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墓参り

作者: 絵之守空

**一年目**


人間ってあっけないねぇ。私まだ18だよ。

もっと神秘的なものだと思ってたんだけどなぁ生命。

それなのに簡単に死期の予想ついちゃうし。あ、お医者さんバカにしてるわけじゃないからね。


貴女は小ざっぱりとした性格だったけど、死に際までこの口調なのは流石だと思う。

そう言うと、笑いながら彼女は少し自嘲気味に言った。

そりゃあ諦めもつきます、って。



そんな貴女の一周忌ですよ。

基本的に他人であった僕が法事に呼ばれるはずもなく(友人代表として葬式には呼ばれた)、とりとめもなく貴女の寝どこの前にやってきたんですが、います?

僕は今年もきちんと生きていけましたよ、貴女がいない以外平和でしたしね。

年に一度必ずその時にあったことを報告すること。生前の貴女の頼み。

ずっと眠るだけなのは詰まんないからね、だからきっと来るんだよ。

この一言は入院当初に言っていた一言はたぶんここまで引き継がれているんでしょう?

寝てることには変わりないし。

僕と貴女に何かあったのかと言えば、別段何もなかったね。

せいぜい高校でたまたま隣の席と言うだけ。そのせいか良く話はしたけど。


三年生になって、僕も貴女も推薦で大学入学を決め、別段何もしていない時だったね。

貴女が倒れたのは。

何の病気かは教えてもらっていなかったんだけど、酷かったんでしょ?

ちょくちょくお見舞いに行ったが、彼女の知り合いには会わなかったのが不思議だと思っていた。

そして何の因果か僕が臨終を看取るのである。

人間何があるかわからない。僕でよかったのか、と言う疑問が残るものの、彼女は不満げな顔をすることなく、きれいなままで逝った。

なので良しとする。

彼女に向かってあることない事を語って聞かせてみる。

相槌を打ちながら聞き入ってくれることもなく、時間が淡々と流れていく。

出口を見ながら、言うことはみんな言ったから帰るね、と呟いてから、もう一度彼女に向き直して、はたから見たら結構変に見えるのかな、とか言ってみる。

うん変だよ、君は。そう返してくれた気がした。

だからかな、こんな言葉が口を突いたのは。

ねぇ貴女、生きてて楽しかった?


**二年目**


ちょうど一年ぶりか、久しぶり。元気してた?

どうでもいい話ではあるんだけれど、今さっき貴女の弟君と会ったよ。貴女はたしか、かわいい顔したシャイボーイ、と評していたかな。

自分の弟を見誤るとはまだまだですなぁ。出会いがしらに、どこかでお会いしたことありますよね? なんてそうそう言えるものじゃないでしょ。いやまぁ貴女の葬式で会ったわけだけれど。

他に何話したかって? 特にこれと言って話はしていないよ。貴女が生きていたころ学校でどう過ごしていたか、とか、家でどう過ごしていたか、とか。うんそう。貴女の事ばっかり。

僕の話を弟君は良く聞いていてくれたなぁと思うよ。半分以上僕一人しゃべり通しだったからね。貴女に似て忍耐力は素晴らしいと思うよ。貴女も結構変な人だったと思うけど、彼も結構変なんじゃない?

そもそも初めてノーマルモードの僕と話していて一人称について言及しないあたりに素質があるよね。この年になるとちょっと…… って言われがちなんだけど、そこに触れない辺りが貴女似。

せっかくだったらメールアドレスでも聞いておくべきだったかなぁ。いいお友達になれそうだったんだけど。

まぁ来年もここに来るからその時にでも会ったら聞けるよね。まさか貴女と同じで携帯電話持たない主義とか? ありえそうだなぁ。


あと大学生活はなかなか楽しいよ。変わり者は少ないけどね。あとわらわら居すぎでしょ、人。

うーん、貴女目線の楽しいこととなってくるとなかなか厳しいねぇ。正直な話、墓石目の前にして一人でぶつぶつしゃべる人間自体まれなわけで。あー、こういうこと平気で出来る人間だから貴女に気に入られたのかねぇ。


あ、そうそう貴女が存命していた時から良く言ってた僕の恋人なんだけど、以前から冗談めかして言ってた通り貴女とかどうなのよ。毎回それ言うと、私そういう趣味は無いから、なんて言ってたけれど。


何かあったらまた来年伝えるよ。それじゃあね。



**三年目**


やぁ久しぶり、三年連続三回目の登場ですよっと。元気だった?

今年で大学も三年目、カキョーですよカキョ―。そういえば貴女の弟君がうちの学校に来たよ。

前雑誌で取り上げられてた論文にあこがれてきました。だって。僕の論文は学外にも広まっておるようですなぁ、うんうん。

弟君は別の大学だからね。会う機会などないのですよ。


そういえばさっき貴女のお父さんに会いましたよ。毎年毎年命日にここに私たちより先にきては私たちのすべきことを奪いやがって……、ですってよ。独占欲かね?

でも今年は先にここに来てたみたいだから、肉親の面目躍如かな。まぁ僕が気にする様な事ではないんだけれど。

毎年毎年短時間なうえ、詰まんない話でごめんね。じゃあまた来年。


んで、また来年、とか言ったくせにすぐ戻ってきたんだけどね。一時間くらいかな。

帰ろうとしたらさ、お母さんがいるわけよ、貴女の。呼びとめられたから話聞いてたんだけど、口を開くと同時に暴言の嵐が起こったんだよ。

あの子の前でぶつぶつ言って気持ち悪い。あの子はもう死んだのよ。未練がましく墓の前でぶつぶつ言うとか気持ち悪い。みっともないからやめてください。

だってさ。ひどいよね。

貴女の娘さんの頼みでこうやってるんです、って言ったら顔真っ赤にして、うちの子はそんなこと言いません、だって。あきれちゃうよね、自分の子の事本当に分かっていないんだね。

もしかして、僕が貴女の一番の友人だったことにも気づいていないのかもよ。

まったくもう。

まぁ愚痴ってても仕方ないし、今年は帰るね。あと、ご両親にもお小言言われたし、たぶん来年は就活で忙しいだろうから一年間を開けるね。それじゃあ。


**四年目**


やぁ久しぶり。元気?

まずは貴女のご両親、本当にご愁傷様。自動車事故でお二人とも同時だったらしいからさみしくは無いのかなぁ。

それに、貴女の近くにこうして帰ってきているんだからね。お義父さん、お義母さんこんにちは。

貴女たちのおかげで思いがけず、ウエディングドレスを着ることができました。

まさか葬式が縁結びの会場になるなんて、何処の神様がいたずらしたんだろうね。

あとわたし、一人称変えることにしたよ。だって彼が"わたし"の方が可愛いなんて言うんだもの。

わたしを毛嫌いしていたご両親も、まさかわたしがお嫁に来るなんて思っていなかったでしょうね。

そりゃあご両親がお亡くなりにならなかったらわたしは、彼には会えなかったんですから。

そう考えると、ねぇ貴女。貴女が最初に会わせてくれたのよね、貴女の弟君に。

まさかわたしに好意を持っているとは思わなかったわ。でもそのおかげで、貴女が死んで以来沈み気味だった気分を持ちなおすことができたわ。

もしかして、そろそろ貴女は私が自立してほしいと思っているのかしら。就職はしたわ。専業主婦が就職先よ。だって彼が面倒みてくれるって言うんだもの。


というかなり浮かれた時期が実はあったんだよ。

立て込んでてすぐに知らせにこれなくてごめんね。



ただ今は、彼――貴女の弟君とはちょっと別居中、かな。ちょっと喧嘩しちゃって。

初めてだけど、すぐに元通りだと思うよ。 けど今はさみしい。話相手いないし。

まぁ、ちょっと雑談でもしようよ。

そういえば、今日来る途中、ご両親の葬式の張り紙が残ってたからさ、はがしてきたんだ。

唐突にアレなんだけど、娘と両親の命日が一緒なことってあるのかなぁ、意図的でなくて、純粋に偶然で。

その点だと、貴女たちはズレがあったから当てはまらないね。

もしズレていなくて、葬式が貴女の命日じゃあなかったら、わたしと彼との出会いは無かったわけだけれど。

せっかくだったらわたしも両親の命日と一緒、っていうのもいいかなとか、少し考えちゃったんだけど、良く考えたらわたし、両親の命日すら知らないのよね。顔も見たことないし。

まぁそこはいいか。




そういうわけですので、お義父さん、お義母さん。不本意かもしれませんが、よろしくお願いします。たまには彼と一緒に来ます。だから、だから、ご両親の事故が作為的であったかもしれないと言う警察の見解が間違っていて、わたしたちの喧嘩の原因が、そもそも存在しなかったら、そう祈っていてください。わたしは、貴方たちが×されたとは思いたくないのです。だから願っていてください。わたし達の幸福を。


**×年目**


ねぇ、わたしどうすればいいのかな。

もうなにをどうしていいのかわかんないよ。


こんなこと急に言っても貴女には分からないよね。

遺灰をさ、もらってきたんだ、彼の――貴女の弟君の。

死に際には会えなかったんだけどね。

そろそろおちついたかなと思ったから謝りに行ったんだ。

だってほら、長い間喧嘩してるともう収集つかなくなっちゃうじゃん。

そしたらさ、天井にぶら下がってるの、彼、首から。

そこからどうしたかはすごくあいまいで、あまりよく覚えていないのだけど。

とりあえず周りの人の言うとおりにして、葬式をあげて、でさっき貴女の隣に埋まったよ。

なんていうか、一家団欒? こんなところで取り戻しちゃってさ。

父さんと母さんがいない。それは自分より年をとってるから当然、仕方ない。

彼がいない。自分より若いのに、自分で老いを絶った。彼の決断、仕方ない。

貴女がいない。病気に運悪く、いや運良くかな、まぁ、かかった、仕方ない。

わかってる、僕は分かってるんだよ。

何が起きても、何に巻き込まれても、もう仕方ないって諦めるしかないんだよ。

貴女は僕の前から消えた。

弟君も僕の前から消えた。

貴女の両親も、消えた。

そして、さっき彼が消えた。

そう、貴女の弟君は二度終わってるんだよ。


遺書が床に置いてあったんだ。

僕には犯罪者の考えることは分からない、だから、彼の事もわからない。

ただ、貴女と同じ発想は持っていたみたいだよ。


昔さ、ニュースでやってたじゃん、教育者が不適切な問題を出したっていうニュース。

"夫の葬式である男に会った。なんとなく妻と男はいい感じになった。その後、夫婦の娘が殺された。それはなぜか"

確かそんな問題じゃなかったかな。

あれを実行したんだよ、弟君は、自分の両親で。

貴女はその問題の答えが分かった。だから貴女の弟君が分かるのも道理なんだね。


僕には最初わからなかった。

人を×してまで会いたい人なんていなかったから。

でもこうして話してると、なんとなくわかってきちゃうんだ、理由が、意味が、生者の限界が。

ねえ、貴女、生きてて楽しかった?

僕は、僕にはちょっとわからないや。


だから×すよ、僕を、僕自身で。

貴女は上にいるはずだけど、僕は下に墜ちるかもしれない。

そんなことは別にいい。

小さいことだ。

だって、今の僕は。

僕が、貴女に逢えるなら、僕は何だって厭わない。




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