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つまり養ってくれるってことですか?  作者: なおほゆよ
番外編
45/52

世界でもっとも美しい…

今夜も私は月を見上げ、死にたいと願う。


西洋風の大きな屋敷の一室で、アマンダは両手を合わせて月明かりに祈りを捧げる。


いつの日か、私に死を…。それもただの死ではなくて、私は…。


いつものように死を懇願する私の前に、そいつは現れた。


黒いスーツに身を包み、月夜に紛れ、そいつは…死神は私を迎えに来た。


殺し屋「こんばんは、殺し屋です。あなたを殺しに来ました」


窓から突然現れた殺し屋を名乗るその死神は、紳士的に笑いながら私の願いを叶えに来た。


殺し屋「私にはターゲットが望む殺し方をしてあげるという殺しのポリシーがありまして…ですから、あなたの好みの死に方を教えてください」


あまりに突拍子のない出来事に困惑する私を尻目に、その死神はにっこり笑って言葉を続けた。


殺し屋「銃殺、絞殺、刺殺、毒殺…なんでも叶えてあげますよ。さぁ、あなたの望む死に方を教えてください」


笑顔で物騒なことを語るその死神に、私はそれ以上の笑顔で望みを答えた。


アマンダ「私は…この世でもっとも美しく死にたい」


殺し屋「…はい?。美しく、ですか?」


アマンダ「そうよ。常日頃から考えていたのよ、この可憐な私でもいずれは老い、その美を失ってしまうのをどうにかしたいって。だから私は死にたかった。この美を失う前に死にたかった。それも美しいままに死にたかった」


殺し屋「えっと…具体的にはどういった死に方をお望みで?」


アマンダ「そうねぇ…まず血が出るのはダメよ、その時点で美しくない。それに絞殺もダメ。窒息死なんて死ぬまでにもがき苦しむし、下手すればその後は糞尿垂れ流しの最悪な死に方よ。毒殺はそうねぇ…あんまり苦しまずに死ねる毒ってある?。死に顔が苦悩にまみれた死に方なんて嫌だからね」


殺し屋「そうですね…それでしたら凍死なんてどうでしょうか?」


アマンダ「世の中に凍死体がいくつあると思ってるのよ?。それなのに、その程度で世界一美しい死に方って言うの?。あんた殺し屋のくせにそんな殺し方しか出来ないわけ?。あんたの殺しっていう芸術はその程度ってことなの?」


殺し屋「…いいでしょう、私も殺し屋という芸術家です。私の中で最高の殺しをあなたに捧げましょう。ですが、もう少し時間をください。また明日、この時間にもう一度伺いに来ますので…」


アマンダ「わかったわ。明日こそ私を綺麗に殺して見せてよね」


殺し屋「仰せのままに…。それではまたお会いしましょう、レディ」


殺し屋は再び紳士的にお辞儀をすると、窓から身を投げ、月夜に溶けて消えて行った。


アマンダ「明日こそ、死ねるかしら…」


アマンダはまた月を見上げて、死を願った。





次の日の夜、約束通りアマンダの元に殺し屋はやって来た。


殺し屋「こんばんは、レディ」


アマンダ「あら?ようやく来たのね。それじゃあ、早速あなたの考えた殺し方を教えてもらいましょうか」


殺し屋「今晩ご紹介させていただく殺しのプランはこちら、感電死でございます」


アマンダ「感電死?」


殺し屋「はい。これでしたら、あっという間に簡単に昇天できること間違いなし。私のオススメの死に方です」


アマンダ「泡とか吹いたりしないかしら?」


殺し屋「ご安心を。少々焦げがつくくらいで済みます」


アマンダ「…だったら凍死の方がいいでしょ?。それなら傷なんてつかないし」


殺し屋「ご不満のようですね。…こんな時のために第二のプランをご用意させていただきました」


アマンダ「どんなの?」


殺し屋「美しい死に方というものは、なにも死因だけで決められるものではありません。その死に至る過程、死の状況によって大きく変わって来ます。例えば、同じ銃殺でも、誰かをかばって撃たれたとなれば、そちらの方がより美しいと思われます」


アマンダ「なるほど、死のシチュエーションね。具体的にはどんなシチュエーションを予定しているの?」


殺し屋「私が家に強盗に入りますから、あなたは家族をかばって私に撃たれてください」


アマンダ「嫌よ。私が大嫌いな人を守って死にたくないわ。私の死は私のためだけにあるのよ」


殺し屋「…これもご不満ですか?」


アマンダ「悪いけど不満よ。それに守る相手が誰であれ、誰かをかばって死ぬくらいでは世界一美しい死に方とは言えないわ」


殺し屋「…それもそうですね。案が尽きてしまったのは今日のところはお暇しましょう。また明日も来ます」


アマンダ「明日こそ、期待していいのかしら?」


殺し屋「えぇ、明日こそ、必ずあなたを殺して差し上げます」


こうして、この日も殺し屋は去って行った。


明日こそ、私は死ぬんだと私は月を見上げて期待に胸を弾ませた…が、実際はそうもいかなかった。


来る日も来る日も殺し屋が提案する死に方に、私はどれも納得がいかなかったのだ。


一度きりの大切な人生だ、私も入念に死に方を選びたい。そういう私の思いはなかなか叶わぬまま、月日だけが流れていった。


そんなある日の夜の出来事…


殺し屋「こんばんは、アマンダ」


アマンダ「こんばんは。コーヒーでいいかしら?」


私は今日も殺し屋が来るのを見計らってコーヒーを用意した。


角砂糖二つにミルクを一つ添えて、今日も殺し屋にコーヒーを手渡す。


殺し屋「ありがとうございます。アマンダのコーヒーは美味しいので好きです」


アマンダ「どうも…それで、今日もあなたのプレゼンを聞かせてもらいましょうか?」


殺し屋「よろしいですよ。…プロジェクターをお借りしますね」


連日続いたの殺し屋の提案は徐々に手が込んだものとなり、最近ではプレゼン方式でプロジェクターとパワポを使いながらアマンダに殺し方を提案するようになっていた。


殺し屋「…で、あるからにして、この度はこのような死に方をご提案させていただきました。WTOが昨年度に調査した資料によりますと、この死に方による身体的被害は過去のデータを比べると、30%ほどまで抑えられるようになっております。このように、この死に方には様々なメリットがあり、それでいて美しい死に方とは言っても過言ではないでしょう。それでは、私のプレゼンを終了させていただきます。皆様のご静粛、感謝いたします」


プレゼンを終え、紳士的に一礼する殺し屋にアマンダは拍手をした。


アマンダ「素晴らしいプレゼンだったわ。これなら来月のプレゼン大会できっと良い成績をおさめられるわ」


殺し屋「ありがとう、アマンダ。君のおかげでだいぶプレゼンも上手くなったと思うよ」


アマンダ「調子に乗るのはまだまだ早いわよ。そういうことはせめて大会で結果を出してから言うことね」


殺し屋「大丈夫、必ず優勝してみせるさ、来月のプレゼン大会に」


アマンダ「その調子よ、頑張って」


いつの間にか主旨が変わってしまった2人。…作者がよく使う手法である。


殺し屋「それにしても…やっぱりアマンダのコーヒーは美味しいね。…殺すには惜しいくらいに」


アマンダとお揃いのマグカップを口につけ、殺し屋そんなことをぼやいた。


アマンダ「あら?。私に情が移ったのかしら?」


殺し屋「ご安心を。殺しの依頼をしくじった時、私は組織に殺されてしまいますからね…。どの道、私にはあなたを殺す選択肢しか残っておりません」


アマンダ「そう…それを聞いて安心したわ。いざという時になって、殺せなくなっては困るものね。…ちゃんと殺してね、あなたの手で…美しく」


殺し屋「もちろんですよ…アマンダ」







それから幾日かの夜が過ぎた頃…その事件は起きた。


いつものようにアマンダの部屋に窓から侵入すべく、屋根を伝って歩いていた殺し屋は、ある臭いを嗅ぎつけた。


それは職業柄、幾度となく名のあたりにした生臭い臭い…。


殺し屋が急いでアマンダの部屋に駆け寄り、アマンダの部屋を覗くと、殺し屋はその臭いの正体に気が付いた。


アマンダ「あら…いらっしゃい…」


腹部の銃で撃たれたような傷跡から垂れ落ちる血液によって、赤く染まった部屋で彼女は彼を歓迎した。


アマンダ「ごめんね…今日は…コーヒー淹れなれないや…」


殺し屋は何も言うこともなく、彼女の元に駆け寄り、彼女の容態を確認した。


何人もの人をその手で殺してきた殺し屋には、すでに彼女が助からないことが分かっていた。


アマンダもそのことが分かっていたのか、彼女は最後の力を振り絞り、殺し屋にとあるお願いをした。


アマンダ「お願い…この屋敷に火をつけて…。私の骨も残らないくらい…こんな家ごと…何もかも燃やして…」


彼女の最後の願いを理解して、黙って聞き入れた殺し屋は、着々と準備を進めつつ、どこかから大量の灯油を持って来て、彼女に浴びせた。


アマンダ「あなたは…最後まで…ちゃんと生きてね…。あなただけが…私の美しさの…証人だから…」


何もかも炎に還す準備が整った殺し屋はマッチに火をつけ、なにかを躊躇うように火を見つめ、そして…自らの手で、彼女に火を放った。


アマンダ「さよ…ら…。…親愛なる…私の…友だ…」


全てが燃え行く業火の中にアマンダは消えて行った。


殺し屋「…さようなら、アマンダ」


そして、炎に包まれた屋敷は大きな音ともに崩壊した。


数日後、屋敷から2つの死体が見つかった。


それらは40代ほどの男性とそれと同じくらいの年齢の女性の死体であった。


死体も見つからず、行方不明となった彼女の最後を知る者はただの1人だけ。


その人が生きて証人となる限り、彼女の最後の美しさを否定できる者は誰もいない。


そう、だから彼女は…。







数日後、殺し屋は依頼人の元に行き、ことの成り行きを報告した。


依頼人「ご苦労様です、ランドリー。あなたにしては随分と時間がかかりましたね」


殺し屋「…少々、手こずりまして」


依頼人「まぁ、いいでしょう。あなたにはしばらく休暇を与えます。その間はご自由に過ごしてください。それと…そろそろランドリーの名は捨てなさい。身元がバレてもらっては困りますからね。ですから、休暇の間の仮の身分をあなたに差し上げましょう」


依頼人はそう言うと、一つの身分証明書を差し出した。


依頼人「今日からあなたの名前は平間和也です。…あなたとこの戸籍の情報では、少々、身体的特徴に差異はありますが、あなたなら大丈夫でしょう。…では、良いバカンスをお過ごしください」


こうして、ある殺し屋の夏が始まったのであった

あとがき


まぁ、番外編だから、こういうこともあるよね。もともと『世界でもっとも美しい死に方』をテーマで一つの小説を書こうと思っていたんですが…今回で使っちゃいましたね。こういう話、すでにあるだろうなと思いながら描いてました。で、問題はこの話が本編と関係があるかどうかなのですが…察しの良い方は分かるのではないでしょうか?。答えは続編にて…。


P,S 続編、すでに始まってます。

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