今日、僕の大好きなお姉ちゃんが…
前回のあらすじ
田中さん万能説。
登場人物紹介
萩山レンジ(ニート) 当時7歳
月宮カグヤ(JK) おなじく7歳
萩山薫 レンジの姉
今回は昔話です。
これはニートこと萩山レンジが7歳の時の物語である。
薫「いいこと?レンジ。いまからお姉ちゃんの言うことをよく聞いてね」
レンジの歳の離れた姉の萩山薫はレンジと目線を合わせて言い聞かせた。
薫「今回のお話はね、私とレンジ、それからカグヤちゃんの貴重な昔話でね、作者は過去話にあまり尺を割きたくない人だから、今後私達の昔話が描かれることは多分無いの。でも、今後の物語のために私達が仲良しだったことを今回の話だけで存分にアピールしなきゃいけないの。だから、いかに短く端的に私達がどれだけ仲が良かったかを読者の皆様に伝えることが重要なの。だから、今日はわざとらしいくらい、お姉ちゃん大好きアピールしておくのよ?いいね?」
レンジ「初っ端から台無しだよ、お姉ちゃん」
カグヤ「もうなにやったって茶番になっちゃうよ、薫お姉ちゃん」
薫「いやぁ…思い起こせば、私たちもいろいろあったわねぇ…。ほら、1年前にみんなで山にハイキング行ったの覚えてる?。途中で山の天候が荒れて、遭難しちゃってさ…なんとか近くの山小屋に避難できたけど、暖房具も無くて寒かったから、寒さを紛らわすためにみんなで抱き着きながら一晩過ごしたじゃない?。あのときは暗くて怖かったけど、いま思えばいい思い出よね」
レンジ「なんの脈絡も無く、唐突に昔の思い出話をするのやめようよ」
カグヤ「しかもハイキングには行ったけど、遭難なんかしてないよ。普通に山登って、普通に山下りて、普通に楽しかった思い出しか無いよ」
レンジ「いくら僕たちの昔話が今回しか無いから露骨に読者に仲良しアピールをするしかないとはいえど、事実の捏造はやめようよ」
薫「他にもさ、海に遊びに行って、調子に乗って浮き輪で沖の方まで泳いでたら帰れなくなって海で遭難したこともあったわねぇ」
レンジ「うん、それは覚えてるよ。…でも、調子に乗って沖の方まで泳いで遭難したのはお姉ちゃん1人だけだけどね」
カグヤ「私達は途中で引き返したから無事だったけど、お姉ちゃんは1人で沖まで泳いで行っちゃったからさ…」
レンジ「それをさぞかし3人一緒に遭難してしまったみたいな言い方やめようよ。お姉ちゃんの失態に僕達を巻き込まないでよ」
カグヤ「しかもなんでまた遭難ネタなの?。一緒に遭難したエピソードがないと仲良しアピール出来ないの?。お姉ちゃんの中で仲良しに遭難は絶対条件なの?」
薫「…君たち、7歳児の割に手厳しいね」
レンジ「そう言うお姉ちゃんも、もう23歳のいい大人なんだから、もうちょっと上手く出来ないの?」
薫「いい大人って言ってもねぇ…年を取るたびに大人ってなんなのかわかんなくなるもんなんだよ」
カグヤ「そんな哲学めいたこと言って話題をそらそうとしないでよ」
薫「じゃあ、なにを話せば私達の仲良しがアピールできるのよ?」
レンジ「そんなの…わかんないよ」
薫「というか、2人とも今日は暗いじゃない。いつもみたいにもっと元気な2人を、私は見たいのにな」
カグヤ「だって…薫お姉ちゃん…」
薫「だってもなにもないの。悲しいときほど、茶番で笑って欲しいの」
レンジ「でも…お姉ちゃん、いなくなっちゃうんでしょ?」
薫「今生の別れってわけじゃないんだから…大袈裟なのよ。例え苗字が変わっても、私が2人のお姉ちゃんであることは変わらないわ」
レンジ「お姉ちゃん…お姉ちゃん…」
カグヤ「薫お姉ちゃん…」
何度もお姉ちゃんを連呼する2人は、その度に瞳を潤ませ、ボロボロと涙をこぼした。
薫「泣くな、今日というおめでたい日に限って泣くな。2人が泣いてたら…私まで泣きたくなっちゃうだろ」
純白のドレスに身を包み、2人に微笑みかける萩山薫のほおに一筋の光零れ落ちた。
レンジ「お姉ちゃん!!」
カグヤ「薫お姉ちゃん!!」
涙に耐えきれなくなった2人は、薫に飛び付き、泣き付いた。
レンジ「行かないで…お姉ちゃん…」
薫「バカ、そのせいで婚期逃したらどうすんのさ」
カグヤ「結婚なんてやめよ…お姉ちゃん…」
薫「バカ、縁起でもないこと言うな」
薫は姿勢を低くして2人を抱きしめ、そして、同じようにボロボロと泣き出した。
レンジ「もっと一緒にいたいよ…」
薫「泣くな、レンジ。あんたが泣いたら誰がカグヤちゃんを守るのさ」
カグヤ「もっと一緒に遊びたいよ…」
薫「泣かないで。泣いたらせっかくの美人な顔が台無しだよ」
それから3人はひとしきり泣き…そして…
薫「じゃあ、行ってくるよ」
萩山薫は2人の元を去ってしまった。
そしてこの日を境に、彼女は如月薫に名前を変えた。