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 俺たちは、4人がけの席に腰掛けた。


 ……なぜか豚丸さんと向かい合わせになっていた。

 男なんざ斜め前で充分だっ!


 まあ、隣がクウちゃんだからいいか。至福の時だ。


 間もなくテーブルに料理が並べられる。

 黒パンにスープ、ハムサラダ。


 ギルドハウスでは現代的な食事をとることが多かったので、こういうのはなんだか新鮮だ。


 黒パンは硬いので、スープに浸して食べるのが一番だ。……うん、上手い。

 ハムサラダもなかなか良い。ハムは柔らかく舌でとろけ、野菜はシャキシャキと噛み応えがある。


「「ごちそうさまでした!」」


 ……さて。


「今の俺たちのレベルは25、6か。ハヤブサが言ってたが、先導している奴らのレベルは40手前くらいあるらしいぜ」


「凄いわね。たった1日で、そんなに……」


 俺たちが危険視しているのは、ずばりPKだ。現在、PKはごく一部のマップでしかできないので、うっかりそのマップに進入しなければ問題はなさそうだが……。


「次のアップデートの予定、確かに『PKマップの追加』だったよね」


 そう。その通りだ。


「プレイヤはイイ奴だけじゃねぇからな。PKが実装されたら、気に入らない奴を殺しまくるようなプレイヤーが出てきても不思議じゃない。もし、『PKしたプレイヤーの装備や所持ゴールドを奪える』なんて仕様だったら……なんて思うと、ゾッとするぜ」


 そんなことになったら、レベル差のある極悪プレイヤーに出くわしたときは死を覚悟するしかない。


「人間に殺されるなんて、モンスター以上に遠慮したい。……何としても、レベルを上げ続けましょう」


「だよなぁ、GvGが今後どうなるのか分からんが、あれは参加しないという選択ができるはず。だが、PKはそういう訳にもいかないからな」


 闇の島でクエストに参加したのは、人が集まっている場所でレベル上げをするのが最も安全だと踏んだからだ。


「……今、ハヤブサから連絡があった。次の島は北にある雷の島らしい。時計台の町に、雷の島に転送してくれるNPCが出現していたんだと」


「転送? 闇の島のときは船に乗らされたのに、どういうことかしら」


「まあ、仕方ないだろ。闇に覆われているから転送できなかったとか、そんな設定なんだろきっと。ねえ豚丸さん」


「地上は平和そのものだったわよね」


「……」


 そういや、そうだった。


「まあ、レベル上げしたかったら次は雷の島だな。さすがに今日で終わってるってことはないだろうし、一晩ここに泊まって早朝に向かおうぜ」






 次の日の朝。


 ハヤブサが言うに、雷の島に出現したクエストの進行は、滞ってるらしい。


「1万人分の寄付が集まらないと機械工場の扉が空かないって……なんじゃそれ」


 豚丸さんが呆れるようにして言った。


「一人一口じゃないとだめなんて……本当に1万人集めないとダメなようね」


「でも、積極的に攻略に参加している人はせいぜい5000人程度だ。その他の人たちは、みんな宿屋やギルドハウス、自分の店などに引きこもってしまっている」


「あと5000人、雷の島に来てくれと説得しなきゃいけないのか。……難しいですね」


 おそらく多くの人が、次のアップデートの予定にあったPKの存在を恐れている。


 雷の島は安全マップだと伝えても、それを信じないものが多く、突然PK可能マップに変化する可能性も否定できない。


 現在、安全が保障されている町の中。それが恒久的なものだと信じ、多くの人は未だ閉じこもっているのだ。


「みんな知り合いを説得して、人を集めてるんだってよ。俺たちも知り合いに声かけてみるか」


「私の知り合い、既に攻略に参加している人か、あのとき接続してなかった人たちばかりよ」


「私も同じ」


「……自分で言い出しておいてなんだが、オジサンもだ」


 俺だってそうだ。そもそも、知り合いがそんなに多くないってのもあるが……。


 ……あ、一人思い出した。知り合いと呼べるかは分からんが、声をかけてみる価値はあるだろう。


「という訳で、俺はちょっと商店街へ行ってきます」






「……という訳で、いっしょに雷の島に来てくれないか」


 にしても、相変わらず無愛想だな、彼女は。


「そうですね……手伝ってあげたい気持ちはあります。ですがもしも私が死んだ場合、責任を取ってくれるのですか?」


 はい、責任を取って嫁に迎えたいであります!


 ……と言いたいところだが、彼女が死んだ場合という話だからな。死んでしまったら当然嫁にできない。


「う~んそれじゃ、何をすれば一緒に来てくれるんだ?できる範囲でなら、何でもする」


「ちょっと待ってください」


 彼女は眼鏡の位置を人差し指でくいっと調整しながら、こう続けた。


「私は、行かないとは言ってません」


 ……なんですと?


「どういうことだ?」


「『責任を取ってくれるのか』と尋ねただけです。あなたの回答が何であれ、私は同行するつもりでした」


 マジか。

 何でまた。


「貴方には、借りがありますから」


「借り……なんだっけ?そんなのあったか?」


「昨日くれた宝石、です」


 あー。そうだ。そういや、あげたんだっけ。


「あの宝石、NPC売りしたら8000万ゴールドになったんです。……別に、ゴールドが欲しかったわけではないですが、あんなものを頂いてしまったので、何もお返ししないのは不躾かと」


「その件は別に、気にしなくていいぞ。ぶっちゃけ邪魔だったから、あげただけだし」


「では、こうしましょう」


 彼女はイスから立ち上がると、急に鼻と鼻が触れるんじゃないかというぐらい顔を近づけてきた。


「うぉ!? な、なんだいきなり!」


「私と一緒にパーティを組んでください。いえ、いっそのこと相方になってください。相方の意味は分かりますか?

 ネットゲームでは、互いが互いのことを、最も親しい存在だと認め合っている人たちのことをいいます」


「いや、それは分かってるんだけど……」


「ぶっちゃけ、一目ぼれです。好きです。資産を膨大にお持ちで、お優しくて、何よりイケメン。だから、ずっと一緒にいてください」


 な、な……なんだってーー!?


「…………そ、そそそそれは嬉しいけど。でも、俺はこのアバターみたいにかっこよくないし……そもそも俺が男とは限らないのに、何でまた」


「女だったとしても、それはそれでありです」


 ありなのか。

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