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石焼きパーティー

 ジュウジュウと肉の焼ける音が鳴り、食欲のそそる香りが広がった。


 鼻をひくひくと動かすペルーンが、肉の焼ける匂いで目を覚ます。


「クナァ〜ン」


「あら、やっと起きたのね。寝坊助さん」


『まったくこやつは、何も手伝っておらんのに良い所で目を覚ましよって!』


「ふふ、ほらそろそろ焼けそうよ」


 熱した石の表面に、ぱちぱちと油が跳ね肉が踊る。香ばしい香りに、よだれを垂らす聖獣達の前にバナの葉を敷いた。

 枝を使い何とか肉を裏返しながら、焼けた肉をそれぞれに配っていく。バルカンには大きなステーキを。

 ペルーンには好物のレバーを。

 自分の目の前には食べやすくスライスした肉を置く。


「さぁ、頂きましょうか!」


 飛びつく聖獣達に笑いながら、湯気の上がる熱々の肉に息を吹きかけ口に運ぶ。


「あつ、はふっ……ん〜っ!」


 この森に入って、今までにないくらい脂の乗った肉は、なんとジューシーで美味しい事か。噛むたびに脂の甘みが口いっぱいに広がる。

 シンプルに岩塩のみを振っただけの肉なのに、噛めば噛むほど旨味が溢れ出す。

 部位によっては柔らかく、そして歯応えのある肉に飽きがこない。少し獣臭いが、それさえも気にならない程美味しかった。


『石で焼く肉も中々美味いな!』


「クナァン!」


「ええ! 食べやすいし焼きむらもないから、どこを食べても美味しいわ」


 一応、味の変化にハーブを塗した肉も用意しており、聖獣達に配った肉の減り具合を見ながら、新しい肉を石の上に置いていく。


 真っ白な脂と真っ赤な肉のコントラストが美しい。皮を削ぐ時に、あれだけ脂を無駄にしたのに、それさえも忘れるほど分厚い脂を纏っている。

 ハーブを散らした肉は獣臭さをかき消して、ほんのりと鉱石猪の風味を残した。サイコロ状にカットした肉に緑色のハーブが良く映える。

 その横には、皮をむいた悲鳴根を焼き、狐色の焼き目がつくまで一緒に炒めた。

 岩塩を散らしてサイコロステーキと悲鳴根のソテーをバルカンの前に置くと目を輝かせる。


『ほぅ! 良い香りだ。これも美味そうだな!』


「クゥナッ!」


 ペルーンの前には更に小さくカットして、冷ましながら柔らかそうな肉と悲鳴根を並べた。

 美味い美味いと頬張る聖獣達を見て、恐る恐る悲鳴根をほんの少しだけ齧る。

 大根の様な、カブの様な、正しく根菜といった食感で、さっくりとした歯応えがある。ほんのりと甘みがあり若干ごぼうの様な独特な土の香りがした。

 癖のある鉱石猪とその香りがとてもよく合う。

 想像以上に美味しくて、小さく齧った悲鳴根をパクリとそのまま口に入れた。煮込むとトロトロになりそうな悲鳴根に、今度は絶対スープに入れてみようと、今度は悲鳴根の葉に手を伸ばす。

 青々とした葉は、若干の苦味があった。だが、この苦味も人によっては癖になる味だろう。

 もしかすると、塩ゆでにすると灰汁が出てもっと食べやすくなるかもしれない。


『悲鳴根の葉がまた良い味だ。この苦味が堪らん』


「グナゥ〜ッ!」


 案の定、バルカンは美味しそうに食べているが、ペルーンは口に入れた瞬間、小さな舌を出してペッペッと吐き出した。


「あらあら、ほら。ペルーンお水よ」


「クナァ〜ン……」


『なんだチビ。お前この美味さが分からんのか。やれやれ、これだから子供はいかん』


「グナ〜ゥ!」


 水筒の水を手に注ぎ、渋い顔をするペルーンの口元に持っていく。ペルーンが涙目になりながら必死にペロペロと水を舐める。

 そんなペルーンを見て、これ見よがしに悲鳴根の葉を堪能しながら、馬鹿にするバルカンにペルーンがむっすりと唸った。


「もう、バルカンはすぐからかうんだから。ほら、次のお肉が焼けたわ。二人ともお代わりはいらないの?」


『いるっ!』


「クナァ!」


「ふふ、はいどうぞ」


 流石に、こってりとした脂に飽きてきた頃、リモールを切って焼けた肉に振りかけた。爽やかな香りが広がり、少し胸焼け気味だった食欲が誘われる。


『肉にリモールをかけるとは……酸っぱくしてどうするのだ。信じられん』


「グゥナ……」


「あら! きっと美味しいはずよ?」


 疑いの目を向けてくる聖獣達をよそ目に、リモールの果汁と岩塩を振りかけた肉を頬張った。リモールの爽やかな酸味と香りが、こってりとした脂をさっぱりとしてくれる。

 これなら幾らでも食べられそうだ。


「さっぱりして美味しいわ! そろそろ脂に飽きていたのよね。これならついつい食べ過ぎてしまいそう!」


 焼けた肉をもう一枚石の上から取ると、くし形に切ったリモールをぎゅっと搾る。


『ゴホンッ』


リモールを搾った肉を、美味しそうに口に運ぶ私を見て、バルカンが態とらしく咳払いをした。

 ちらりとそちらに目を向けると、バルカンが何か言いたげに此方を見ている。膝の上にはペルーンの小さな肉球が触れ、物欲しそうに此方をじっと上目で見つめていた。


「ふふふっ、リモール試してみる?」


『あぁ! ゴホンッ……メリッサがそう言うなら仕方ない。試してやろう』


「クナァ〜ン!」


「ええ、そうね。是非食べてもらいたいわ。ふふふっ」


 素直じゃないバルカンと、素直に喜ぶペルーンに笑いながら焼き立ての肉にリモールをかけてやる。クンクンと鼻をひくつかせ注意深く匂いを嗅いだ後、意を決して肉にかぶりついたバルカンが目を見開いた。

 やはり酸っぱいのは苦手だったかと、ムシャムシャと無言で口を動かしている聖獣達の様子を伺う。

ごくんと音を鳴らし肉を飲み込んだバルカンが、目を輝かせベロリと口の周りを舐めとった。


『うまいっ! リモールは酸っぱいだけかと思っておったが、脂身の多い肉に良く合うな!』


「クゥナァッ!」


「ふふ、気に入ってもらえて良かったわ! お料理に使うと、この酸味もアクセントになって良いでしょう?」


『ああ、これなら幾らでも入る! さぁ、メリッサ。肉をどんどん焼くのだ!』


 聖獣達の食欲に火をつけてしまったようで、お代わりを何度もせがまれ、せっせと肉を焼くのに忙しい。

 もう一匹の切り分けていない皮つきの鉱石猪に、チラリと目を向けたバルカンを見て、慌てて流石に食べ過ぎだと注意するのだった。

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