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つまり養ってくれるってことですか?  作者: なおほゆよ
番外編
51/52

託されたパンドラボックス

今回は最初のデスゲームが終わった直後の話。具体的には39話の後の話。



人物紹介


石川 (おじいちゃん) 最初のデスゲームのMr.Xをやっていた人物。今回はこの人目線の話。2回目のデスゲームでニート達と共にプレイヤーとなったが、持病を悪化させて亡くなった人物。2回目のデスゲームの唯一の犠牲者。


レンジ のちのニート。当時12歳。


ボス デスゲームの最高責任者的な存在。


田中 言わずと知れた人物。続編では死にます(ネタバレ)。

狂うような暑さだったあの夏の日…5年という歳月に渡って続いたデスゲームが唐突に終わりを告げた。


デスゲームに勝利したのは萩山レンジ、当時12歳の小さな少年であった。


デスゲームの管理人という立場ではあったが、5年に渡って彼の成長を見守ってきた私にとって、もはや彼は他人ではなく、孫のような存在であった。


そんな彼はデスゲームに勝利し、この島を脱出するがために自分の体ほどの大きさのジュラルミンケースを大事そうに抱えながら私が運転するヘリに乗って揺られていた。


念願の島からの脱出…だが、彼の顔は決して浮かれてなどいなかった。


当然と言えば当然だ。なぜならば、彼は勝利と引き換えに最愛の人が目の前で死んでしまったのだから…。


私も彼を励ましたいが、かける言葉も見つからない。…そもそも、私にそんな資格も無い。


いずれはこうなることは分かっていた。それでも世界の未来のためと、覚悟を決めていた。


だが…これではあまりにも酷すぎる。


こんな悲劇で…いったい誰が救われるというのだ…。誰が守られたというのだ…。


せめて…誰かが報われて欲しい。この悲劇が、決して無意味でなかったと誰かに証明して欲しい。この胸に抱える罪悪感を少しでも払拭するために、誰がに報われて欲しい。


石川「レンジ君よ、あまり悲しまないでくれ。島を出た君にはこれから、いろんな楽しいことが…嬉しいことがたくさん待っているんだ。だから…だから…せめて君は笑って欲しい」


私というのは、実に醜い生き物だ。


私の贖罪をこんな小さな子供に託そうとしている。


本当に…醜い生き物だ。


レンジ「…いらないよ、もう何もいらない。みんながいてくれたなら…それだけでいい…」


石川「私のせいだ…全部私が悪い。だから私を恨んでくれ。そして、いつか報いてくれ…」


レンジ「違う、石川のおじちゃんは悪くない。悪いのは、僕だ。僕にもっと力があれば、みんなを守れた!。僕がもっと強ければ、みんなで笑って過ごせた!!。僕がもっと!もっともっと!!もっともっともっと特別な力があれば!!!」


石川「それは違うよ、レンジ君。例え君がどれだけ強かったとしても、結局はこうなってしまったと思う。むしろ君は良くやった、君がいなければ、誰も笑って過ごすことも出来なかったさ。君のおかげできっとみんな報われたさ」


レンジ「そんなことはない!!もっと上手に出来たはずだ!!もっと方法があったはずだ!!もっと…みんなといられたはずなんだ…」


私は彼の瞳から溢れ出す涙を止められなかった。


彼を慰めることも、励ますこともできない私はただただ自分の無力を思い知らされた。


レンジ「でも…もういいんだ。もう終わったんだ。もう…どうでもいいんだ…」


そう言うと彼は大事そうに抱えていたジュラルミンケースを私に渡して来た。


レンジ「お願い、石川のおじちゃん。僕は…俺はもう、疲れたよ」


その後、島から脱出した彼は記憶を消去されたのち、両親の待つ家に帰された。







ボス「…随分とやつれてますね、Mr.X」


石川「…さすがに疲れたんだよ」


とあるオフィスの一角で、ボスは石川に声をかけた。


ボス「5年ですか…随分と時間がかかりましたね」


石川「…そうだな」


ボス「ですが、感傷に浸ってばかりではいけませんよ。すぐにでも次のデスゲームの準備に取り掛からなければ…」


石川「…なぁ、このデスゲームは本当に間違ってなかったのか?」


ボス「それは…難しい質問ですね。まずあなたの言った『間違う』とはどういう意味なのか?」


石川「それは…なんとなく分かるだろ?」


ボス「ええ、なんとなくは分かります。ですがそれを『間違う』のひと言で言われましても定義が曖昧すぎて少なからず語弊が生まれます。物事を話し合うのならば、まずはテーマの定義をはっきりさせなければ、同じことを話し合っているはずなのに、ちょっとしたいざこざが発生してしまいます。同じ土俵に立って、同じ議題を話し合うためにも、まずは大切なテーマをはっきりさせましょう」


石川「まぁ…確かにその通りだな」


ボス「それを踏まえた上で、あなたの先ほどの質問は『このデスゲームによって得た物によって、我々はそれに見合う以上の成果を出すことが出来るか?』という解釈をさせていただいてよろしいでしょうか?」


石川「そうだな」


ボス「それでしたら結論としましては『分からない。だが、それでも成果を出すのが我々の義務だ』というものが私の回答ですね」


石川「どういう意味だ?」


ボス「要するに…今後の我々の努力次第というわけです」


石川「だが、その努力のためにさらに犠牲を重ねるというのか?」


ボス「必要経費です、割り切ってください」


石川「そんなことが許されるわけが…」


ボス「…鉄道の線路上で作業をしている5人の作業員の元に一つの電車が迫って来てます。ですが、彼らは作業に集中して電車が迫っていることに気が付かず、このままでは衝突は避けられません。彼らを救うにはあなたの目の前にある路線の切り替えのレバーを押すしかありません。しかし、路線を切り替えると切り替えた先の路線で一人の作業員が作業しています。彼も作業に没頭しているため、路線を切り替えたら電車の衝突は避けられないでしょう。さて、こんな状況になった時、あなたはレバーを押しますか?押しませんか?」


石川「…それは?」


ボス「有名な心理テストの一つです。要するに、レバーを押して5人を守るために1人を犠牲にするか、それともレバーを押さずに5人を見殺しにするかという質問です。もちろん、心理テストなので例外は存在しません。あなたならこの二択、どうしますか?」


石川「う、うーん…」


ボス「悩むのも無理はありません。このテストに誰もが納得するような模範解答は現在のところ存在しませんから。要するに、正解など無いんです」


石川「まぁ、そうだろうな」


ボス「問題は我々が実際にそういう状況に遭遇した時にどうするかです。もちろん、実際は心理テストとは違って第3の選択も存在するでしょう。しかし、時間は待ってくれませんからね。世界を守るために真っ先にレバーを押す、そしてその結果を最善の成果につなげる…それが私達の仕事です」


石川「…冷酷だな」


ボス「そうですね。…ところで、あなたが先ほどから持っている大きなジュラルミンケースはなんなんですか?。なにか生臭い匂いがしますが…」


石川「ああ、レンジ君に託されたものだ。おそらく、島から何かを持ち出したのだろう」


ボス「中身は?」


石川「そういえば…まだ見ていなかったな」


中身が気になった私はケースを開けると、そこには大きく真っ赤に染まった麻袋が入っていた。


そしてその麻袋の中を見た私の目に飛び込んで来たのは、デスゲームの凄惨さを物語るかのような真っ赤な血、誰も救われなかった絶望を掻き立てるかのような如月薫の生首…そして…。


一瞬で全てを察した私は誰にも見られぬよう、一目散にケースを閉じた。


ボス「…なにが入っていたのですか?」


石川「…如月薫の遺体だ」


ボス「なるほど、せめて親愛なる姉の遺体だけでも…と、いうことですね」


石川「そうだな」


一刻も早くこの場を離れなければと考えた私はジュラルミンケースを大事そうに抱えてその場を立ち去ろうとした。


ボス「どこに行くのですか?」


石川「…受け継いだ意志にせめて報いたいのだ」


ボス「…なるほど、せめて埋葬したいということですね」


石川「…そうだ。それじゃあ失礼する」


そう言って私はそそくさとその場を去ろうとした…が、最後に振り返りボスに話しかけた。


石川「中山よ、お前なら迷いも、自責も、戸惑いも無くレバーを押せるだろ。お前は冷酷だ。だが、それでいい。私は絶望の中でそれでも希望を探してみせよう」


そして私はその場を後にした。


ボス「迷いも、自責も、戸惑いも無く…ですか。そんな冷酷という名の才能があれば…私も少しは報われるのですがね…」


ボスがぼそりと呟いたその言葉が、私の耳に届くことはなかった。








それから3年後、とある知らせを聞いた私はボスの元に駆け付けた。


石川「萩山レンジを再びデスゲームに参加させるとはどういうことですか!?」


そう、萩山レンジをこれから始まる2回目のデスゲームに参加させると聞いた私はボスに抗議するべく、ここに来たのだ。


ボス「そのままの意味です。前回のデスゲームに参加した彼なら、良いデータが取れるでしょうから」


石川「彼の人生は一度大きく狂わされたのだ!!それなのに、まだ彼に苦しめと言うのか!?」


ボス「えぇ、大義のためなら、私は何度でも彼を苦しめますよ」


石川「くそっ…そうだな、お前はそういう奴だよな。…だったら、ワシもデスゲームに参加させろ!!」


ボス「あなたを?デスゲームに?」


石川「そうだ!私にそのくらいの権利があっても良いはずだ!!」


ボス「ですが…あなたには持病もありますし…」


石川「どうせ死にゆく命だ!構わん!」


ボス「…デスゲームに参加するとなると、記憶は消させていただきますよ?」


石川「構わん、承知の上だ」


ボス「分かりました。あなたを次のデスゲームに参加させるように手配しましょう」


石川「恩にきる」


ボス「ですが…記憶を消されたあなたに、そこで何か出来るというのですか?」


石川「…時というものは残酷なものでな、歳を重ねるごとに自分の出来ることの限度というものが見えてくるのだ。ハッキリ言って、ワシがデスゲームに参加したところで結果に大きな違いはないだろう」


ボス「でしたら…なぜ?」


石川「大したことではないさ。ただ、彼らの物語を見守っていたいだけだ…今度は、もっと近くでな」


ボス「そうですか。…まぁ、あなたらしいですね。では、早速記憶の消去をさせていただきます」


ボスがそういうと、SPのような取り巻きが石川をどこかへ連れて行った。


それと入れ違いになるように、一人の男がボスの部屋に入って来た。


田中「ワシを呼んだらしいが…何の用だ?」


ボス「ちょうど良いところに来ました。これより、Mr.Xの座をあなたに託します」


田中「…は?Mr.X?」


ボス「えぇ、これまで研究者として優秀な結果を納めてきたあなたなら、きっと務まると思います」


田中「ちょっと待て、そもそもMr.Xとは一体なんだ?」


ボス「そうですね…冷酷の体現者、と言ったところでしょうか」


こうしてボスの見立てにより、Mr.Xの意思はおじいちゃんから田中さんへと託され、第二のデスゲームが幕を開けたのであった。



おまけ


石川さん、および田中さんをMr.Xに指名したボス…なんかカッコよさげなこと言ってるけど、人を見る目無いね、ボス。

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