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鉱石猪の解体

解体シーンでグロテスクな表現や、腸の内容物を処理するシーンがあります。

苦手な方やお食事中の方はご注意下さい。

 大きな二匹の鉱石猪を目の前に、どうやって解体しようか頭を悩ませる。


『下巻』には三通り解体の方法が書いてあった。一つ目は、表面を覆う鉱石を外して、その下に生えている毛に湯をかけ毟る方法。

 二つ目は、毛を全て焼き切る方法。どちらも皮を残し最後に内臓を取り出す。

 そして最後の三つ目は、先に腹を切り内臓を取り出してから、鉱石をつけたまま皮を一緒に剥ぎ取る方法だ。


 湯をかけながら毛を毟るのは、火蜥蜴の皮で作った手袋をしてからでないと毟りにくい上に火傷をしてしまうらしい。まず火蜥蜴の手袋を持っていないので、この方法は除外した。


 残るは鉱石を外して毛を焼き切るか、皮ごと剥いでしまうかだ。


 今日は一匹解体し、もう一匹は内臓を取り出すだけにとどめるつもりだったが、そうすると皮を剥ぎ取る方法になってしまう。

 確か皮付きの方が日持ちもすると『下巻』に書いてあったので、やはり明日解体する方は、鉱石を外して皮を残し内臓だけ処理をしようと大きな魔物の体を覆う鉱石を触る。

 鉱石を掴んで爪を立ててもビクともしない。ナイフを隙間に差し込んでも難しく、特に最初の一個を外すのが中々大変そうだ。

 その上、処理する段階が多いので、取り敢えず今日食べる方は鉱石ごと皮を剥いでしまおうと、隣で横たわる小さい鉱石猪をみた。


「今日はメスの方を食べましょうか」


『ああ、そうだな脂がのって美味そうだ』


 バルカンに首をかき切られたメスの腹を触ると、毛が露出した首元から尻の先まで真っ直ぐ鉱石の継ぎ目が見えた。

 そこにナイフをそっと入れ皮を切って行く。切れ味の良いナイフを深くまで刺して内臓を傷つけない様、少しずつ何度もナイフを滑らせると、真っ白な脂肪が露出した。

 カリカリと肋骨がナイフに当たる音が鳴り、手に骨のでこぼこした感覚がつたわる。


「肋骨を開くからお腹が上に向く様に支えてくれる?」


『わかった。こうで良いか?』


「ええ、ありがとう」


 バルカンに大きな鉱石猪を支えてもらい、見やすくなった腹を立ち上がって覗き込む。切れ味の良いナイフで慎重に、肋骨の継ぎ目を切っていく。

 段々薄いピンクがかった脂が見え、パキリパキリと音を鳴らし閉じられた肋骨の継ぎ目が外れる。ぱかりと開いた腹から、どっぷり詰まった内臓が顔をだした。


「うわぁ……やっぱり大きいと内臓も凄いわね……」


 三つ眼鳥や口裂け兎で、内臓の処理は慣れてきていたが、今までで一番大きな魔物は内臓の質量も衝撃的だ。


 重量あるそれに若干戸惑いながらも、尻の先までナイフを入れて、鉱石猪に乗り上げるようにして腹の中に手を差し込む。

 でろんと手に絡まる内臓を掻き分け、貼り付く筋を断ち切ると、両手でそれをずるずると引きずりだした。こぼれ落ちそうな内臓を掴み直し、川の中に石を積み上げ作った囲いの中に放り込む。

 囲いの中の水が血で赤く濁り、一瞬にして新たな川の水に押し流され透明になっていった。


 開いた腹の中に水をかけ、残りの血を洗い流すと、休まず皮と脂の間にナイフを入れ少しずつ鉱石のついた皮を剥いでいく。


「バルカン、ここを咥えて引っ張ってくれる?」


『うむ』


 皮が掴めるくらい剥がれた所で、バルカンにそこを咥えてもらい、ピンと張るくらい引っ張ってもらう。引っ張られる皮と脂の境目を削ぐようにナイフを入れる。

 三つ眼鳥や口裂け兎とは比べ物にならないくらい脂が乗っており、何度もバナの葉でナイフの脂を拭き取った。


「あっ、まただわ……なかなか難しいわね」


 脂をできるだけ肉に残すようにと『下巻』に書いてあったが、力加減を誤ったりナイフを入れる位置がずれたりと皮の方に脂を多く残してしまい、所々でこぼことした切り口になってしまう。

 ただ、バルカンが引っ張ってくれるお陰で削ぎやすく、思っていたよりも早く作業が進んだ。脚先と肉が剥き出しになった首にナイフを力一杯振り下ろす。

 脂で汚れても切れ味の変わらないナイフで、頭部を切り落とし、ごとりと鈍い音が川辺に響く。やっとの事で肉の塊になった鉱石猪を見ながら腰を叩いた。


「ふぅ〜、バルカンが手伝ってくれたから思ったより早く終わったわ。次はお肉の部位を切り取らなきゃ……オスの方はやっぱり鉱石を剥がすのが大変そうだし同じように処理をしようかしら」


『なんだ、こんな物すぐに取れるぞ』


 メスよりも三回りほど大きなそれを見て溜息をついていると、バルカンが鉱石猪を爪で引っ掻き背中にある一番大きな鉱石をバリッと毟り取った。


「えっ、そんな簡単に!?……そうだわ……そう言えば岩も割れるほどバルカンの爪は鋭いのだった。さっき間近で見たのに失念していたわ……」

 

 鉱石猪のメスの大きさに驚きすっかりその事が抜け落ちてしまっていた。

 それならここまで時間をかけずとも良かったのではと、目の前の肉の塊をみて溜息をつきかけ、グッと堪えて飲み込んだ。

 何事も経験が必要だと頭を振り、これも良い機会だったのかもしれないとナイフを握り直した。


 むしりむしりと簡単に鉱石を外していくバルカンに、オスの鉱石猪は任せて、剥き身にした塊を捌いていく。三つ眼鳥よりも大きなそれに四苦八苦しながら、関節に沿って脚を切り落とした。


『鉱石を全部外したぞ。次はどうする?』


「えっ、もう!?」


 バナの葉を何枚も重ねた皿に、やっと切り離した前脚を二本置いた頃で、バルカンに声をかけられる。驚いて振り向けば、所々毛の抜けた無防備な鉱石猪の姿があった。

 鎧の様な鉱石を剥がしてしまえば、大きさは異常だが普通の猪とあまりかわりない。


「それじゃあ、毛を焼いてもらって良いかしら? 表面だけ焼いて欲しいの……お肉が焼けてしまわない様に気をつけてね」


『うむ、任せろ。そんな事、朝飯前だ!』


 ただの丸焼きになるのではと心配したが、優しく蝋燭の火を消す様にバルカンが息を吐くと、緩やかな炎が鉱石猪を包み、毛をチリチリと焼いていく。


 血生臭い匂いとはまた別の、毛の焼ける独特の匂いを感じながら、急いで自分の作業を進めたのだった。


 バナの葉の上に切り離した部位を並べ、今度はバルカンが毛を焼き払ってくれた鉱石猪に、川の水をかけて洗う。

 つるんと毛のない薄ピンク色の肌が露出し、まるで家畜の豚の様だ。メスと同様腹を裂いて内臓を取り出すと、肝臓に張り付く胆嚢の色を確認する。

 悲鳴根を食べたばかりの鉱石猪は胆嚢が真っ青で、そうなると肝臓に毒をたんまりと蓄えているのでレバーだけは食べれないそうだ。

 肉には毒が回っておらず、肝臓だけ捨てれば問題ないそうで、そもそも生きていれば数時間後には胆嚢が緑色に戻り肝臓も食べられる様になるのだとか。


 幸いどちらの鉱石猪も胆嚢の色が緑色だ。肝臓に張り付く胆嚢を傷つけないように切り取った。

 この胆嚢を破いてしまうと毒有り無しに関わらず肝臓が苦くて食べれなくなるそうだ。

 心臓にある大きな魔石を切り離し肝臓と共に中の固まった血を洗う。少しでも獣臭さが取れる様、バナの葉に乗せずそのまま囲いの中の流水に漬け込んだ。


「さてと……」


 今まで捌いてきた魔物達の場合、残りの臓器は捨ててきたのだが、『下巻』に腸も美味しく保存食を作るのに最適と書いてあった為、今回はこの縄の様に長い臓器も処理をする。

 ただ、明らかに詰まっている内容物を見て手を止める。どうにも中身を処理する事を考えると躊躇してしまうのだ。

 それに、処理ができたとしても、果たして食べる気が起きるのか。むしろ食欲自体無くして先程解体した肉すらも食べれなくなりそうだ。


「ううっ……」


 先程、何事も経験だと奮起したばかりの心が下を向きそうで、このままでは駄目だと唇を噛んで腸を掴んだ。

 川の下流に行き、目を瞑ってしごくように腸の内容物を思い切って絞り出す。ぼたんぼたんと音が聞こえ息を止めた。

 音が止んでそっと目を開けると川に流されて内容物が消えており、ホッと息を吐く。

 流れの強い浅瀬で腸の端を引っ張り、筒の中に水を流すと、長い腸が蛇の様にうねりを作って川の中を泳ぐ。

 最終的にひっくり返してじゃぶじゃぶと洗い、完全に汚れが落ちた所で、岩塩を削り塩揉みをして洗うを繰り返し、最終的にたっぷりの削った岩塩を塗してバナの葉で包んだ。

 腸を水の中で洗い川の流れに沿って、内容物がすぐさま遠くへ流れて行ったお陰か、キツイ匂いを感じる事なく済んだ事が良かったのか、思っていたよりダメージが少ない。


 石釜を作りながら薪を集めていた最中、丁度見つけたシャボンの実で手を念入りに洗うと、やっと一息ついたのだった。

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