この二人は戦うのが定め
前回のあらすじ
☆TA☆KE☆SHI☆
以上
人物紹介
ゲームマスター側
Mr.X 殺し合いサバイバルゲームのゲームマスター、本名は田中。機械音痴。
助手 Mr.Xの助手。Mr.Xの部下だがときどきMr.Xを呼び捨てで呼ぶ。
ボス ボスはボスでボス以外の何者でもない
プレイヤー
萩山レンジ (ニート)高校を中卒後、就職が決まらずそのままニートになった。家に帰っても居場所がないため家に帰りたがらない。
月宮カグヤ (JK) 女子高生。Mr.Xから支給された携帯を即行で無くしたドジっ子。
天城ショウタ (ショタ)7歳のショタ。虐待を受けて育って来たために家に帰りたがらない。
平間和也 (イケメン) 24歳のイケメン。島が気に入ったので家に帰りたがらない。
西谷マキ (アパレル) アパレルショップで働いていたが、親が残した借金が返せず、日々取り立てに追われていたので家に帰りたがらない。
小坂慎太郎 (係長) 年頃の娘と妻を持つ係長。娘から一緒の洗濯機で下着洗いたくないと言われたのがショックだったのか、家に居場所がないと感じて家に帰りたがらない。
黒崎サナエ (ビッチ) 大学生のクソビッチ。イケメンを好きになったために家に帰りたがらない。
鬼塚ケイ (犯罪者) 犯罪を犯し、警察に追われていたところを拉致された。シャバにいるより島の方が安全と判断して家に帰りたがらない。
石川哲也 (おじいちゃん)89歳のおじいちゃん。昨年ひ孫の顔も見れたのでもう現世に思い残すこともなく、少なくとも人を殺してまで家に帰ろうとはしない。
エンジェル プレイヤー達の殺し合いを阻止すべく動く謎の人物
その他
タケシ 黒崎サナエ(ビッチ)の彼氏と思われる人物。頑張れ、タケシ。
兄貴 タケシが襲ったヤクザの舎弟頭的な存在のインテリヤクザ。鬼塚ケイを探し出し、殺すことを目的としている。
助手「ふっふっふ…」
助手は2枚の書類を見ながら不敵な笑いを浮かべていた。
助手「これで…これでエンジェルの野望も崩れる。我々の天下となる」
助手はボスから3週間以内に成果を出せと言われてから3日間、一睡もせずになんとかプレイヤー達を殺し合いをさせるようにする術を模索していた。
そして必死の捜索の成果としてとある二つの情報を手に入れたのだ。
不眠のためか、おぼつかない足取りでモニタールームに入った助手の目にMr.Xが誰かと電話している光景が目に入る。
Mr.X「ごめんな、ショタ君。おじさんが不甲斐ないせいで食料をもう送れなくなってしまったんだ。そのせいでショタ君にはひもじい思いをさせてしまうだろう。ごめんな、こんな無力なおじさんを怨んでくれてもかまわん」
ショタ「大丈夫だよ、おじさん。島のお兄ちゃん達がなんとかしてくれるから心配ないよ。それに僕はおじさんを怨んだりなんてしないよ。おじさんが良い人だって僕は知ってるからさ」
Mr.X「うぅ、ショタくうううううん…」
助手「………」
Mr.Xが涙ながらに電話をしていると、助手は無言で通話を強制的に終了させた。
Mr.X「な、なにをする!?。私とショタ君の電話を邪魔するとは、どういうことだ!?」
助手「眠気覚ましにコーヒー入りますか?」
助手は先日Mr.Xにぶっかけたインスタントコーヒーを見せながら笑顔で尋ねた。
Mr.X「…もしかして、怒ってる?」
助手「いえ、怒ってないですよ。ただ、3日間も寝ずに働いてて寝不足なので、寝ぼけてカップと田中さんの頭を間違えてお湯を注ぎそうで…」
Mr.X「ごめん、怒ってるんだね。君が笑顔の時はだいたい怒ってる時だもんね」
助手「分かればいいんです」
Mr.X「それで、その資料はなんだ?」
Mr.Xは助手が持っていた紙を指差して尋ねた。
助手「これですか?。これはですね…とうとう手に入れたんですよ。プレイヤー達に殺し合いをさせる引き金となる情報を」
Mr.X「ほお?」
助手「さっそくですが、小坂慎太郎に…係長に電話をしてください。それと萩山レンジに…ニートにも連絡を…」
妻と結婚したのは20年前のことだった。
あの頃の妻は可愛かった。
細くて白い華奢な身体で初々しい妻はキスをせがめば頬を赤くして、瞳を閉じてそれに答えてくれた。
そんな妻が変わり始めたのは結婚してから3年目。
ちょうど娘が生まれた時くらいからだった。
娘が生まれ、守るべき人が出来てから、妻は変わりだした。
妊娠太りの巨漢な身体で太々しい妻はキスをせがめば目を白くして、瞳で絶対嫌と答えてくれた。
妻はあの頃とは変わってしまったが、別にそれでも良かった。
妻に守るべき人が出来たと同時に、僕にも守るべき人が出来たからだ。
あの頃の娘は可愛かった。
家に帰れば満面の笑みで出迎えてくれ、ことあるごとにお父さんのお嫁さんになると言ってくれた。
そんな娘のために仕事を頑張ることが出来た。
週休、残業手当なしの月40日労働のブラックオブブラックのダークネス企業であったが、娘のためを思えば1ヶ月を40日にすることくらいなんということはなかった。
そんな娘が変わり始めたのは中学生くらいのとき。
だんだん家に帰ったときの娘の出迎えの対応が煩雑になって行く中、ある日突然この言葉を突きつけられた。
娘「お父さんの下着を一緒に洗わないで欲しい」
そのとき、僕の中でなにかが砕けた。
その翌日、10年以上積み重なった心労が牙を向いてきた。
月40日労働という時空を歪めるほどの過酷な労働は、こうして過労という目に見える形となって僕を襲った。
しばらく働けなくなったため、代わりに妻が働き出した。
一家の大黒柱を失った重圧のためか、それとも妻に元々あった才能のおかげか…妻は仕事で成功を収めた。
僕の体が回復して再び働けるようになった頃には、妻は僕の何倍も稼ぐようになっていた。
もはや父親としての尊厳は全てなくなっていたが、それでも私は娘を愛していた。
だが、娘はきっと…私のことを必要としてないだろう。
そういう経緯があってか、この島での生活は快適であった。
社会に服して来たいままでとは違い、気持ちが楽だった。
大黒柱として誰かを支える必要も、働くといつ義務もここには無いから…。
誰かを支える資格も無い僕には、ぴったりの場所なのだ。
ただ…そんな無能な僕でも、娘にしてやれることはもう無いのかと、ときどき考えてしまう。
Mr.Xから電話が来たのはその最中であった。
係長「もしもし?」
Mr.X「私だ。どうかな?島の生活は」
黒いガラケーからはヘリウムガスによって甲高くなったMr.Xの声がした。
係長「良い島ですよ、ほんとうに」
Mr.X「それはなによりだ。ところで…久しぶりに娘の姿を拝みたく無いか?」
係長「娘ですか?。そりゃあ拝みたいですけど…」
Mr.X「実は今回、我々は最新のお前の娘の写真を入手してな…今回は特別に見せてやろう」
Mr.Xはそう言うとしばらく無言になり、その後、携帯からMr.Xが小声で『写メってどうやって送るの?』と誰かに聞いている声が聞こえてきた。
そしてその2.3分後…
Mr.X「ふっふっふ、いまお前の携帯に娘の写メを送ったぞ。…ちゃんと届いているか?。大丈夫か?。心配だからもう一回送った方がいいかな?」
だんだん不安な声になっていくMr.Xを尻目に、係長はメールをチェックした。
係長「あ、大丈夫ですよ。ちゃんと届いてますよ」
Mr.X「そうか、それは良かった。ほんとうに良かった。これで私も写メを送れるようになったぞ!。さっそくショタ君になにか写メ送りたいな」
Mr.Xは通話相手の係長の事など忘れ、本音がダダ漏れていた。
Mr.X「あ、いまのは聞かなかったことにしてくれ」
係長「あ、はい…」
Mr.X「それはそうと、その写メを見てみるといい。それがお前の娘の今の姿だ!はっはっはっは!。……………さてと、ショタ君に猫の写メでも送ろう」
Mr.Xは最後にそんなことを言い残して通話を切った。
係長はなぜ娘の写メを送ってきたのか不思議に思ったが、とりあえず見てみることにした。
その写メは一枚のプリクラを写していた。
だが、ただのプリクラではない。
ガン黒に焼けた肌に真っ黄色な金髪をまとったいかにもなギャルと無駄に気合の入った剃り込みが刻まれた頭でグラサンをかけたザ・チンピラが仲睦まじく写っていたのだ。
係長はしばらくそこに写っていたギャルが自分の愛娘であることに気がつくことが出来なかった。
それもそのはず、自分が知っている娘はもっと清純で大人しい子であったからだ。
これが僕の娘?。
いや、違う!これは違う!こんなのが娘なわけがない!!。
なんども自分の娘であることを否定しようとしたが、見れば見るほど自分の娘であることが分かってしまう。
なにかの間違いだ!!娘がこんな汚らわしい汚物になるはずがない!!。
誰かが娘をそそのかしたのだ!!そうに違いない!!。
では、いったい誰が?。
そんなのは決まっている、この写メに一緒に写っているチンピラだ!!。
こいつにそそのかされて娘はこんな化け物に変わってしまったんだ!!。
…こうしてはいれない。こんな島での呑気に暮らしている場合ではない。
一刻も早く家に帰って娘の目を覚まさねば!!
そのためには…
ふと、視線を上げると、そこには晩御飯の支度などに利用しているサバイバルナイフが置いてあった。
興奮で震える腕をナイフに手を伸ばし、少しためらったのちに、力強くナイフを握りしめた。
係長「…殺るしかない」
一方、時を同じくして…
ニートはいつも通り、昼間にも関わらず眠っていた。
そんなニートの傍で黒い携帯電話がけたたましく鳴り響く。
だがニートは無視して眠っていた。
これが13回目の着信であったが、無視して寝ていた。
ようやく着信音が鳴り止み、静寂が訪れてニートが横になりながら安堵したが、その直後、14回目の着信音が鳴り響いた。
さすがのニートも無視することが出来ずに電話に出ることにした。
ニート「何回も電話しやかって…。いま何時だと思ってんだよ!?」
Mr.X「昼の3時。さすがに寝過ぎじゃないか?」
ニート「ここんところ数日、ずっと強制労働させられてて、ようやく休日をもらえたんだぞ?。今日くらい寝かせてくれよ」
Mr.X「ふっふっふ、そんなことを言っていていいのかな?。今日はお前に耳寄りな情報を持って来たのだぞ?」
ニート「耳寄りな情報?。もしかして俺のことが好きな美少女が名乗り出できたとか?」
Mr.X「…一つ聞くが、女性から見た時のお前の魅力ってなにかあるのか?」
ニート「母性心をくすぐるヒモ人間なところとか」
Mr.X「あぁ、うん…そうだね。それはそうと、お前、以前2次元の嫁がいるとか言っていなかったか?」
ニート「違う、彼女は二次元などではない!!恥ずかしがって画面から出れないだけだ!!」
Mr.X「もうお前がそう思うのならそれでいいよ。それで…その嫁の名前はレイラと言ったっけ?。そのレイラが出てくるアニメ…えっとタイトルはなんだったっけ…」
ニート「吸血系晴天魔法少女レイニーレイラだ」
Mr.X「そうそう、その吸血系晴天…なにこのタイトル?。晴天なの?レイニーなの?」
ニート「主人公のレイラは人類の天敵であるドラキュラを唯一の弱点である太陽の光を自在に操ることができる魔法少女なのだが、敵の罠に嵌められて彼女自身もまたドラキュラとなってしまうが、人々をドラキュラから守るために自身の弱点でもある太陽の光を操って命を削りながらドラキュラと戦う物語だ」
Mr.X「あ、へぇ…普通に面白そう」
ニート「特に第47話でレイラがドラキュラであることが一般人にバレて、いままで命を削って守ってきた人々から迫害され、それでも人類を守るために戦うレイラに親友が『どうしてそれでも人を守るために戦うんだ?』と聞いたときの返しの一言はアニメ史に残る至高の名言であった!!」
Mr.X「へえ、なんて言ったの?」
ニート「それはぜひDVDを買って自分で確かめて欲しい!!」
Mr.X「そこで勿体振るんだ…」
ニート「それだけじゃないぞ、レイラはな…」
Mr.X「それで、その吸血系晴天魔法少女レイニーレイラの話なのだが…」
ニート「ん?なんだ?言ってみろ。俺はいままで発売されたレイニーレイラ関連の物は全て観賞用、保存用、布教用に買ってあるからな、答えられないことはないぞ」
Mr.X「実は先日、そのアニメのブルーレイ版が発売させることになったのだ」
ニート「なんだと!!」
Mr.X「しかもな…初回限定版予約特典にスペシャルポスターも付いてくるらしいぞ」
ニート「初回限定版予約特典だと!?。それはぜひ購入せねばならぬな!!」
Mr.X「ふっふっふ、そうだろう。ヒキニートのお前なら喉から手が出るほど欲しい一品のはずだ。…だが、どうやって買うのかな?」
ニート「…はっ!」
Mr.X「そう、いまのお前はこの何もない無人島での生活を強いられている。そんなお前がどうやって購入するというのだ?」
ニート「………」
Mr.X「お前が初回限定版予約特典を手に入れる方法はだだ一つ!他のプレイヤーを殺し、この島で生き残るしかないのだ!!」
ニート「そ、そんな…」
Mr.X「さあ、嫁のために立ち上がれ!!ニートよ!!」
こうして、島に二つの新たな脅威が現れた。
愛しの娘のためにナイフを握りしめる父親と、愛する嫁のために拳を握りしめるニートの壮絶な戦いが、いま始まろうとしていた。
おまけ
吸血系晴天魔法少女レイニーレイラ47話のニートが言っていたシーン。
人々に襲いかかる吸血鬼という脅威から人を守るためにレイラはまた魔法で光を操り吸血鬼たちを撃退させた。
吸血鬼の弱点である日光が吸血鬼に当たると、その部分が灰となる。
しかしそれは吸血鬼となってしまったレイラも同じ…。
彼女は自身の魔法で体をボロボロにしながらも、命を懸けて、戦った。
彼女が吸血鬼であると知ったがために、彼女を迫害した人間を守るために…。
あなたは彼らが憎くないの?
いままでさんざん守って来たのに、正体が吸血鬼であることを知った途端に掌を返して、迫害されたんだよ?
それなのにどうしてあなたは身を削って戦うの?命を懸けて守るの?。
吸血鬼にも、人間の中にも居場所がない君だから、せめて私だけは君を理解してあげたい。
だから教えて欲しい、どうか答えて欲しい。
親友「レイラ、どうして君はそれでも人を守るために戦うの?」
先ほどまで戦場であった荒野で1人佇み、空を見上げるレイラに私は尋ねた。
僕に背を向けていたため、その表情を読み取ることは出来なかったが、彼女から漂う神秘的な雰囲気からなにか特別な思いを抱えていることだけはわかった。
それは怒りなのか、悲しみなのか、それとも…。
やがてゆっくりとこちらを振り向き、私の目をまっすぐ見つめた。
彼女の淡く光る青い瞳に私が写るのが見えた。
それはまるで、その瞳の奥に抱える思いを秘匿するために生み出された鏡のように思えた。
どんな敵からもその思いが見えないように、悟られないように…。
だけど、私はあなたの敵じゃない、どんなことがあってもあなたの味方。
だから教えて、レイラ。
あなたの抱える全てを…。
そして、私の思いに応えるかのように重く閉じた口が開かれ、彼女はその言葉を口にした。
レイラ「ごめ〜ん☆聞こえなかったからもう一回言って☆」
親友「…この流れでそれはないでしょ!?」