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つまり養ってくれるってことですか?  作者: なおほゆよ
無人島編
41/52

エピローグじゃ終われない

前回のあらすじ


2回目のデスゲームが終わったよ、やったね。




登場人物紹介


田中 ポンコツ。


ニート (萩山レンジ) ゴミ屑。


助手 愛が重い。


Q 影が薄い。


ショタ(天城ショウタ) 実験サンプル。


由紀 田中さんの娘で長女。なんかいまやばいことになっている。


佐紀 田中さんの娘で次女。ショタと同じくらいの年。


紗雪 田中さんの妻。田中さんはしりに敷かれてる。


ニート母 ゴミ屑を生んだ親。

あの残虐無慈悲(?)なデスゲームから10日ほどの月日が流れた。


かつてはMr.Xとして、プレイヤー達を絶望のどん底に陥れた(?)田中さんは今日もあのビルにいた。


まだ全てが終わったわけでは無い。


むしろこれからが本当の戦いなんだ。


娘のためにも…この世界のためにも、まだまだ戦い続けなければいけないのだ!!。


そう思い、気を引き締めた田中さんは、実験体となり、実験室に閉じ込められた天城ショウタからデータを得るために心を鬼にして実験体との通話ボタンを押した。


田中「ヤッホー、ショタ君元気かい?」


ショタ「うん、元気だよ」


田中「疲れてないかい?どこか痛いところは無いかい?。なにかあったらワシに言いなさい。すぐ助けに行くからね」


ショタ「うん、ありがとう」


助手「なにが心を鬼にして、ですか?」


Q「毎日毎日ベタベタしすぎですよ、田中さん」


田中「だって!ショタ君になにかあったらどうするんだ!!。もしショタ君が死んじゃったりなんかしたらワシは…ワシは…」


涙腺を潤ませながら熱弁する田中さんに呆れる2人。


ショタ「僕が言うのもなんだけど、もっとちゃんとデータを取ったらどうなの?田中さん」


あまつさえ、実験体からも呆れられる田中さん。


Q「でも、さすが我々を出し抜き、デスゲームをプレイヤーの勝利へと導いたエンジェルなだけはあるわね。耐性が常人のそれと比べ物にならないわね」


助手「ボスが認めるほどの実験サンプルだからな…。だが、果たしていつまでもつのか…」


Q「それはそうと…田中さん、そろそろ仕事上がったらどうですか?。例の計画のせいで、いろいろ忙しくなって、もう2週間近く家に帰ってませんよね?。そろそろ奥さんに怒られますよ?」


田中「うーむ…それもそうなのだが…ショタ君が…」


ショタ「僕なら大丈夫だよ。それに、僕と同じ年くらいの女の子が待ってるんでしょう?」


田中「確かに…佐紀にもしばらく会ってないからな…」


助手「由紀がここにいたら、多分由紀も帰れって言ってますよ」


田中「そうだな。…久しぶりに我が家に帰るか。じゃあ、ワシがいない間も良い子にしてるんだぞ、ショタ君」


ショタ「うん」


そう言うと田中さんは帰る準備を始めた。


Q「よかったらお土産にこれどうですか?」


Qは田中さんに茶菓子を差し出した。


Q「佐紀ちゃんのご機嫌をとる為にも、持って帰ってください」


田中「うむ、ありがとう。ありがたく受け取るよ」


そして、田中さんは久しぶりの我が家へと帰って行った。


ショタ「田中さんのもう1人の子供の名前、佐紀ちゃんって言うんだね」


Q「うん、由紀とは年が離れた姉妹だけど、由紀と仲良かったんだ」


ショタ「由紀さんは…今どうしてるの?」


Q「由紀は…いまは…」


助手「実験体にいらないことをペラペラ話すな、田中さんじゃあるまいし…」


Q「ごめん、ついウッカリ…」


助手「まったく…本当に油断ならないな、このガキは…」


ショタ「でしょ?」


ショタはそれでもニコニコ笑っていた。








田中「家に帰るの久しぶりだなぁ…」


帰路につく田中さんはしみじみとそう呟いた。


由紀がああなってから研究の為にずっと家のことを疎かにしていた田中さんは、久しぶりの我が家への帰宅に胸を高鳴らしていた。


特に最近は例の計画でより忙しかったので、家に帰るのは本当に久しぶりであった。


由紀が家に居ないとはいえど、愛する妻の紗雪と可愛い愛娘の佐紀が家で待ってくれている。


そう考えると年甲斐になくスキップしてしまう田中さん。


そんな光景を目撃した一般人によって、スキップで帰路につくおっさんの写真をSNSで拡散されていることなど知る由も無い田中さんが家の目の前にたどり着き、元気よくただいまと声をかけて扉を開けた。


紗雪「あら?おかえりなさい。帰ってくるなら連絡してよね」


佐紀「あ、パパ、おかえりなさい」


ニート「おかえりなさい、あなた。ご飯にする?お風呂にする?それとも…わ、た、し?」


田中「あぁ、ただいま」


紗雪「っていうか、帰ってくるなら連絡しろって散々言ったわよね!?」


田中「ご、ごめんなさい。今度からちゃんと連絡します…」


紗雪「今度からって言ってるけど、前に帰ってきた時も同じこと言ってたわよ!!。帰ってくる時は連絡しろって何度言えばわかるの!?。連絡がなきゃ、あなたの分の晩御飯用意できないじゃない!!」


ニート「そうよそうよ!!。いつも仕事ばかりで家族のことを蔑ろにし過ぎなのよ!!」


田中「本当にごめんなさい。反省してますからどうか許してください…」


紗雪「まったく…どうせ何も食べてなんでしょ?。早く着替えて来なさい。あるもので適当に晩御飯作るから」


田中「うん、ありがとう」


佐紀「パパ、お土産は!?」


田中「ちゃんとあるぞ、Qちゃんから貰ったものだから、今度会った時にお礼を言うんだぞ」


佐紀「わーい!お菓子お菓子!!」


ニート「パパ、僕の分のお土産は!?」


田中「あぁ…すまん、佐紀の分しか用意してなくて…」


ニート「ええ!?。ヤダヤダヤダ!!お土産欲しい!!」


佐紀「いいよ、佐紀のを半分こにしよ、ニートのお兄ちゃん」


ニート「わーい!佐紀ちゃん大好き!」


紗雪「あなた、着替えたら先にお風呂入っちゃいなさい。ちょうど今、温かいから」


田中「わかった」









田中「フエェェェェ…」


湯船に浸かる田中さんは全身に溜まった疲れを放出するかのようにそんな声を吐き出した。


そしてリラックスしながら久々に帰った我が家への想いをしみじみと馳せた。


いつも口は悪いが、自分の健康と体調を気遣ってくれる妻。


愛くるしい天真爛漫な笑顔を振りまく次女の佐紀。


うるさいくらいに騒ぐムードメーカーのニート。


今は家に居ないが、しっかり者で賢い長女の由紀。


あぁ…やっぱり家族っていいなぁ。


…ん?。


あれ?。


この家族にどうしても違和感を感じるのは何故だ?。


我が家になにかとてつもない異物が混入しているような気がするのはどうしてだ?。


なにか…なにか…ありえないものが紛れているような…。


あまりにも堂々と、当然のようにそこにいるせいで逆にわからない間違い探しのようなこの違和感の原因はなんなんだ?。


紗雪に…由紀に…佐紀に…ニートに…。


ん?ニート?。


その時、お風呂の扉が開かれ、ニートが風呂場に入って来た。


ニート「パパ、背中流しに来たよ」


田中「なんでお前がここにおるんじゃあああああああ!?!?!?!?!?」


ニート「なんでって…背中を流してあげようかなと思って」


田中「違う!家にお前がいるんだ!?」


ニート「ニートは自宅が仕事場だから家にいるのは当然だろ?」


田中「違う!そうじゃない!。なんで我が家にお前がいるんだ!?」


紗雪「うっせえええええ!!!!。風呂場で騒ぐな!!近所迷惑だろ!!」











ニート「いただきます!!」


佐紀「いただきます!!」


紗雪「いただきます」


田中「…い、いただきます」


4人でテーブルを囲み、田中家の晩餐はスタートした。


紗雪「なによ?。私の料理に不満でもあるの?」


田中「いや、紗雪の料理はいつも最高だよ」


ニート「なんだよ?のろけ話か?。ヒューヒュー!!」


佐紀「ひゅーひゅー!」


田中「で、問題は…なんでニートが平然とウチで晩飯を食ってるんだ!?」


ニート「そりゃあ、ご飯は大人数で食べるのが一番だから。ねぇー!佐紀ちゃん!」


佐紀「ねぇー!」


田中「…なんかやけに仲良くないか?」


ニート「佐紀ちゃんの婿養子になれば田中さんに養ってもらえると思って、手懐けておいた」


田中「へぇー、なるほどね。紗雪、この害虫に効く殺虫剤って家にある?」


紗雪「可愛い娘には害虫が群がるものよ」


田中「達観してないで娘をニートの魔の手から助けてあげて」









結局、4人で食卓を囲んだ後、田中さんはニートを自分の書室に連れて来た。


田中「それで…お前、記憶を失ったんじゃないのか?」


ニート「それがさ、2回目だからかどうかわからないけど、記憶が無くならなかったんだよね」


田中「記憶が無くならなかった?」


ニート「前回で耐性でもついたのかな?。とにかく、俺の記憶はピンピンしてるわけよ」


田中「そうか…記憶はそのままなんだな」


ニート「それで、とりあえずまずは田中さんに会いに来たわけよ」


田中「なんで真っ先にワシに会いに来るんだよ?。そこはJKに会いに行けよ」


ニート「田中さんならみんながどこにいるか知ってるだろうし、田中さんに会えばみんなにも会えると思ったんだよ。で、SNSやらなんやらを使って、どうにか田中さんの家を突き止めたんだよ」


田中「うわぁ…特定房こわっ…」


ニート「でも家に行っても田中さんがいなかったから、田中さんが帰ってくるまでこの家にお世話になってたってわけだ」


田中「平然とお世話になってるけど、人に養われる能力高いな、お前」


ニート「だろ?。これこそが俺の能力『万象に寄生せし者【ユアパラサイト】』だ」


田中「考えようによっては最強の能力だな」


ニート「ちなみに敵を倒した時の決めゼリフは『さっさとお前も扶養しろ』だ」


田中「敵って…それどういう状況だよ?」


ニート「ピンチに陥った時に謎の復活を遂げて、敵から『なぜ立ち上がる?』と聞かれた時のセリフは『世界が俺を養ったからだ』と言うつもりだ」


田中「だから敵ってなんだよ?」


ニート「もちろん、敵は労働だ」


田中「結局これはなんの話だよ?」


ニート「いや、この小説もこれが最終話だから、もし続きをやるならそういう路線に変更しようかなと思って」


田中「止めとけ、シュールな失笑しか取れないぞ」


ニート「えー、いいじゃん!。ニートが自分の特性を生かして敵と戦うバトルでもいいじゃん!」


田中「ははは…まったくお前は…呆れを通り越して頼もしさすら感じるな」


ニート「なんだよ?【ユアパラサイト】をバカにすんなよ?。田中さんなんて一瞬で扶養することになるぞ?」


田中「貶してるんじゃない、褒めてるんだよ」


ニート「そうなのか?。それならご褒美にみんなの居場所を教えてくれよ」


田中「いいだろう。…だが、その前に…お前に話しておきたいことがある」


ニート「話しておきたいこと?。財産贈与の話か?」


田中「真面目な話をするから茶化すな。いまから話すのは、デスゲームの秘密についてだ」


ニート「デスゲームの秘密?」


田中「そう、なぜあのデスゲームを行ったのか。その目的とその先にある脅威の話だ」


ニート「脅威?」


田中「国をあげて、関係ない人をデスゲームで犠牲にしてでも立ち向かわなければならない脅威だ」


ニート「それは一体…」


田中「聞きたいか?」


ニート「まぁ、興味はあるよ」


田中「それもそうだよな。自分の時間と肉親を奪われたこのデスゲームの意味を知りたいと思うのは当然のことだからな。だが…この話を聞いてしまったら、もう後には引けなくなるぞ?。いずれ来るこの脅威に脅かされる毎日が続く。それを知ってしまえば、いつもその脅威が頭をよぎり、恐怖に包まれることになる。人を信用できなくなり、人に怯えることにもなるだろう。…それでもお前は聞く覚悟はあるか?」


ニート「無いよ」


田中「では心して聞け…って、ん?。今なんて言った?」


ニート「いや、だから…覚悟なんて無いって」


田中「あー、そうだな、お前はそういう奴だもんな。まぁ、いいや、覚悟がなくても聞け」


ニート「覚悟の無い人を巻き込むのはやめろよぉ」


田中「あのデスゲームの目的はなんてこと無い、ただの殺人衝動のメカニズムを解析するための実験だ」


ニート「まぁ、そんな予感はしてたよ」


田中「問題は…それをどうしてそこまでして解明せねばいけないか、だ」


ニート「…なんでだ?」


田中「ある精神病を治すためだ」


ニート「精神病?」


田中「Capricious Bloodthirsty Killer Syndrome。略してCBKSと呼ばれる精神病だ」


ニート「どんな病気なんだ?」


田中「殺人衝動を引き起こす精神病だ。いまだに詳しいメカニズムは分かっていない。この症状と思しき患者は世界中で数人だけだが確認され、何件かの殺人および殺人未遂、傷害が引き起こされてる」


ニート「そんな病気もあるんだね、怖い怖い」


田中「それだけなら大した問題では無いのだ。この病気のもっとも厄介な点、それは…人に感染することだ」


ニート「…は?感染?。精神病なのに?」


田中「感染の詳しいメカニズムは分かってないし、本当に精神病なのかも定かでは無い。だが、この病気は人に感染することが確認されている」


ニート「つまり…殺人衝動が人から人へ感染するのか?」


田中「その通り。そして、もしそれが大規模なパンデミックを引き起こしてみろ。どうなると思う?」


ニート「殺人衝動に駆られた人が人を殺し…そうじゃ無い人は正当防衛のために人を殺す…まさに殺し合いのデスゲーム…」


田中「そう、この世界を舞台に全世界の人々を巻き込んだデスゲームが始まるのかもしれないのだ」


ニート「…なるほど、つまり田中さん達はそれを止めるために殺人衝動について研究していたと?」


田中「そういうことだ。…ちなみに言うと、ワシの娘、由紀はCBKSの感染者だ」


ニート「なるほどなるほど…合点がいった。それで、なんで俺にそんな話をしたんだ?」


田中「お前は…お前達は小規模とはいえど、あのデスゲームを乗り越え、勝利をつかんだ。そんなお前になら…いや、お前にしか託せないと思ったのだ」


ニート「なんの話だよ?。パンデミックが起きるのはまだ先の話だろ?」


田中「今日の24時…正確には9月1日の午前0時をもってして、この近くにある兎歩町が国によって閉鎖される」


ニート「は?兎歩町が?」


田中「以前、由紀と接触し、CBKSを感染したと思しき人物がその町に逃げたことが確認されたのだ。具体的な人物は確認出来なかったため、取り押えることは出来ない。だから政府はCBKSがその町でパンデミックを引き起こす前に、その町の人の通行を完全に封鎖して、パンデミックをその町内で収めようとしているのだ」


ニート「お…おいおい…それってまさか…」


田中「そうだ。今夜12時をもってして、町丸ごと巻き込んだデスゲームが始まるのだ」


ニート「そこにいる人を犠牲にして、国を守るってことか…」


田中「もともと君たち9人のプレイヤーを犠牲にする覚悟でデスゲームを始めた政府だからな。今度はその規模を拡大しただけに過ぎないのだよ」


ニート「ふざけるな…と言いたいところだが、国を守るためならそういう手段も致し方ないのかもな。…それで、田中さんはどうして俺にその話をしたんだっけ?」


田中「お前に託したからだ」


ニート「おいおいおい…まさか…俺にデスゲームを止めろって言いたいのか?」


田中「…無茶を言っているのは分かっている。ただ、期待してしまっているだけだ」


ニート「さすがにそれには俺も笑えないぜ。…悪いけど、俺には関係無い話だ」


ニートはそういうと田中さんの書室から出ようとした。


田中「ニート、記念に持って行け」


そういうと田中さんは例の黒いガラパゴス携帯をニートに投げ渡した。


ニート「…なんで?」


田中「一応持っておけ、役に立つ」


ニート「分かったよ。一応貰っておく」









田中さんの家を後にしたニートは物思いにふけっていた。


田中さんの話を聞いて、さすがのニートも参っていた。


一つの町を丸ごと巻き込んだデスゲーム、さすがにニートもどうこうできる気がしなかった。


なにより、このまま何もせず12時を迎えれば、ニートは巻き込まれずに済むのだ。


簡単な話、ニートには今回のデスゲームはなんの関係も無いのだ。


だから…気にやむことなんてなにもない。


そもそも、こんな無職の俺になにができるというのだ。


俺がやらずとも、他の人がなんとかしてくれるさ…。


そう考えたニートのポケットでスマホの着信音が流れた。


相手はニートの母親だった。


ニート「もしもし?お母さん?」


ニート母「もしもし?いまどこ?」


ニート「心配せずとも、いまから帰るとこ」


ニート母「ちっ、帰って来るのかよ、穀潰し」


ニート「息子の帰宅に舌打ちはないでしょ?」


ニート母「マグロ漁船から帰ってこなけりゃ良かったのに…」


デスゲームで1ヶ月ほど不在だったニートは、なぜかマグロ漁船に乗り込んでいたという扱いになっていた。


ニート母「あんたもお姉ちゃんを見習って、立派な大人になって欲しいわ」


ニート「お姉ちゃんって…そんな立派な大人だったかな?」


ニート母「あんたと違って結婚と就職もしてたからね。そりゃあ、立派でしょ」


ニート「そう言われたら反論はできない…」


ニート母「それはそうと…あんた、なんかあったの?」


ニート「え?」


ニート母「なんか元気無いからさ、なんかあったのかと思って」


ニート「さすが…鋭いな」


ニート母「なにか迷ってるの?」


ニート「なんて言えばいいかな…俺を必要としてくれてるかもしれない人がいるんだ」


ニート母「あんたを必要?。あんたみたいな穀潰しを所望なんて酔狂な人もいるんだねぇ」


ニート「まったくだ」


ニート母「でも、あんたにとって数少ない需要じゃ無いか。行っておやり…っていうか、行け」


ニート「でもさ…」


ニート母「どうせあんた家に帰ったってゲームかパソコンしかしないんだからたまには人様のお役に立てや!!」


ニート「で、でもさ…」


ニート母「っていうか、家に帰っても家に入れないから。その人の期待に応えない限り、家には入れないから」


ニート「そ、そんな…」


ニート母「どこの誰があんたになにを期待してるか知らないけど、あんたに期待するってことはよっぽど変わったことなんだろうね。多分、あんたにしか出来ないことなんでしょ?」




『田中「お前は…お前達は小規模とはいえど、あのデスゲームを乗り越え、勝利をつかんだ。そんなお前になら…いや、お前にしか託せないと思ったのだ」』


母にそう言われたニートは田中さんの言葉を思い出した。


俺にしか出来ない、か…。


俺にしか出来ないことってなんだ?。


『ショタ「やっぱりお兄ちゃんにシリアスなのは似合わないよ。でも、お兄ちゃんはそれでいい…いや、だからこそ、お兄ちゃんじゃなきゃダメなんだ」』


さらにショタと別れる直前に言われたことが頭によぎった。


俺にシリアスは似合わない…。


だったら…なになら似合うんだよ?。


『薫「そうだね。全部、茶番で終われたら、それは素敵なことだよね。だから…シリアスなのはこれで最後にしよう。後のことは全部、茶番で、楽しく、みんなが幸せになるように終わらせて欲しい。お姉ちゃんとの約束ね」』


そして、姉との約束を思い出した。





ニート「なるほど…俺にしか出来ないこと、か…」


ニート母「ん?どうかした?」


ニート「なんでもない。あと俺、しばらく帰らないと思う」


ニート母「そうかそうか…とうとうニートを卒業か…」


ニート「いや、ニートは卒業しない。ニートだからこそ、出来ることをやってくる」


ニート母「…は?」


ニート「じゃあ、行ってくる」


ニート母「…うん、行ってらっしゃい」


そうだ、俺にしかできないことをやりに行こう。


母との通話を切ったニートは、田中さんから聞いたデスゲームが開催される兎歩町に向かって走り出した。


いまから行われるのは残虐で、悲惨で、不条理なデスゲームだ。


たくさんの人が傷付いて、たくさんの人が犠牲になる。


たぶん、そうなるはずなんだ。


だけど、そんなシリアスな話は俺には似合わない。


だから俺は…。


ニートがデスゲームが開かれる兎歩町にたどり着いたその時、時計の針は12時を指し、上空には無数のヘリが飛んでいた。


やがてヘリから何百、何千という兵隊が飛び降りると、町の境界を覆うように銃を構えてズラリと立ち並んだ。


それと同時に、いたるところに設置されてあるスピーカーからけたたましいサイレンと共にある宣言が放たれた。


『9月1日午前0時をもちまして、政府が発令した非常事態宣言に基づき、この町の通行および、通信を制限させていただきます。町内にお住いの皆様はなるべく外出を控えるようにしてください。なお、食料のほどは十分な量の物を輸送させていただきます。繰り返します。9月1日午前0時をもちまして、政府が発令した非常事態宣言に基づき、この町の通行および、通信を制限させていただきます』


空に舞い、不気味に光る無数のヘリ、武装した何千人もの兵隊、非常事態を知らせるけたたましいサイレン。


平穏な今の世界ではありえないその光景に困惑する人の声、事情の説明を求める群衆の騒めき、不安で泣きわめく子供の叫び。


だか、それを目の前にしてニートはほくそ笑むように笑った。


シリアスなのは似合わない、だから俺は…。


全てを茶番で終わらせてやる。


そして、パニックで群がる群衆を目の前に、堂々と、高々と、ニートは宣言をした。


















ニート「つまり養ってくれるってことですか?」











全てを茶番に変える旅路が、いま幕を開ける。


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