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つまり養ってくれるってことですか?  作者: なおほゆよ
無人島編
37/52

由紀

前回のあらすじ


当たって砕ける前に逃げたニート。





登場人物の紹介


田中 殺し合いサバイバルゲームのゲームマスター。妻と娘が二人いるらしい。…Mr.X?誰のことだ?。


助手 田中の助手。デスゲームの行方は彼の手にかかっていると言っても過言ではない。


ボス ボスはボスでボス以外の何者でもない。なんか偉い人と繋がりがあるらしい。


Q プレイヤー達の安否の偽造工作員。兄貴と接触を試みる。




まだ高校生のとき、僕はお昼休みになると毎日のように学校の屋上に通っていた。


本来ならば立ち入り禁止のはずのその屋上には毎日先客がいた。


出会ったばかりの頃、どうしても屋上で1人になりたかった僕は、いつも僕よりも先に屋上に居座る彼女を疎ましく思っていたが、毎日のように屋上に通い、彼女と出会うたびにその考えを改めさせられ、いつしか僕がお昼休みに屋上に行くのは、当初の目的とは打って変わって、彼女に出会うためになっていった。


彼女は多くを語ることは無かった。


でも、彼女の一言一言は僕の心を見透かしたように的を得た発言であった。


「なんで毎日屋上なんかに来るの?」


僕が何気なく彼女に質問すると、彼女は笑いながらこう答えた。


「だって私がここにいなかったら…君は自殺してたでしょ?」


彼女の言う通りだ。


僕が毎日屋上なんかに通っていたのは…そこから飛び降りて死ぬつもりだったからだ。


だから彼女は…僕のために毎日…。


その時、僕は彼女に…由紀に恋してしまったのだ。


彼女について、僕は多くのことを知らなかった。


普段の生活も、趣味も、好きな食べ物も、誕生日すら知らなかった。


知ってることといえば、彼女は僕のために毎日屋上に来てくれていたこと、歳の離れた妹がいること、あと親友がいることとかその程度のことだった。


ただ、別にそれでも構わなかった。


確かに、彼女の普段の生活に興味があるのは事実だったが、命の恩人である彼女が幸せならそれ以外はどうでも良かった。


捨てたはずの命を拾ってくれた彼女の幸せのためならなんだってする。見返りなどいらない、もうそれ以上のお返しをもらったのだから。


由紀のためなら…なんだって…。


それがたとえ…人殺しであったとしても…。








プレイヤー達を監視するモニタールームに生気のない顔をした田中さんが入って来た。


助手「検査は終わったんですか!?由紀の症状はどうだったんですか!?田中さん!!」


モニタールームに現れるなり、助手は田中さんに詰め寄り、そう問いただした。


田中「由紀は…とうとう症状が第四段階に入った」


生気のない声で田中さんはそう答えた。


助手「第四段階!?。予定よりずっと早いじゃないですか!?」


田中「先日の侵入者との接触により、症状の進行が促進したのだろうな…」


助手「こうなってしまっては一刻の猶予も残っていません!!。デスゲームを少しでも進めるために、島に兵隊を派遣して、エンジェルを排除しましょう!!」


田中「………」


助手「田中さん?。聞いていますか!?田中さん!!」


田中「分からないんだ…」


助手「田中さん?」


田中「由紀のため…人類のためにこのデスゲームでプレイヤーを犠牲にするのが正しいのか…それとも…」


助手「何言ってるんですか、田中さん。あなたは由紀を…娘を見捨てるって言うのか!?」


田中「お前は今の由紀を見てないからそう言えるんだ!!。今のお前に由紀と面会する権限がないからお前は知らないだろうが…もう由紀は…由紀は…」


助手「…だから、由紀を見捨てるって言うのか?」


田中「………」


助手の問いかけに、田中さんはなにも答えることができなかった。


助手「そうだよな。…由紀がいなくなっても田中さんにはまだ娘が…由紀の代わりがいるもんな。でも俺にとって由紀に代わりなんていない!!。由紀の代わりなんていないんだ!!」


田中「由紀の代わりなんているわけないだろう!!。でもプレイヤーだって同じだ。誰にだって代わりはいないんだ…」


助手「いるさ。俺にとって…他人は他人。代わりなんていくらでもいる」


田中「………」


田中さんはなにも言い返すことができなかった。


助手「やはり、あなたにMr.Xは向いていない。今から私がMr.Xとなり、ボスに兵隊の件を直談判して来ます。…よろしいですね?」


田中「…任せた」


田中さんからのその言葉を聞いたあと、助手はモニタールームから出て行った。


そして、入れ違いとなるようにQが部屋に入って来た。


Q「田中さん…話はだいたい聞きました」


田中「Qちゃんか…。なあ、ワシはズルい大人だとは思わないか?」


Q「ズルい大人?」


田中「肝心な時に大切な選択を誰かに丸投げして、責任を逃れるようなズルい大人だとは思わないか?」


Q「そうかもしれません。田中さんは、プレイヤーと由紀のどちらが大切ですか?」


田中「もちろん娘だ。だけど…この前プレイヤー達が殺し合いをする様を目撃して…激しい後悔に包まれた。結局それはただのドッキリだったのだが、ワシの娘に対する決意はその時にアッサリと打ち破られた」


Q「エンジェルの仕掛けたドッキリにマンマとやられたわけですか…」


田中「それに比べて…あいつは偉いな。由紀に対する信念を絶対に曲げなかった」


Q「そうですね。…結局、私たちはMr.Xとエンジェルのどちらが勝つかを見守るしか出来ないんですね」


田中「せめて…この戦いで、1人でも多くの誰かが救われることを祈ろう」


Mr.Xとエンジェルの最後の戦いが…いま、始まる。

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