ぼちぼちボッチの話をしよう
前回のあらすじ
次回は着衣水泳回?なんの話だ?。
登場人物紹介
月宮カグヤ(JK)
今回はこいつだけ。
突然だが、季節は春。
満開の桜が舞い散り、街の景色を鮮やかに彩る春。
春は新たな出会いと別れの季節。
何かと変化が伴う心ときめく季節。
その変化は特に学校生活で顕著に見られる。
卒業、新入生、クラス替えなどなど、ここには様々な心ときめく変化がある。
しかし、とある一人の女子高生であるこの私、月宮カグヤに限ってはそんな変化は関係無い。
高校2年生となり、高校生活にもだいぶ慣れた今日この頃、昼休みを告げるチャイムが鳴り響くと私は我先にと立ち上がり、教室からいそいそと立ち去る。
さて、ここで問題です。
なぜ私は急いで教室から出たのでしょうか?
売店が混む前に早く行って購入したいから?。
いや、それは違う。なぜならば私は手作り弁当を持参しているからだ。
急ぎの用事があるから?。
いや、それも違う。なぜならば私に用があるやつなどここにはいないからだ。
じゃあ友達と昼ご飯を食べる約束をしてるから?。
いや、それもハズレだ。なぜならば私には友達などいないからだ。
そう、もうお分かりだろう。
ボッチの私が昼休みに行き着く先とは…トイレの個室である。
私は慣れた足取りで素早く、かつ誰味も見られないように隠密にトイレに入り、いつもの個室に辿り着いた。
ただいま、マイスイートプライベートルーム。
学校という名の公共機関に私だけの私的空間がそこには広がっているのだ。
誰の目を気にすることなくゆっくりと、一人で自由に過ごせるこの快適空間こそ、私の帰るべき場所なのである。
個室にたどり着くなり悠々と便器に腰掛け、お弁当を食べるのが私の日課だ。
…い、いや、べ、別に寂しくなんてないんだからね!。む、むしろ一人の方が邪魔されずに美味しく食べられるっていうか、マイペースなだけっていうか。っていうか、ペコペコ媚びへつらいながら群れる女子に混ざりたくないし!。私は友達が出来ないんじゃなくて、あえて作らないだけだし!だから孤独じゃなくて孤高なだけだし!。
などと心の中で自分を鼓舞するのも私の日課だ。
い、いや、だから寂しくなんてないんだからね!!。
…さてと、それじゃあそろそろいつものコーナーに行きましょうか。
題して…『月宮カグヤの、ボッチでトイレ飯!!』のコーナー!!。
さぁさぁ、今日の献立は何かな?。
おやおや?この鮮やかな黄色の物体はなんだい?。
もしやこれは…おぉっと!!出し巻き卵だぁぁぁぁ!!!。
お母さん直伝の我が家代々伝わる甘めの出し巻き卵だぁぁぁぁ!!!。
この絶妙な甘さと旨味のさじ加減…んんん!小さい頃にお母さんに習ってて良かった!!。
おっと!?こっちにいるのはもしやタコさんウインナー!?。
しかもこれはただのウインナーじゃない…シャウエッセンのちょっと良いウインナーだぁぁぁぁ!!。
噛んだ瞬間に肉汁の溢れ出すこのウインナーは唯一無二の存在!!。
続きましてこっちで存在を主張してるのは…真っ赤に輝くプチトマトだぁぁぁぁ!!。
優秀なのはその美しい見た目だけじゃない、多くの人を虜にするトマト特有の甘みと酸味のハーモニー!!。
味よし、見た目よし、食べやすさよしの3拍子揃った究極系球体型食品!!。
もう生まれ変わるならトマトになりたい!!。
いやぁ、朝早く起きて作った甲斐がありましたなぁ。
こんな豪華なお弁当を一人で独占できるなんて私は幸せだ。
友達なんぞいなくても、飯はうまい…これ、この世の真理也。
というか、友達なんていて何になるんだよ?。一緒に意味の無い会話して、一緒に無駄な時間を過ごして、一緒にご飯食べて、一緒に登下校して、一緒にどっか遊びに行って…チクショオ、楽しそうだな。
いや、違う違う。私としたことがなにを考えてるんだ?。
私は孤独じゃなくて孤高だから一人でも青春を謳歌できるやん。
あ、いけない、目から涙…じゃなくて汗が滴り落ちてるぞ。
あれ?今日のお弁当はやけにしょっぱいな?塩入れすぎたかな?。
そんな感じで私がいつものように塩辛くて世知辛いお弁当を食べていると、トイレに女子高生の集団が入って来た。
まるで私を蔑むかのように仲よさげに談笑するその数人の会話が聞こえて来た。
女子高生1「ねぇ、マスカラ新しくしたんだ」
女子高生2「え?マジ?。チョーカワイイじゃん」
女子高生3「カワイ過ぎてヤバい!!」
最近の女子高生は凄いなぁ、カワイイとマジとヤバいで会話してるからなぁ。
って、私も女子高生だろ!?。
などと一人でノリツッコミをする私…しかも心の中で…。あ、お弁当がさらにしょっぱくなった気がするぞ。
女子高生1「ってかさ、モトコ、最近カレシ出来たらしいよ」
女子高生2「マジ?。おめでたじゃん」
女子高生1「でも、モトコのカレシ、ちょっとガラ悪くてぇ」
女子高生3「へぇ、だからモトコ金髪に染めたんだね」
そうかそうか…とうとうモトコにも男が出来たのか…。
あのモトコにも男が出来たと思うと、シミジミとこみ上げてくるものがあるね…まるで親の心境だよ。
ところで、モトコって誰?。
などと、勝手に会話に参加する私…無論、心の中で。
その後も彼女らはどうでもいい話で間を繋いでいると、女子高生の内の一人がこんなことを言い始めた。
女子高生1「そういえばさ、ウチらの新しいクラスに月宮カグヤっているじゃん?」
女子高生2「あぁ…いたねぇ、まだ話した事ないけど…」
女子高生3「っていうか、誰かと話したとこ見た事ないけど。ボッチなの?」
女子高生1「多分ボッチ」
女子高生2「へぇ…トイレでご飯食べてそうな感じ?」
女子高生3「トイレでご飯とか、ウケる」
女子高生1「それでさ、なんでも昔、その子の母親が父親を殺したらしくてさ」
女子高生2「え?マジで?」
女子高生3「それヤバくない?」
他人事だと思って根掘り葉掘りあることないこと話されるのを尻目に、私は黙々と目の前のお弁当を食べ続けた。
やがて、女子高生の集団がトイレから出て行くのとほぼ同時に私はお弁当を食べ終わり、小さく『ごちそうさま』と呟いた。
大丈夫、噂されるのは慣れてる。
もはやあの程度で傷つく心など持ち合わせていない。
私の心はいつも通りの平穏で、波風なんて一つも無い。
だから大丈夫、一人でも大丈夫。一人なら何も怖くないから大丈夫。
でも…明日のお弁当は、少し塩気を減らしておこう。
こんな私があの島にたどり着くのは、この数ヶ月後の話である。