エピローグ
前回のあらすじ
あとは茶番で終われたらなって…。
Mr.Xとなった助手を人質として捕らえたニートとエンジェルの正体であるショタは、Mr.Xが兵を連れてやって来たヘリをここに呼ぶように催促した。
銃を突きつけられ、人質となったMr.Xは素直に無線でヘリを呼んだ。
しばらくしてからニート達の上空からヘリの騒音が響き、ニート達の目の前に着陸した。
ショタ「…行こうか、お兄ちゃん」
ニート「どこに?」
ショタ「Mr.Xのボスの元にだよ」
ニート「ボス?」
ショタ「とにかくヘリに乗って。話はそれからしようよ」
ニート「分かった」
ニート達がヘリに乗り込み、Mr.Xの操縦によって、ヘリが島を離陸し始めた時、遠くでこちらに向かって手を振るカグヤの姿があった。
JK「レンジィィィ!!!!」
ヘリの騒音にかき消されないように大きな声でカグヤそう叫んだ。
ニート「心配するな!!。ちょっと行ってくるだけだから!!」
ニートも負けじと声を張って答えた。
そして、一呼吸置いてから、カグヤに向かってもう一言、声をかけた。
ニート「今度はちゃんと告白するから!!聞いてくれるか!?」
カグヤ「待ってる!!。ずっと待ってるから!!」
やがて、ヘリは島から離れて行き、見えなくなった。
見えなくなった後もしばらく島の方を眺めていたニートに人質が逃げないようにずっと銃を構えていたショタが声をかけた。
ショタ「2人で島から出るのは2回目だね、お兄ちゃん」
ニート「…そうだな。悪かった、いままで1人で全部を背負わせて」
ショタ「別にいいよ。お兄ちゃんのおかげでそれでも楽しかったからさ」
ニート「あの後…島を脱出してからどうしてたんだ?」
ショタ「運良く孤児院に拾われて、里親も見つかって苗字が天城に変わってね。…そこでもいろいろあったけど、それでも笑って過ごしてたよ」
ニート「それは良かった。それと…よくこのデスゲームで俺と一緒になれたよな」
ショタ「お兄ちゃんは特別に二回目のデスゲームに招待されたのと、僕もいろいろ調べて、デスゲームのプレイヤーの抽選方法とか知ってたから、このデスゲームに参加できるようにいろいろ頑張ったんだ」
ニート「そっか、ショウタは偉いな」
Mr.X「…その能天気な会話、いつまで続くかな?」
ショタに銃を突きつけられ、脅されるがままにヘリを運転していたMr.Xが会話に割り込んで来た。
Mr.X「お前達はこのデスゲームに勝った気でいるのかもしれないが、まだまだこのデスゲームは終わってなどいない。仮にこのヘリで島から脱出したとしても、政府がこのデスゲームを知ってしまったプレイヤー達を連れ戻しに来るだろう。だから結局、お前達は逃げ場なんてない、デスゲームからは逃れられない」
Mr.Xが不敵な笑みとともに絶望を突きつける。
このデスゲームを仕組んだのは国そのもので、そんな巨大な組織に立ち向かう力など、ニートやショタなどにあるはずがない。
結局、いまの優勢な状況はその場しのぎの一時的なものに過ぎない。
そう、このデスゲームからは逃れられない。
その超えられない現実を目の前にしたニートが神妙な面持ちで口を開いた。
ニート「ところでさ、由紀って誰?。彼女さんかなにか?」
Mr.X「なっ、なぜお前が由紀のことを!?」
ニート「さっきお前が落としたロケットペンダントに『FOR YUKI』って刻まれてたからさ」
そういうとニートはMr.Xが落としたロケットペンダントを見せびらかした。
Mr.X「バ、バカ!返せ!!」
Mr.Xはニートの方に振り返り、無理矢理ニートからペンダントを奪い返そうとしたが、ニートはそれをさっとかわした。
ニート「ほら、運転中はよそ見しない!!。前を見て!前を!」
Mr.X「く、くそっ…返せ!!」
ヘリを運転中のMr.Xはその場を離れるわけにもいかないため、なす術がなかった。
ニート「えぇー、どうしようかなぁ。返してもいいけどなぁ、人に物を頼むのにも態度って物があるでしょ?」
Mr.X「…か、返してください」
ニート「よく言えまちたね、えらいでちゅね」
Mr.X「こいつ…後で殺す」
ニート「で、この人って彼女なの?」
Mr.X「…彼女ではない」
ニート「へぇ、じゃあ片想いなんだぁ。でも、付き合ってるわけでもないのに、写真付きでペンダントとか…ちょっと重くない?」
Mr.X「黙れ黙れ黙れ!!お前には関係ないだろ!!」
ニート「関係ないことないだろ。お前だって島に設置されたカメラを通じて、俺の恋愛だってバッチリ監視してたんだろ?。一方的に知ってちゃフェアじゃないでしょ、フェアじゃ」
Mr.X「こ、この野郎…」
ショタ「お兄ちゃんに弱みを握られせちゃいけないよ」
ニート「で、この人ってどういう関係で知り合ったの?」
Mr.X「…高校時代の同級生だ」
Mr.Xはあまりのニートのウザさに観念したのか、簡単に白状した。
ニート「高校時代の同級生か…いいなぁ。俺も女の子と関わりのある高校生活を送りたかったなぁ」
ショタ「お兄ちゃん、高校中退しちゃったもんね」
ニート「そうそう。俺だって仲の良い女の子が学校にいたら高校を辞めてなんかいなかったろうに…。ちなみに、由紀さんとはどういう出会い方をしたの?」
Mr.X「…校舎の屋上から飛び降り自殺をしようとしたときに出会った」
ニート「マジで?。ちょっと俺も屋上から飛び降りて来るわ」
ショタ「それはカグヤお姉ちゃんが悲しむよ」
ニート「っていうかさ、アニメとか漫画とかでさ、高校生は漏れなくみんな青春してるの見てたからさ、高校時代の俺はそういう青春を送るのが当たり前だと思ってたよ。でも現実は違った。初登校でパンをくわえた女の子とは出会えないし、謎の美少女転校生は現れないし、ましてや空から女の子が降ってくるなんて夢のまた夢だったんだよ」
ショタ「でも、お兄ちゃんにはカグヤお姉ちゃんがいるじゃん」
ニート「そう!そうなんだよ!。そんな無職童貞ヒキニートの目の前にいきなり幼馴染が現れたらさ!そりゃあ好きになるよね!?。もう幼馴染って設定だけで好きになれるよ!?俺なら」
Mr.X「なぁ、こんなときにお前はなんの話をしてるんだ?」
ニート「恋話だが、それがなにか?」
Mr.X「いや、もっと危機感とか感じないのか?。お前たちに立ちはだかっているのはこの国の権力そのものだぞ?。それなのに…なぜそんなにも気楽でいられる?」
ニート「そうだなぁ…なんて言えば良いかなぁ。正直、敵がデカすぎるのと、分からないことがありすぎて危機感を実感できないんだよな。それなら、もういっそシリアスな話はやめて茶番で盛り上がろうかな、と思ってさ」
Mr.X「はははっ…ニートのくせに危機感を感じ無いとは。…いや、ニートだからこそか」
そう言うとMr.Xは少し笑って見せた。
Mr.X「笑わせてもらった礼に、一つ良いことを教えてやろう」
ニート「なんだ?」
Mr.X「由紀は…田中さんの娘だ」
ニート「マジで!?似てねえな!!」
それからヘリがボスのいるビルに着くまで、話題は絶えなかったそうだ。
ボス「お待ちしてましたよ」
高層ビルの最上階にそびえ立つ天空のオフィスでその人物は待ち構えていた。
ボス「一応、直接お会いするのは初めてですね」
Mr.Xを人質とした2人を前にしても、ボスからは焦りが見えず、余裕があるように感じた。
ニート「お前がこのデスゲームの黒幕か?」
ボス「…まぁ、そういうことになりますね」
ニート「だったらお前に要求するぜ。人質の命が欲しかったら大人しく…大人しく…。あれ?そもそも何しに俺たちはここに来たの?」
ショタ「僕たちの安全を保障してもらうためだよ」
ニート「そ、そうか…。人質の命が欲しかったら、俺たちの安全と職を保障しろ!!」
Mr.X「さりげなく職を追加要求するのか…」
ショタ「お兄ちゃんって、普段働きたくないって言ってるくせに、こういうところで職を欲しがるよね」
ニート「なるべく簡単で給料の高い職でお願いします!!」
ニートはお辞儀しながら誠心誠意、良い職を懇願した。
そんなニートのマイペースを無視して、ボスは淡々と語り出した。
ボス「萩山レンジ…天城ショウタ…我々を欺き、島から脱出し、ここまでやってくるプレイヤーがいるとは驚きましたよ。時を超え…世代を超えて巨悪に立ち向かうその雄姿に改めて人類という種の強さを実感させていただきました。正直、感動すら覚えましたよ。母は子のために命を投げ、そして子は母のためにそれでも笑う。もしも、このデスゲームに私個人のささやかな私情を挟む余地があるというのなら、貴方方を誠心誠意保護していたでしょう。しかし…」
そう語るボスが指を鳴らしたその時、オフィスを覆う窓ガラスという窓ガラスが全て割れ、ヘリのライトの光とともに100人近くの武装した兵隊が銃を構えて中に入って来た。
ボス「我々は1人の人間の命のためにこの世界を天秤にかけるわけにはいきません」
Mr.X「やはり…あなたには俺1人の命など見えて無いのですね?」
ボス「はい。でも…それがあなたの本望ですよね?」
Mr.X「もちろん。由紀のためなら…こんな命など…」
ボス「人質の了解も得ましたし、これでもうその人質に価値などありません。ゲームオーバーですよ、エンジェル」
ボスが右手を上げ、今にも兵隊に命令を送ろうとしたその時、ショウタが口を開いた。
ショタ「知ってるよ。だから…Mr.Xは人質なんかじゃないよ。本当の人質は…」
そう言うとショタは持っていた銃の銃口を自らの頭に突きつけた。
ショタ「本当の人質は、僕自身だ」
ボス「…いきなりなにを言いだすと思えば…人質は自分自身であると?」
ショタ「そう。君達が欲しいのは僕でしょ?。だからこんな回りくどい真似をして、僕をここまで誘い込み、わざわざ大人数で囲ったんでしょ?。普通、こんな小さな子供相手に、こんな大人気ない真似しないでしょ?」
ニート「…どういうことだよ?ショウタ」
ショタ「デスゲームの中で生まれ、デスゲームの中で育った僕は、彼らにとってこんな大人気ない真似をしてでも手に入れたい貴重なサンプルだってことだよ」
冷静に語るショウタを目の前に、ボスはしばらく黙り込み、そして…
ボス「…ふふふ、はっ!はっ!はっ!。素晴らしい!素晴らしいぞ!天城ショウタ!!。やはり君が…君こそが世界を救う糸口なのだな!!」
ボスは一通り高笑いをした後、近くにあった椅子に座った。
ボス「こうなってしまっては立ち話もないだろう。座りたまえ、エンジェル」
ショタ「よかった。はっきり言って確信はなかったから不安だったよ」
ボス「どうやらこのデスゲームは…私を交渉のテーブルに座らせた君の…君達の勝ちのようだな」
促されるままに席に着いたショウタの要求は一つだった。
ショタ「僕の要求はただ一つ…他のプレイヤー達を自由にして欲しい」
ボス「よかろう。だが…プレイヤー達を解放するのは記憶を消去した後だ。そして、君にはモルモットとして、一生涯、我々の実験に付き合ってもらおう」
ショタ「うん、分かってるよ」
ニート「お、おい…ショウタ…これはどういうことだよ!?」
ショタ「そのままの意味だよ。僕が実験のサンプルになる代わりに、島にいるみんなを解放して貰うんだよ」
ニート「バカを言うな!!。それじゃあ…それじゃあお前は…」
ショタ「大丈夫。僕ならそれでも笑っていられるから」
ショウタは笑顔でそう答えた。
それと同時に、何人もの兵隊達がショウタを囲み、どこかに連れて行こうとした。
ニート「馬鹿野郎!!。お前が…モルモットだなんて…」
ショウタを追おうとするニートの目の前に何人もの兵隊が立ちはだかる。
ニート「ふざけるな!!お前だけがモルモットだなんて…」
それでもニートはショウタを追おうとするが、取り押さえられて動けなかった。
だから、代わりに声だけでもショウタに届くよう…せめて想いだけでも伝わるように…レンジは声の限り叫んだ。
ニート「お前だけが…お前だけがモルモットとか…羨ましいだろ!!」
ショタ「え?」
Mr.X「は?」
ボス「ん?」
兵隊100名「へ?」
ニート「俺もモルモットでいいから養われたい!!モルモットでいいから養われたい!!!!モルモットでいいから養われたい!!!!!!!!!!」
大切なことなので3回繰り返したニート。
この後に及んでプライドも何もかも吐き捨てて、ヒモ魂を爆発させるクソ野郎。
小さな子供が駄々をこねるように何度も恥をさらして叫ぶゴミ屑。
でもそれは…そうでもしないと、ショウタが1人になるって知ってのこと…。
ショタ「ふふっ…はははははははは!!!!!!」
そんなニートを見て、ショタはお腹を抱えて笑い出した。
ショタ「うん、ありがとう、お兄ちゃん。でも僕は1人でも大丈夫だよ!。それに…お兄ちゃんにはやってもらいたいことがあるからね!」
ニート「なんだよ!?。なんの話だよ!?」
ショタ「やっぱりお兄ちゃんにシリアスなのは似合わないよ。でも、お兄ちゃんはそれでいい…いや、だからこそ、お兄ちゃんじゃなきゃダメなんだ」
ニート「だからなんだよ!?。分かんねえよ!!」
ショタ「お兄ちゃん…翼は君に託したよ」
それだけを言い残して、ショウタはニートの前から去って行った。
ボス「さて…島に放置された兵隊の回収と、島に残ったプレイヤーを全員、ここに連れて来て、記憶を抹消して解放してください」
ボスの指示によって兵隊は慌ただしく動き始めた。
兵隊に取り押さえられたニートはただただ流されるがままにどこかに運ばれた。
アパレル「で、ここはどこなの?」
突然、島から連れ出されたアパレルは頭に謎の金属製の機械を取り付けられ、とあるビルの地下の一室で座らされていた。
田中「…悪いが、いまから記憶を消させてもらう」
アパレルの前に姿を現した田中さんはアパレルに告げた。
アパレル「あら?もしかしてその声…田中さん?」
田中「そうだが?」
アパレル「キャアア!!生田中さんだぁ!!」
声で田中さんと見破ったアパレルは、ようやく見れた実物の田中さんを見て歓喜の声を上げた。
田中「…そんなに騒ぐことか?」
アパレル「だって!だって!あの田中さんなのよ!。楽しい、仲良し、かわいそうの田中さんなのよ!」
田中「その呼び方やめて欲しい」
アパレル「それで、記憶を消すってどういうこと?」
田中「そのままの意味だ。プレイヤーを解放するにあたって、デスゲームの情報が漏洩しないように、この機械で記憶を完全に消去するのだ」
アパレル「完全に消去って…全部?」
田中「ああ…デスゲームに関係ない事も全部な」
アパレル「あと、解放するってことは…私はまた借金に追われる生活を強いられるってこと?」
田中「安心しろ。借金なんかで目立たれて、デスゲームのことがバレたら困るから、こちらで借金は完済してある」
アパレル「あら?気前いいわね。自分の記憶を売って借金を返したと思えば、安いものね」
田中「そうか…意外に気楽なんだな。それなら、早速記憶を消させてもらうぞ」
アパレル「分かったわ。…でも、やっぱり少し…寂しいわね」
そう呟くと同時に、頭の機械が光りだし、アパレルは気を失った。
係長「結局、僕たちはなんのためにデスゲームをやらされていたの?」
椅子に拘束された係長は田中さんにそう問いた。
田中「どうしても、我々は殺人衝動のメカニズムを解き明かす必要があったのだ。あのデスゲームはそのための実験だったのだ」
係長「殺人衝動のメカニズムか…。そこまでして知る必要があったのかい?」
田中「…わからん。だが、娘のためにも、ワシは止める気にはなれなかった」
係長「そっか…娘のためなら仕方がないよね」
田中「…では、そろそろ記憶を消させてもらうぞ」
係長「はいはい、いつでもどうぞ。…あ、そうだ、田中さん」
田中「なんだ?」
係長「僕達は、あなたの役には立てたのかい?」
田中「…たぶん、な」
係長「それはよかった」
そして、係長は気を失った。
ビッチ「へぇ…ショタ君が頑張ってくれたんだ」
椅子に拘束されたビッチは田中さんからショウタがエンジェルとして果たしたことの転末について聞いてそう呟いた。
田中「ワシも驚いた。まさかあのショタ君がエンジェルだったとはな…」
ビッチ「でも、言われてみればショタ君は初めから島について詳しかったな。それは子供ならではの適応力の高さのおかげだけじゃなかったってことね」
田中「ワシの前で良い子にしてたのも、ワシを懐柔するためだったのだろうな」
ビッチ「それはどうかな?。田中さんと話している時のショタ君、本当に楽しそうだったよ」
田中「そうだといいのだがなぁ…」
ビッチ「確かに、ショタ君にはエンジェルという裏の顔があった。でも…表のショタ君が全部嘘だったわけじゃない。全部演技だったわけじゃない。たぶん本能で自然体でいることこそ、一番だってショタ君は気付いてたと思う」
田中「…うむ、そうだな。ショタ君はショタ君だ。それは間違いないからな」
ビッチ「前向きだね、田中さん」
田中「まあな。…そろそろ記憶を消去するが、大丈夫か?」
ビッチ「記憶かぁ…イケメンさんとの日々も忘れちゃうのかぁ…。でも、まぁ…他に男作ればいいか」
田中「ファック、くそビッチ」
ビッチ「あ、でも…みんなでまた花火をやるって約束を守れないのは残念だな…」
それを最後に、ビッチは気を失った。
イケメン「島での生活、楽しかったよ、田中さん」
田中「そう言われると複雑な気分になる」
イケメン「素直に喜んでくれたら嬉しいんだけどね」
田中「ところで…デスゲームのプレイヤーの経歴は参考のために調査されるのだが…お前の経歴だけ、調査出来なかったのだが…お前は島に来る前は何をやってたんだ?」
イケメン「困るなぁ…そんなに僕のことが気になるのかい?」
田中「いや、やっぱりいいや。それじゃあ、そろそろ記憶を消すぞ」
イケメン「でも…せっかくなのでヒントだけ差し上げようかな。僕の名前は平間和也…だけど、それは本名ではないよ」
田中「…え?」
イケメン「じゃあ、またお会いしましょう、田中さん」
それだけ言い残して、イケメンは気を失った。
犯罪者「そうか、エンジェルのやつ…上手くやったんだな」
田中「そういえば…お前はショタ君がエンジェルだって知ってたんだっけ?」
犯罪者「ああ。島に来る前はネット上でのやりとりだけだったがな…島に来て、エンジェルだと打ち明けられた時は驚いたさ。まさか、あんなに小さな子供がエンジェルだったとはな…」
田中「まったくだ…まさか天使のようなショタ君があのエンジェルだったなんて…」
犯罪者「それは別におかしいことじゃないだろ。とにかくあいつは、このデスゲームを止めるために7年間生きて来たからな…それ相当の能力がその過程で自然と養われたんだろう」
田中「さすがはショタ君だな」
犯罪者「そういえば…俺は記憶を失った後はどうなるんだ?。ブタ箱に入れられるのか?」
田中「それについてだが…こちらはその件に関しては不問とさせてもらう」
犯罪者「不問?。…それは俺の殺人を見逃すってことか?」
田中「そういうことだ。殺人の容疑にかけられて、記憶を失ったお前が目立つのはこちらとしても避けたい。お前が親玉を殺した暴力団にも、お前に金輪際、手を出さないように釘を刺してある」
犯罪者「それはありがたいが…さすがに罪悪感を拭えないな」
田中「気にするな。どうせ忘れるんだからな」
犯罪者「それもそうか…」
田中「じゃあ、そろそろ記憶を消すぞ」
犯罪者「その前に田中さん」
田中「なんだ?」
犯罪者「デスゲームは本当に終わったのか?」
田中「終わったさ…一旦は、な」
犯罪者「まだ…本当に終わったわけではないんだな…」
そして、犯罪者は気を失った。
JK「じゃあ、レンジもショタ君も無事なんだね?」
田中「今のところは2人とも無事だ。ニートはこの後に記憶を消去する予定だがな」
JK「ショタ君の記憶は消さないの?」
田中「大切なサンプルのデスゲームでの記憶を消すわけにはいかないからな。ショタ君の記憶は消されない」
JK「そっか…じゃあ、ショタ君だけがみんなを覚えてることになるのか…」
田中「そうだな。だが、ショタ君のことは心配するな。ワシが近くにいるから、なんとかショタ君のサポートをしてみるさ」
JK「田中さんがサポートしてくれるのか…。あんまり頼りないけど、田中さんがいるなら、ショタ君は大丈夫そうだね」
田中「ああ、任せろ」
JK「ところで田中さん。記憶を消すってことはさ…楽しかったことも、悲しかったことも全部消すってことだよね?」
田中「その通りだ」
JK「記憶が消えて、もとの生活に戻って…私はまた1人になるのか…」
田中「すまないな、これもワシの仕事だからな…」
JK「別に良いよ、気にしないで。…どうせ、プラマイゼロなんだから」
田中「プラマイゼロ?」
JK「忘れたくないことはたくさんある。でも…忘れたいものも同じくらいあるから…」
田中「そうか…」
JK「でも私は大丈夫。もう…1人には慣れたから…」
そして、JKは気を失った。
田中「さて、お前で最後だ、ニート」
ニート「へぇ、田中さんって、こんな見た目してたんだ。記念にサインでも貰っていいかな?」
田中「なぜどいつもこいつもワシを好奇の目で見るか…」
ニート「だって田中さんだもん」
田中「理由になってないだろ。それで…記憶が消える前になにか聞きたいことはあるか?」
ニート「え?。…いや、別に無いかな」
田中「無いのか?聞きたいこと」
ニート「デスゲームのことはそんなに興味も無いし、ショウタは田中さんが側にいるから多分大丈夫だろうし…そうなると、特に聞きたいこととかは無いかな」
田中「本当に良いのか?。聞きたいことを聞けるチャンスだぞ?」
ニート「あ、それなら、田中さんの下の名前を教えてよ」
田中「わしの下の名前?。『総一』だが?」
ニート「へぇ、田中総一か…良い名前じゃないか」
田中「そんな質問でよかったのか?」
ニート「俺とお前との仲だし、それで良いんだよ、総一」
田中「馴れ馴れしいし、ムカつくから下の名前で呼ぶのはやめろ」
ニート「っていうかさ、忘れるだけで、記憶をなくしたわけじゃないんだから、そのうちひょっこり戻るよ。だから大げさに考える必要も無いでしょ」
田中「さすが、経験者は心構えが違うな」
ニート「そう、無くしたわけじゃないんだ。だから…いつかみんなの記憶が戻ったら、またみんなであの島に行く。約束のため…みんなのため…なにより、養ってもらうために!」
田中「そうか…お前らしいよ。頑張れよ」
ニート「あ、そうだ、総一も来るか?」
田中「ワシは…ちょっとだけにしておこう。あとさりげなく下の名前で呼ぶな」
ニート「でもちょっとは来てくれるんだな」
田中「まあ、少しくらいならな。…さて、それではそろそろ記憶を消させてもらうぞ」
田中さんが装置のスイッチを入れると、機械の稼働音と共に機械が動き出した。
田中「最後に言っておくことはあるか?」
田中さんのそのセリフに、ニートは親指を立てて一言つぶやいた。
ニート「アイルビーバック。…一回言ってみたかったんだ、これ」
田中「まったく…最後の最後までお前らしいよ、ニート」
そして、視界は闇に包まれた。
こうして、この残虐無慈悲(?)なデスゲームは、エンジェルの1人の犠牲と引き換えに、プレイヤーは勝利を得ることが出来た(おじいちゃんはノーカン)。
力を合わせ、巨大な敵に立ち向かった勇敢なるプレイヤー達を待っているのは、元の日常へと帰っていく。
記憶が無いとはいえど、元の場所に帰ることになら順調に順応していくだろう。
そしていつしか、島でのことなんて無かったかのように、当たり前の日常を過ごし、やがて島での出来事を完全に忘れてしまうだろう。
それでも、彼らは時々、無いはずの記憶に想いを馳せ、同じ空を見上げるのだろう。
いつか再び巡り会うその日まで…。




