全てはあの木の下に託された
前回のあらすじ
特になし
人物紹介
ゲームマスター側
田中 殺し合いサバイバルゲームのゲームマスター。妻と娘が二人いるらしい。…Mr.X?誰のことだ?。
助手 田中の助手。デスゲームの行方は彼の手にかかっていると言っても過言ではない。
ボス ボスはボスでボス以外の何者でもない。なんか偉い人と繋がりがあるらしい。
Q プレイヤー達の安否の偽造工作員。兄貴と接触を試みる。
プレイヤー
萩山レンジ (ニート) 行方不明と記憶喪失の経歴がある。まだ本編では明かされていないが、デスゲームに参加するのは2回目である(ネタバレ)
月宮カグヤ (JK) 女子高生。レンジとは幼馴染。意外と闇が深い。
天城ショウタ (ショタ)7歳のショタ。虐待を受けて育って来たために家に帰りたがらない。
平間和也 (イケメン) 24歳のイケメン。島が気に入ったので家に帰りたがらない。
西谷マキ (アパレル) アパレルショップで働いていたが、親が残した借金が返せず、日々取り立てに追われていたので家に帰りたがらない。じつは農家の娘。最近、オカンと呼ばれるようになった。
小坂慎太郎 (係長) 年頃の娘と妻を持つ係長。娘から一緒の洗濯機で下着洗いたくないと言われたのがショックだったのか、家に居場所がないと感じて家に帰りたがらない。娘の名前はモトコ。
黒崎サナエ (ビッチ) 大学生のクソビッチ。イケメンを好きになったために家に帰りたがらない。ビッチに効く足ツボを刺激されると身も心も美少女のヴィッチさんに転生する。
鬼塚ケイ (犯罪者) 犯罪を犯し、警察に追われていたところを拉致された。シャバにいるより島の方が安全と判断して家に帰りたがらない。
石川哲也 (おじいちゃん)89歳のおじいちゃん。昨年ひ孫の顔も見れたのでもう現世に思い残すこともなく、少なくとも人を殺してまで家に帰ろうとはしない。覗きに失敗してこの世を去っていった。
エンジェル プレイヤー達の殺し合いを阻止すべく動く謎の人物。
その他
タケシ 黒崎サナエ(ビッチ)の彼氏と思われる人物。頑張れ、タケシ。
兄貴 タケシが襲ったヤクザの舎弟頭的な存在のインテリヤクザ。鬼塚ケイを探し出し、殺すことを目的としている。
ヤクザ 兄貴の部下のヤクザ。主に兄貴の解説役。
「…レンジ」
暗闇の中からいつか夢で見たあの人が声をかけてくる。
僕は先の見えない闇の中で声に誘われ、やがて声の主人の元に辿り着く。
月明かりに照らされたあの人の姿を僕ははっきりと視認する。
「…お姉ちゃん?」
彼女は昔みたいにニッコリと笑って、そしてもう一度僕の名を呼んだ。
僕が嬉しくなって彼女の元に駆け出そうとしたとき、彼女の後ろに誰かが立っているのが見えた。
その誰かがキラリと光るなにか取り出た。
彼女の危機を察した僕は必死に叫びながら全力で駆け寄るが、一向に声は届かないし、距離も近付かない。
そして、その誰かは彼女の首を目掛けて、キラリと光るなにかを全力で振り払った。
ニート「お姉ちゃん!!」
そんなことを叫びながら寝床から飛び起きたニートを他のプレイヤーは目をキョトンとさせながら見つめていた。
イケメン「大丈夫かい?」
ニート「…ああ、大丈夫。嫌な夢を見てただけだ」
係長「もしてして仕事に追われる夢でも見てたのかい?。僕もよく見るよ」
ニート「いや、そういう悪夢じゃなくて…」
係長「社畜に夢も現もないからね」
ニート「だからそういう夢じゃなくて…。っていうか、さらりと怖いこと言わないで」
JK「もしかして、薫お姉ちゃんの夢でも見てたの?」
そこにひょっこりと現れたJKがニートに聞いてきた。
ニート「薫お姉ちゃん?」
JK「レンジのお姉さん」
ニート「俺の姉?。…そういえばいるって聞いてたな」
イケメン「…どういうこと?」
JK「レンジには年の離れたお姉さんがいるんですけどね、レンジが行方不明になった時期と同じくらいの時期に行方不明になっちゃったんです。レンジは無事見つかりましたけど、お姉さんの方はまだ行方不明で…」
ニート「俺は記憶喪失でその人のことは知らないんだ、記憶喪失した後に会ったことないから。でも親から話は聞いてたから…」
JK「レンジは覚えてなくても私は昔よくお世話になったんで…」
係長「なるほど、なんか複雑な状況になってるんだね」
イケメン「そういえば、ニートが記憶喪失っていう話は聞いていたけど、詳しい話を聞いてなかったね。その辺、聞いてもいいかな?」
ニート「別にいいぞ。…えっと、まず俺が行方不明になったのが…何年前だ?」
JK「だいたい八年前だね。薫さんも同じくらいの時期に行方が分からなくなったの」
ニート「それで、俺が発見されたのが…三年前で、その時には記憶喪失になってたんだよな」
係長「5年間も行方不明になってたのかい?」
ニート「おう」
イケメン「それで、お姉さんの方はまだ見つかってないと…」
ニート「そうらしい」
係長「さっきから聞いてると、やけに他人事って感じがするね」
ニート「姉って言われても記憶がないからさ…」
イケメン「なるほど、実感が無いわけか」
係長「行方不明になったのが5年間のこと、全く覚えてないのかい?」
ニート「覚えてない。でも、もしかしたら俺は…この島にいたのかもしれない」
係長「この島に?なんで?」
ニート「なんでかは知らないけど、この島の景色に見覚えがあるんだ」
そんなことを話していると、そこにアパレルとビッチとショタが近づいて来た。
アパレル「あら?ニートがこんな朝早くから起きてるなんて珍しい」
ニート「嫌な夢を見て起こされたんだよ」
アパレル「目覚ましの代わりになっていいじゃない」
ビッチ「毎日悪夢を見れば早起きできるんだね」
ニート「頼むから普通に寝かせてくれ」
イケメン「起きるっていう選択肢は君の中にはないんだね」
ショタ「起きたんだね、ニートのにいちゃん」
ニート「おう、おはよう」
ショタ「ねえ、ニートのお兄ちゃんに見て欲しいものがあるんだ」
ニート「見て欲しいもの?」
ショタ「この前、島を散歩した時に見かけたんだけど…」
ニート「なんなんだ?」
ショタ「ここからちょっと遠いけど、一緒に来て欲しいんだ」
ニート「…まぁ、暇だし、付き合ってやるよ。…確かめたいこともあるしな」
イケメン「確かめたいこと?」
ニート「あ、いや…別になんでもない」
ショタ「それじゃあ、さっそく出発しよう!」
ショタに案内され、ニートとJKは山道を歩いていた。
ニート「…なんでついてきたの?」
JK「私も暇だからね。また前みたいに何時間もアリを観察しているわけにもいかないし」
ニート「…それもそうだな。ショタ隊長、結局どこに行くんだ?」
ショタ「あの山だよ!」
ショタは島で一番高い山を指差した。
ショタ「きっとあの山にお兄ちゃんに見せたいお宝が眠ってるよ!!あの山に向かっで出発!!」
ニート「元気だな、ショタは」
JK「隊長が『出発』って言ってるんだからそこは『オォー!』って返事するところでしょ」
ニート「頼りない隊長なこと…。っていうか、迷子になったらどうするんだ?俺たちだけで帰れるのか?」
JK「その辺は大丈夫でしょ。いざとなれば田中さんに電話すれば道案内してくれるよ、ショタ君もいるし」
ニート「…それもそうだな。田中さんチョロいしね」
JK「楽しい仲良しかわいそうの田中さんだしね」
ショタ「二人とも!早く早く!」
急ぎ足で歩くショタはゆっくり歩く二人を催促した。
ニート「ショタは本当に好奇心旺盛だな」
JK「あれくらいの歳の子供ならそんなもんでしょ。ニートだって小さい時は探検とか好きだったじゃん」
ニート「そうなの?。覚えてないからな…」
JK「小さい時は薫お姉ちゃんを連れ回して、いろんなところ探検して、それに私もついて行くって感じだったじゃん」
ニート「ふーん」
JK「薫お姉ちゃんが結婚して、家から出て行くまで、レンジはいっつも薫お姉ちゃんにベトベトしてたんだよ。それなのになにも覚えてないなんて…」
ニート「なにも覚えてないってわけでもないと思う」
JK「ん?」
ニート「最近、たぶんその薫お姉ちゃんの夢を見るんだよ」
JK「へえ、どんな夢なの?」
ニート「今朝見たのは…薫お姉ちゃんが誰かに首をはねられる夢だった」
JK「…やめてよ、そういう不吉な夢」
ニート「…ただの不吉な夢ならいいんだがな」
一方、住処に残っていたプレイヤーは…
犯罪者「…なぁ、誰かショタを見なかったか?」
アパレル「ショタ君ならニートとJKを引き連れて探検に行ったわよ」
犯罪者「ニートとJKか…微妙に頼りにならない連中だな」
係長「なにかショタ君に用事があったのかい?」
犯罪者「たいした用事じゃないからいいんだが…」
ビッチ「でも、ニートはともかく、確かにJKとショタ君は心配だな」
イケメン「大丈夫だよ、田中さんが見守ってくれてるはずだ」
係長「それもそうだね。田中さんが見守ってくれてるから安心だね」
ビッチ「流石イケメンさん!!頭いいぃ!!」
係長「ちょっと田中さんに電話して様子を聞いてみようか」
そう言うと係長は携帯を取り出して田中さんに電話をかけた。
係長「あ、もしもし?。係長です。いつもお世話になっております」
田中『もしもし?』
係長「いまショタ君達が散歩してると思うんですけど、いまどの辺にいるか分かりますか?」
田中『ショタ君ならいま島で一番高い山に登ってるところだぞ』
係長「あ、そうですか。問題なさそうですか?」
田中『ワシが見守っているからな、いまのところ問題はないのだが…。ただ一つ問題があって、おそらく昼過ぎ頃から雨が降るんだよな』
係長「雨ですか?」
田中『そんなに強い雨ではないから心配ないと思うのだが…』
しばらく山道を歩いていたニートたちの眼前に小川が流れていた。
ショタはそれを見かけるなり、慣れた動きで川から突き出た岩から岩にピョンピョン跳んで向こう岸まで渡った。
ショタ「ほら、2人とも、早く早く」
ショタに促されるが、ショタほど身軽に動けない2人は慎重に岩に向かって足を踏み入れた。
JK「これ…結構危ないよね?」
ニート「だからといって、ショタに負けるわけにはいかん」
JK「川に落ちて濡れるのはまだいいけど…携帯おじゃんにしたら田中さんに悪いな…」
ニート「…確かに」
ショタ「じゃあ落ちてもいいように携帯だけ僕が預かるよ」
ショタは身軽に岩を渡って2人の元にあっという間に辿り着き、再び向こう岸まで渡った。
JK「ショタ君、忍者みたいだね」
ショタ「毎日修行してるからね」
ニート「なにがともあれ、これで川に落ちる準備は整ったな」
JK「落ちるのが前提の言い方はやめよ」
ニート「いや、ここは落ちるべきだと思うぞ。川に落ちる→濡れる→服が透けるの自然の流れでテコ入れができる」
JK「なんでいっつもテコ入れの心配してるの?」
結局、落ちることなくJKは川を渡ったので、テコ入れはできなかった。…残念だ。
え?ニートはどうなったかって?。
落ちたよ、普通に。
足を滑らせて大きな水しぶきとともに小川に水没したニート。
幸なことに、川は15センチほどの深さしか無いため、溺れるなんてことは無いが、川底に尻餅をついて盛大に濡れてしまった。
JK「大丈夫!?レンジ」
ニート「大丈夫、大丈夫だが…全身ビショビショだわ」
JK「レンジのそういうテコ入れとか誰も得しないんだからやめてよね」
ニート「全くだわ」
JK「ほら、立てる?」
JKが小岩の上から手を差し伸べてきた。
ニート「悪いな」
JKの手を掴もうと腕を伸ばした時、ニートの頭に別の光景がフラッシュバックした。
以前もこうやって川に落ちたところを誰かに引き上げられたようなことがあったような…。
JK「大丈夫?」
ぼけっとするニートにJKは心配そうに聞いてきた。
ニート「あ、あぁ、大丈夫大丈夫」
そしてニートは差し伸べられた手をあの時のように握りしめた。
ショタ「次はこの道を渡るよ」
小川を超えてしばらく歩いた後、ショタが指さしたのは崖際の狭い道だった。
人1人通れるか通れないかくらいのその狭いその道をショタはスイスイと進む。
JK「今度は落ちたら洒落にならないわね」
ニート「テコ入れどころじゃないな」
JK「ところで、せっかく落ちて服も濡れたんだから、ニートはテコ入れしなくていいの?」
ニート「俺のテコ入れとか…需要が皆無でしょ」
ショタ「二人とも早く早く」
ショタに促されるがまま崖道を渡るニート。
以前はもっとこの道も広く感じたような…。
そんな既視感をニートは拭えずにいた。
崖際の道を超え、歩き続けること数時間…。
ニート「ハックション!!」
JK「…大丈夫?」
ニート「なんか…寒い気がする…」
JK「やっぱり濡れた服のままで来たのがマズかったかな…」
ニート「心なしか…頭もぼうっとする…」
ショタ「もう少しで辿り着くから頑張って」
ショタは延々と続く山道を指差しながらニートを励ました。
JK「…少し休まない?」
ニート「いや、大丈夫。…それより、早く先に進もう」
JK「でも…」
ニート「この先には…何かがある気がするんだ。俺が忘れてしまったなにかが…」
JK「…無理しないでね」
気がつけば辺りは薄暗い雲に覆われ、いまにも雨が降り出しそうな天気であった。
おまけに頭にガンガン響くような頭痛がニートに襲いかかる。
それでもニートが歩みを止めないのは、この島に来たことがあるという考えが確信に変わったからであった。
自分は以前もこの島に来て、そしてこの島で何かをした。
そしてその忘れてしまった大切な何かを思い出すために、ニートは山頂に登りつめた。
山頂でニートを待ち構えていたのは、一本の巨木だった。
島の全てを見下ろすかのように立ち尽くすその巨木を目にしたニートの脳裏に、記憶に無いはずの様々な光景が走馬灯のように映り込んだ。
突然の出来事に頭が追いつかないニートは頭を抱えながらその場に座り込んだ。
そして、追い打ちをかけるように雨が降り始める。
JK「レンジ!?大丈夫!?レンジ!?」
ショタ「大丈夫!?」
ニート「大…丈夫…。あともう少しで…思い出せそうな気が…する…」
喉元まで出かかった記憶をニートは必死に思い出そうとする。
そして、閃きのような雷鳴が鳴り響いた。
その瞬間、ニートの頭にとある光景が閃き、それと同時にニートはその場で倒れ、気を失ってしまった。
一方、モニタールームではショタを一部始終監視していた田中さんはショタに携帯で連絡を取り、ひとまず近くの洞窟で雨宿りをするように促した。
気を失って倒れたニートも無事にそこに運ぶことができ、とりあえずは難を逃れたことを見送ると通話を終了した。
そして、それと同時に助手が血相を変えて、モニタールームに入って来た。
田中「おぉ、助手か…そんなに血相を変えてどうした?」
助手「…エンジェルから最初に送られてきたメール、覚えてますか?」
田中「えっと…確か『私がここにいる限り、誰も死なせやしないし、殺させやしない』ってやつだろ?」
助手「正確に言うと『もう誰も死なせない』です」
田中「それがどうかしたのか?」
助手「エンジェルから送られて来たメールを見返していて、そのメールの一文の『もう』という言葉が気になっていたんです。わざわざ『もう』という言葉を付け加えるということは、エンジェルは最初からデスゲームの存在を知っていた人物なんじゃないかと思ったんです。それで…気になったので、前回のデスゲームについて調べてみたんです」
田中「前回デスゲームっていうと…8年前に始まったとかっていうやつだろ?」
助手「そうです。前回は8年前に始まって、終わるまで5年もかかってます」
田中「5年もデスゲームやってたの!?」
助手「べつにいまのデスゲームの状況を見てたら、5年もやってても不思議じゃないでしょ」
田中「まぁ、それもそうだけど…むしろ5年で終わるのか?」
助手「それはさておき、問題はそのデスゲームの勝者なんです」
田中「デスゲームの勝者?。それは誰だったんだ?」
助手「それは…萩山レンジ。前回のデスゲームの勝者はニートだったんです」
周りは赤い鮮血で満たされていた。
それは全て、目の前で何者かによって首をはねられた彼女から流れ落ちたものだった。
地面には落とされた首がコロコロと転がっていた。
恐怖で動けない僕は、暗闇に紛れて見えない犯人をただ見ているだけしか出来なかった。
やがて、月明かりのような光が犯人にまとわりついた闇を払い、犯人は姿を現した。
それは自分がよく知っている人物…いや、誰よりも知っている人物だった。
僕の最愛の姉の首をはねたそいつは…。
そして、地面を転がっていた首が僕の近くでピタリと止まり、瞳が僕を睨みつけた。
ニート「お姉ちゃん!?」
ニートはそこでようやく目が覚めた。
JK「…大丈夫?レンジ?」
隣で心配するJKを他所に、ニートは独り言のように呟いた。
ニート「…俺だった」
JK「…なにが?」
ニート「お姉ちゃんを殺したのは…俺だった」




