スカーレット〜我が家の姉の玩具と化した愛しき駄犬
人物紹介
萩山レンジ(ニート) 当時7歳
月宮カグヤ(JK) 同じく7歳
萩山薫 レンジの姉でいい歳した大人
スカーレット 月宮カグヤが飼っている大型犬。12話辺りを読み返しているときに『そういえばこんなやつ書いたな』と思い出したので、今回登場させることにした。一応、もう一度述べておくと、月宮カグヤが飼っている犬である。
薫は犬の前で腕を組んで仁王立ちしながら、威厳のある声で犬に語りかけていた。
薫「スカーレットよ。お主はこの試練を乗り越えるというのだな?」
スカーレット「ワン!」
薫「これは厳しく辛い修行だ…最悪の場合、死者が出るかもしれない。…それでもお前はこの試練を受けるというのだな?」
スカーレット「ワン!」
薫「…よかろう、お前の覚悟はしかと受け止めた。それでは早速第一の試練を始めようじゃないか」
薫はそう言うと犬の前で膝をつき、右手を前に出して口を開き、この言葉を口にした。
薫「…お手」
スカーレット「………」
しかし、スカーレットに反応はなかった。
スカーレットは犬のくせに憐れむかのような瞳でただただ薫を見つめていた…犬のくせに。
レンジ「お姉ちゃん、なにやってるの?」
薫「そろそろスカーレットに芸の一つや二つ覚えさせようと思ってさ。いつまでも図体だけでかい無能な駄犬のままでいるのはスカーレットも可哀想だろ」
レンジ「お姉ちゃん、一応人の家の犬なんだからボロクソ言うの止めようよ」
カグヤ「薫お姉ちゃん、スカーレットに芸なんて教えられるの?」
薫「ふっふっふ、私を誰だと思っている?。安心して任せなさい、この駄犬に完璧な技を仕込んであげるわ」
レンジ「本当に大丈夫?」
薫「まぁ、私に任せてあんたらはさっさと学校に行きなさい」
カグヤ「本当に本当に大丈夫?」
薫「そんなに心配しないでくれよ。私だってもう良い大人なんだから、そこまで子供から心配されたら傷つく」
レンジ「人の家の犬なんだから変なこと教えないでよ」
薫「大丈夫大丈夫、私に任せなさい」
薫はそう言うと再びスカーレットの前に右手を差し出して、スカーレットに命令をした。
薫「スカーレット、アイアンクロー」
レンジ「お願いだから、変な技名で芸を教えないでね」
レンジとカグヤはそれだけ言い残して、2人で手を繋いで学校へと歩いて行った。
それを見届けた薫は再びスカーレットに向き合い、スカーレットに語りかけた。
薫「スカーレットだって、どうせならカッコ良い技名を付けられたいよな」
スカーレット「ワン!」
薫「よしよし、お前は良い子だ。この私がとっておきの技を伝授してやろう」
こうして、平日の朝からいい歳した大人の犬の躾が始まったのだ。
そして…その日の夕方。
薫「スカーレットよ、よくぞ厳しい修行を耐え抜いた」
スカーレット「ワン!」
薫「もはやお前に教えることはなにもない。もう誰にもお前を駄犬などと呼ばせはしない」
スカーレット「ワン!」
薫「ふっふっふ…生まれ変わったスカーレットの実力を早くレンジ達にも見せてみたいものだ」
スカーレット「ワン!」
薫が犬の前で堂々と腕を組み、仁王立ちしながら偉そうに犬に話しかけていると(言い忘れてたが、普通に人が通るの道路上でやってます)、レンジとカグヤが帰ってくるのが見えた。
もちろん行きと同様に、帰りも手を繋いでだ…死ねばいいのに(^-^)。
薫「ふっふっふ…帰って来たか、2人とも」
レンジ「ただいま。怪我はないか?スカーレット」
カグヤ「ただいま。変なことされてない?スカーレット」
スカーレット「ワン!」
薫「お前らは私をなんだと思ってるんだ…。まぁ、いい。いい歳こいた大人が平日の朝から夕方まで1日時間を費やして仕込んだ芸を見せてやろうじゃないか!!」
スカーレット「ワン!」
薫はスカーレットの前で膝をつき、右手を差し出して口を開いた。
薫「スカーレット、『アイアンクロー』!!」
スカーレット「ワン!」
薫の差し出した右手にスカーレットの左前脚がポンっと乗せられた。(要するにただのお手)
薫「スカーレット、『黄金の右手』!!」
スカーレット「ワン!」
今度は薫の差し出した左手に右前脚がポンっと乗せられた。(ただのおかわり)
薫「スカーレット、『西郷を待つハチ公の構え』!!」
スカーレット「ワン!」
ただのお座りです。
薫「スカーレット、『くっ、殺せ…のポーズ』!!」
スカーレット「ワン!」
ただの伏せです。
薫「『働きたくないでござる』!!」
スカーレット「ワン!」
スカーレットはゴロンと転がって腹を見せた。
薫「『文明開化』!!」
スカーレット「ワン!」
スカーレットは二本足で立ち上がった。(チンチン)
薫「『3回回ってワン』!!」
スカーレット「ワン!」
スカーレットは二本足立ち上がったまま、その場でくるくると回りだした。
薫「よし、最後の大技だ!。スカーレット、十万ボルトだ!!」
レンジ「ポケ○ンか!!」
薫「なに?なんか文句でもあるわけ?」
レンジ「人の家の犬だって分かってるよね!?。お手をするのにいちいち『アイアンクロー』って言わなきゃいけないご主人の気持ちを考えようよ!?」
薫「『アイアンクロー』はまだいい方よ!。『待て』を命令する時なんか『†時空瞬間冷凍呪文†【エンド・オブ・ザ・フィナーレ】』って全力で叫ばないといけないように仕込んでおいたのよ!!」
レンジ「よりによって一番使いそうな芸を厄介な仕込み方しやがって!!」
薫「そんなことよりも、たった1日でこれだけの芸を仕込めた私を褒めたらどうなの?」
レンジ「やってることはすごいのに、努力のベクトルが残念すぎるよ!!」
薫「もっと素直に褒めてくれてもいいのに…」
カグヤ「ははは…『アイアンクロー』って…変なの…」
行きとは違って、体操着姿のカグヤはそう言って小さく笑った。
薫「カグヤちゃん、とりあえず服でも着替えて来なよ」
カグヤ「うん、ありがとう。レンジ、薫お姉ちゃん…2人がいるから、私はなにも怖くなんか無いよ」
少し震えた声でお礼を言うカグヤは家の中へと入って行った。
カグヤが家の中に入って行ったのを見計らって薫はレンジに声をかけた。
薫「今日は護衛失敗かな?」
レンジ「うるせえな。あいつら、俺がいない時間を狙ってカグヤを…」
薫「今度はしっかり守ってやんな、ナイト様。…私はもうすぐいなくなっちゃうんだからさ」
そう言うと薫はスカーレットと視線を合わせるように座り、スカーレットの目をまっすぐ見つめて語りかけた。
薫「スカーレット、実は私はもうすぐ結婚するんだよ。そしたら遠くに引っ越しすることになって、あんたとはもう会えないし、カグヤちゃんを守ることももうできなくなる。だから、また今度カグヤちゃんに悪い奴が襲いかかってきたら、今度はあんたがご主人様を守ってあげるのよ?」
スカーレット「ワン!」
スカーレットは薫の命令に応えるように吠えた後、ご自慢のアイアンクローを差し出した。
薫「ふふ、頼もしいじゃないか。犬にしておくのは勿体無いくらいだぜ」
そう言うと薫は差し出された左前脚と自分の握りこぶしを軽くぶつけた。
薫「あとは頼んだぜ、スカーレット」
スカーレット「ワン!」
これが、我が家の姉の玩具と化した愛しき駄犬、スカーレットがナイトになるまでの物語である。
おまけ
薫によるスカーレットの躾の方法。
薫によるスカーレットの躾の方法は、実際にやってほしいポーズを自分で実演しながらその合図を何度も連呼する方法である。
具体的には…。
薫「スカーレット!。ほら!これが『働きたくないでござる』よ!!。『働きたくないでござる』!!『働きたくないでござる』!!『働きたくないでござる』!!」
と、叫びながら仰向けでゴロゴロしてスカーレットに真似させようとする方法である。
補足として述べておくと、そこは普通に人が通る平日の昼間の一般道路で、さらに言うなら薫はいい歳した大人である。
…あとは察せ。
薫が最初の方で述べた通り、死人が出たね。社会的にだけど。




