入りできるのは、他にばれたら不味いのではと思うのだが、そもそも師匠のテリトリーなのでその辺もぬかりない。

 それに、この家の魔法陣は通れる者が決まっており悪意あるものは弾かれる様になっているそうだ。


 マシューの祖父も師匠に負けず劣らずなんとも食えない人物で、人使いの荒い面倒な爺が二人も増えるとマシューの手だけでは足りず当たり前のように俺までこき使われる。

 昔からあの仲良し爺さん達の前では身分も何もあったものではないなと苦笑いを浮かべ、歯の弱い老人たちの為につまみの豆を柔らかく塩ゆでするのだ。

 硬すぎると飲み込めんと文句を言われ、柔らかすぎると不味いと怒られるので、豆の塩ゆでに関しては誰よりも上手くできる自信がある。

 豆を塩ゆでする皇子など、何処を探しても俺くらいだろう。城のものが知ればひっくり返りそうだ。

 ちなみに、師匠は豆に砂糖をまぶして食べるので小皿にたっぷりと砂糖を忘れず用意しなければならない。


 年寄り扱いをすると怒るくせに、都合のいい時だけ年寄りを労われと言うなんとも無茶苦茶な人達なので、さっさとつまみを用意して近寄らず酒につぶれて眠るまでマシューと別室に避難するのだ。

 大の甘党の師匠が先に辛党のマシューの祖父に潰されてしまうのだが、酒好きのくせにそこまで酒に強くないマシューの祖父も直ぐに顔を赤くして潰れてしまう。

 その酔いつぶれた爺さん達を風魔法でベッドまで運び放り込むまでが俺の役目になっており、爺さん達が飲み散らかした部屋を片付けるのは昔からマシューの仕事なのだ。

 幼い頃はマナー教育や皇子としての授業があったにも関わらず、昔からこんな雑な扱いだったので何の疑いもなく過ごしてきた。だが、流石に城へ迎え入れられた後に、周りの俺への扱いを見て、爺さん達の扱いの方が異常だった事に気づかされたのだ。

 けれど、息の詰まる城での生活よりも断然こちらの方が楽なので、今では何だかんだ言って爺さん達の我儘を聞くのも悪くないと思っている。

 そんな事を爺さん達に言ってしまうと、更に面倒ごとを増やされそうなので口が裂けても言わないが、マシュー辺りは口角を上げて豆を茹でる俺に気付いているだろう。


 結局はため息をつきながらも師匠の呼び出しのお陰で城から一時でも離れることができ、昔から変わらない彼らを前にして一息つけるのだ。

前回のお話の題名を変更致しました。

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