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つまり養ってくれるってことですか?  作者: なおほゆよ
無人島編
39/52

それでも母が笑うから

前回のあらすじ


ニートはショタの叔父。




登場人物紹介


萩山レンジ (ニート) 当時13歳


天城ショウタ (ショタ) 当時4歳 この時の苗字は天城ではなく、如月。


如月 薫 ニートの姉で、ショタの母。


石川哲也(おじいちゃん) 前回のデスゲームでMr.Xをやっていたが、田中さん並みのポンコツゲームマスターであった。





ショウタ「お母さん、お休みする前に絵本読んで」


日が沈み、星だけが島を照らすある日の夜、暗闇に包まれた洞窟の中でショウタは母にそんなお願いをした。


薫「いいわよ。でも、絵本は無いから代わりにお母さんのオリジナルの昔話を聞かせてあげるわ」


ショウタ「わーい」


薫「昔々、ある島に9人くらいのおじいさんとかがいました」


レンジ「冒頭から曖昧だね」


薫「なんとおじいさんとかは殺し合いをするためにMr.Xと呼ばれる人物によって、その島に連れて来られた人達でした」


レンジ「子どもに聞かせるには物騒な話だね」


薫「ですが、いきなり一般人が殺し合いをしろなんて言われても、そんなことはそうそうできないので、とりあえずおじいさんとかはせっかく島に来たんだから島での生活を謳歌することに決めました」


レンジ「まんま僕たちの話だね」


薫「お人好しでチョロインのMr.Xをなんやかんやで懐柔したおじいさんとかは、物資にも恵まれ、豊かで健やかで、楽しい無人島生活を送ることが出来ました。ですがある時、おじいさんとかの内の1人が妊娠していたことが分かりました」


レンジ「子を身篭った時点で、その人をおじいさんとかの内訳にするのは相応しくないね」


薫「子を身篭ったその人は思いました。『もし、この島でこの子が産まれたら、この子に未来はあるのだろうか?。この子は幸せになれるのだろうか?』。そう考えたその人は、このデスゲームに子供を巻き込まないために、誰にも気が付かれることなく、この子を産み、育てることを決意しました。ありとあらゆる手段を使い、その人は無事に誰にも気が付かれることなく、子を産み、育てることが出来ました。その間にデスゲームは進行し、とうとう島に残ったのはその人と、その弟と、産まれた子供の3人になりました。産まれた子供の存在はMr.Xにはバレていなかったので、実際のところ、姉か弟のどちらかが殺されればゲームは終わるのでした」


薫がそこまで話すと、幼いショウタはスヤスヤと寝息を立て、幸せそうな寝顔で眠っていたことに気が付いた。


薫「子供を寝かしつけることと自然なあらすじを同時にこなしてしまう私はやっぱり凄いわね」


レンジ「メタ的な視点で物事を語るのはやめようよ」


薫「さて…私達も寝ようか」


レンジ「うん…おやすみ、お姉ちゃん」


薫「おやすみ、レンジ…ショウタ」


寝静まり、しばらく沈黙が続いた後、レンジはボソリとつぶやいた。


レンジ「ねぇ、お姉ちゃん」


薫「なに?」


レンジ「さっきの話…続きはどうなるの?」


薫「…考えてないや」


レンジ「あとは…俺を殺せばデスゲームは終わる。そうすればショウタも自由になれるよ」


薫「…無理よ。いくらすでに1人殺したからって…私にレンジは殺せない。…レンジこそ、私を殺せば自由になれるよ」


レンジ「そんなの…絶対に嫌だ」


薫「だよね…はははっ」


そう言うと薫はヘラヘラ笑って見せた。


レンジ「笑わないでよ…こんな時にさ」


薫「こんな時だからこそ…悲しい時こそ、茶番で笑った方がいいのさ」


ショウタをデスゲームに巻き込まないため、ショウタの存在をMr.Xに知られるわけにはいかなかった。


島のいたるところに監視カメラが設置されている現状、ショウタはカメラが無いこの薄暗い洞窟で過ごすことを余儀なくされた。


そんな狭い洞窟の中でしか生きられない不自由なショウタが幸せそうな寝顔をしているのはきっと、それでも母が笑うから…。











薫「今日は大量じゃああああ!!!」


バケツ一杯に魚を釣り上げた薫はショウタが待つ洞窟に帰ると笑顔でそう叫んだ。


レンジ「やっぱり、お姉ちゃんは魚釣るの上手いな」


薫「攻略法があるのよ、攻略法が。今度教えてあげる」


ショウタ「お母さん、僕にも教えて」


薫「いいわよ。ショウタはお母さんの子だから、きっとすぐに上手くなるわよ。まず、魚が集まりやすい潮の流れを見極める方法なんだけど…」


薫は釣りのコツを一通り教えた後、素早く焚き火をくべて、手際よく火を付けた。


薫「さあ、今日の晩御飯は焼き魚よ」


ショウタ「わーい!。僕、お母さんが作る焼き魚大好き!!」


薫「得意料理が焼き魚とか…私の女子力低くない?」


レンジ「有り余る逞しさと男勝りのワイルドがお姉ちゃんの女子力をかき消してるよ」


薫「そんなバナナ!?」


レンジ「そんなバナナとか言っちゃうお姉ちゃんがそんなバナナ」


ショウタ「バナナってなに?」


薫「あっ…バナナっていうのはね、細長くて黄色い果物よ」


ショウタ「おいしいの?」


薫「うん、おいしいわよ。…いつか、食べられる時がきっと来るわ」


ショウタ「わーい!!バナナバナナ!!」


レンジ「そういえば…前々から石川のおじちゃんに頼んでいた物が届いたよ」


レンジはそういうと近くにあった大きなジュラルミンケースを開け、その中に敷き詰められた大量の花火を2人に見せた。


薫「やっぱりレンジのお願いなら簡単に聞いてくれるのね。さすがチョロインの石川さん!」


ショウタ「これが…花火?」


レンジ「この先っぽに火をつけると…」


レンジはそう言って花火を一本取り出し、先端に火を付けた。


熱を得た花火の火薬は鮮やかな光と音を伴って燃えだした。


ショウタ「うわぁ…綺麗だね…」


初めて見る花火にショウタは魅了された。


薫「ショウタは1人じゃ危ないから、お母さんと一緒にやろうか」


そう言うと薫はショウタに花火を一本握らせ、その小さな息子の手を包み込むように優しく握りしめた。


手の元で輝くその火の光は、この小さな洞窟と、母とレンジが話す世界が全てだったショウタには目新しいものだった。


薫「ショウタは…私にとって天使みたいな存在さ」


突然、母が優しい声でショウタの耳元でつぶやいた。


ショウタ「天使?」


薫「そう、みんなを幸せにしてくれる存在。英語で言うとエンジェル」


レンジ「なんで英語で言ったの?」


薫「天使には笑顔しか似合わない。…だから、ショウタもずっと笑ってて欲しい」


ショウタ「うん。お母さんが笑ってくれるから、僕も笑っていられるよ」


薫「そっか、それなら…私も頑張って笑わないとね」


レンジ「笑顔って頑張って作るものなの?」


薫「ときにはそういうことも必要さ」


優しいレンジのそばで、大好きな母に包まれ、ショウタは初めての花火を楽しんだ。


それは温かくて、優しくて、楽しくて、幸せな時間。


でも、幼いショウタにだって分かってた。


この時間はいつか終わるってものだって、分かってた。


薫「笑顔でいれば、それだけで幸せさ」


それでも母が笑うから、大丈夫だって信じてた。










薫「…大丈夫?。ショウタ」


ショウタ「うん。…大丈夫だよ…お母さん」


レンジ「しんどくなったら言えよ、ショウタ」


ある夏の日のこと…ショウタは熱を出し、病気に冒されていた。


暑さによる風邪か…それとももっと別の何かか…。


原因は定かではないが、とにかくショウタの熱は何日経っても下がらなかった。


医療の覚えも、施設もなくて、なす術もない2人は、時だ経つに連れ、だんだん弱っていくショウタを見守るしか出来なかった。


そして、ショウタが床に伏せてから10日後…。


薫「やっぱり…熱、下がらないわね」


明らかに痩せ細り、弱り切ったショウタを目の前に母は…。


薫「でも大丈夫。私がなんとかしてみせるから」


それでも笑って見せた。


そして…


薫「ねぇ、レンジ。この前、ショウタに話した私が考えたオリジナルの昔話を覚えてる?」


レンジ「そりゃあ…覚えてるけど…」


薫「私さ、あの話の続きを思いついたんだけど…聞きたい?」


それでもニッコリと笑う母親の姿に、レンジは嫌な予感がした。


レンジ「嫌だ…聞きたくない…」


薫「姉か弟のどちらかが殺されればこのデスゲームは終わることを知った姉は、産んだ我が子を守るために自らの左胸にナイフを突き立て、自殺したのでした」


レンジ「やめて…嫌だ!!」


薫「そして、残された弟は姉の子供を守るために、亡くなった姉の死体から首を切り取り、子供と一緒に麻袋に詰め込み、その袋ごと大きなジュラルミンケースに詰め込み、それを担いでMr.Xの手によって島から脱出しました」


レンジ「やめて!!お姉ちゃん!!。聞きたくない!!聞きたくない!!」


薫「Mr.Xは弟が持って来たケースの中身が気になり、ケースを開け、中の袋を少し確認しましたが、入り口に見える姉の生首に目が行き、それ以上、中身を見ようとしませんでした」


レンジ「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!」


薫「結局、存在がバレなかったその子供は、島を無事に脱出し、優しい誰かに拾われて幸せに暮らしましたとさ。そしてそれっきり、島で争いが起こることなく、平和な日々が訪れましたとさ。めでたしめでたし」


レンジ「やめて!!嫌だ…もう聞きたくないよ…」


薫「レンジ。悲しい時こそ、笑顔だよ」


レンジ「そんなの…笑えないよ…」


薫「それでも、私達にシリアスなのは向いてないからさ。茶番だと思って、笑って欲しい」


レンジ「そんなの…無理だよ…。全部茶番で終わらせるなんて…そんなのただの夢物語でしかないよ…」


薫「そうだね。全部、茶番で終われたら、それは素敵なことだよね。だから…シリアスなのはこれで最後にしよう。後のことは全部、茶番で、楽しく、みんなが幸せになるように終わらせて欲しい。お姉ちゃんとの約束ね」


レンジ「待って…やだよ!。お姉ちゃん!」


薫「じゃあ…私の天使をよろしくね。それと…ごめんね」


悪戯に笑いながらそう言うと、薫はナイフを拾い上げ…自らの左胸に差し込んだ。








夏の日差しが少年を焦がすように照りつける。


少年は汗にまみれながら、身の丈ほどの大きなジュラルミンケースを引きずるように背負い、歩き続ける。


そして、その荷物の中で、まだ年端も行かない小さな子供が母の首を抱いて笑う。


悲しみにくれ、涙を流し、閉じ込められた炎天下の密閉空間の狂うような暑さと、嫌でも鼻をつく生臭い匂い、そして1秒1秒身を削るような激しい病に侵されながら…小さな子供は笑う。






だって…それでも母が笑うから…。

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