ヒーローがいなくなった日
幼い頃、月宮カグヤにはヒーローがいた。
ヒーローとの出会いは…ありきたりと言えばありきたりなものなのだろう、突然襲いかかってきた通り魔から月宮カグヤを助け出したことが2人の出会いであった。
フィクションでは良くある展開で、何の変哲もない出会いだ。だが、当時4歳だった月宮カグヤの脳裏にはこの日の出来事は強く焼き付いただろう…良くも悪くも。
そんな彼女を助け出した彼の名は萩山レンジ。月宮カグヤと同じくまだ4歳であったにも関わらず、勇敢で行動力と判断力に溢れる少年であった。
それからというもの、2人は親睦を深めて行き、いつしか親友のような…恋人のような…そんな甘酸っぱい関係になっていた。…具体的な内容はここでは話の本筋と関係がないので控えておく。…いや、別に子供のリア充描写を書きたくないからとかじゃないからね、別に自分もこんな少年時代を送りたかったっていう嫉妬で泣きたくなるからとかじゃないからね、勘違いしないでね。…いや、本当に本筋に関係無いだけなんだって!別に胸に来るものがあるからとかじゃ無いんだって!嫉妬のあまり壁を殴りたくなるからとかじゃ無いんだって!リア充爆発しろなんて思ってないんだって!!そもそもニートに嫉妬するわけ無いじゃん!!ニートに嫉妬する余地がどこにあるっていうのさ!?だってニートだよ!?あのニートだよ!?あいつに憐れみ以上の感情を持ち合わせてるはずがないじゃん!?だからこれは嫉妬なわけないじゃん!!具体的な内容を描写しないのは、本当に話に関係無いだけなんだからね!!。
あぁ…爆発すればいいのに…。
そろそろ話を本題に戻そう。男の魔の手から彼女を救い出した萩山レンジ…だが、彼はまだ彼女にとっての本当の意味でのヒーローにはなっていなかった。確かに彼が彼女を助け出したのは事実…だけど彼をヒーローへと近づけた事件はそのことではなかった。出会いから半年後、ある事件が月宮カグヤの目の前で起きたのだ。
血に支配され、真っ赤に染まった部屋で彼女の目に映るのは鈍い銀と血の赤が混ざりあった一本の包丁…そしてピクリとも動かなくなった横たわる父親の姿。その傍らで立ち尽くしていた母親は月宮カグヤの瞳を覗き込むように顔を近づけ、何度も何度も呪文のように同じ言葉を繰り返した。
「忘れなさい…このことは忘れなさい」…そして、そっと笑って見せた。
その数日後、月宮カグヤの母親は殺人の容疑で逮捕された。
事件の後、現場を綺麗に掃除して、なにくわぬ顔で生活していた母親であったが、事件を隠しきることは出来なかった。
父親を殺した母親、そしてその当時、月宮カグヤの体の至る所にあった傷跡…テレビや周りの大人達は連日に渡って母親の異常性と子供への虐待の可能性を謳った。
父親を殺した母親の娘として、周りから、世間から好奇の目に晒された月宮カグヤは、近所に住んでいた父方の祖母の元へと引き取られることとなった。
幸いにも、祖母はそれでもカグヤを愛していた。孫と二人、細やかでも幸せに暮らせることを祖母は願った。
しかし、世間はそれを許さない。連日のように騒ぎ立てるマスコミ、あることないこと噂する近隣住民…次第に彼女を味方してくれる人がいなくなるにつれ、彼女は人と関わることを避けるようになっていった。
そんな中、彼女に手を差しのばしたのが萩山レンジであった。彼女が通う幼稚園で当然のように一人でいるところに、彼はいつも彼女に声をかけて気遣った。
彼女がイジメにあっているなら、すぐさまイジメ相手に掴みかかり、一人で寂しくしているのなら優しく声をかけた。…今のニートからは想像も出来ない行動力である。まぁ、彼にも色々あったからね。
そんな日々が続き、いつしか彼は彼女にとってのヒーローとなった。気が重い日常ではあったが…彼がいたから、彼女はなにも怖くはなかった。
そんな彼女にはもう一人、ヒーローがいた。
名は萩山薫、萩山レンジの姉であった。レンジとは歳の離れた大人であったが、自分と同じ目線に立って接してくれる彼女がいたおかげで、彼女は笑って過ごすことが出来た。
様々な不幸に巻き込まれた彼女であったが、この時の彼女は確かに幸せであった。彼女の母親が言っていた通り、あの日のことは忘れて過ごす事が出来た。
だが、ある日…ヒーローはいなくなった。
突然、煙のようにヒーローはその姿を消したのだ。
その代わりに残ったのは…孤独であった。
これまでの萩山レンジの活躍によって、彼女がイジメに合うようなことはなくなったが…味方もいなかった。
祖母もこの頃に体を悪くして、寝込むことも多くなり、彼女の話し相手と言えば…犬のスカーレットくらいしかいなかった。
一人は寂しい…そんなことは痛いほど知っている。だが、それは彼女にとって本望であった。本当に一人ぼっちなら、寂しくても恐いものなど無いことを彼女は知っていたから…。
そして彼女は誰とも関わる事なく、何年もの時を過ごす。そんな彼女が高校に入学した頃、唯一の家族であった祖母が亡くなった。彼女は親戚に預けられる事になったが、彼女の一人になりたいという強い要望により、彼女は仕送りをやりくりして一人暮らしを始めた。
本当に一人ぼっちになってしまった彼女…だが、それでも彼女は前向きに生きる事が出来た。それはもはや思い出の中だけになってしまったが、それでもヒーローが彼女の心の中にいたから。
そう、この時の彼女にはまだヒーローがいたのだ。少なくとも一人でも生きて行ける勇気をくれるくらいの彼女の心の支えとして、確かにヒーローはいたのだ。
だから、彼女にとってヒーローのいなくなった日はこの日では無い。
思い出のヒーローがいなくなったその日こそ、彼女にとって本当にヒーローがいなくなった日なのである。
そして、その日から…本当の彼女の物語が幕を開けるのだ。
Q 出会ったのが4歳、ニートがデスゲームに連れて行かれたのが7歳…あれ?たった3年しか幼馴染やってなくない?。
A それでも異性の幼馴染とか羨ましいです。




