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「いらっしゃいませ。どうぞ見ていってください」
全く愛想のない少女が出迎えてくれた。
……とはいえ、眼鏡がよく似合っているショートヘアの美少女だ。大丈夫だ、問題ない。
「えっと、今レベル25で、密偵タイプなんだけど。一番良いのを頼む」
「武器と防具、アクセサリ、全部ですか?武器は、ナイフ系で良いのですよね?」
俺が腰に下げているナイフを見て、彼女が言った。
「問題ない」
「それじゃあ、武器はスティレット+2で、胴体はレザージャケット+3。肩はホワイトマフラー+3に足はラビットブーツ+3。
アクセサリは、頭にホワイトバンダナ+2、耳にスピードイヤリング+3、首にスピードネックレス+3、指にスピードリング+2」でよろしいですか?」
プラスなんちゃらっていうのは、生産で作ったアイテムに付加されるものだ。数が多いほど、性能が高くなる。
「ああ、いくらだ?」
「ひとつ1ゴールド……全部合わせて8ゴールドです」
って、うぉいッ!
安いってレベル超えちゃって理解不能なんだけど。
この子になんのメリットもないじゃないか。利益目当てじゃないのなら、なんで商売やってんだ?
「さすがに、それはないわ。最低でもひとつ3000ゴールドはするだろ。だから全部で…………面倒だから10万ゴールドで全部売ってくれるか?」
「それはできません」
即答か。
「……なんでまた、こんなことを」
「……」
黙りこんでしまった。困ったな。
「じゃあ、8ゴールドでいいから……このアイテム、受け取ってくれよ。チップかなんかだと思ってくれ。自分で売るのも面倒だし」
7、8個の宝石類を机に置いた。全て、ガチャで手に入る換金アイテム。全部NPCに売ったらいくらになるのか分からんが、それなりにはなるだろう。
面倒なのは本当だし。
「……わかりました。お買い上げ、ありがとうございます」
「あい。それじゃ、また来るとするよ」
今日はこれで立ち去ろう。次にあったらぜひ、フレンド登録を申し込もう。美人だし。
……え、現実でも女とは限らない? ふ。この俺様、ネカマと女を見分けることにゃあ、誰にも引けを取らないぜ。
そんでもって。消費アイテム、例えばHP回復ポーションなどだが……これは意外と重量があるので、10個くらい持っておけば良いな。
これまたプレイヤーが生産した物のほうが性能が高かったりするのだが、自分で使うために用意している奴が多いせいか、全然売っていない。
HP回復ポーション+10よりも高性能の、HP全快ポーションというのを100個以上持っているが……これはレベルが足りないせいで、まだ使えない。
仕方ないから、NPCが売ってる奴でいいや。俺は滅多に攻撃を受けないし、緊急時以外は【ヒール】で回復してもらえるからな。
あとは、スキルか。
レベル25になって、使えるようになる有用スキル……確か、罠系スキルだな。
敵が罠に掛かると、状態異常を引き起こす。魔法系にも状態異常系スキルはあるが、罠のようにあらかじめいくつも設置しておく、というような利便性がなく、
そもそも魔法系は重要なアタッカーなので、そんなことをしている暇がない。
という訳で、レベル25で使える罠系は、【毒罠】だな。スキルは武器を含めて現在7つしか持てないから、何を削るべきか……。
うーん。
……やばい、削れるスキルがない。
仕方ないから、レベル40になってスキルを8つ持てるようになってからにしよう……。
さて、最後に確認すべきは気になるアレだ。
そう。新たに出現したガチャ。
今まではガチャを回す前に、どんな景品が何パーセントの確率で出現するかを知ることができたのだが、今回はそういった情報がない。
……よし、試してみるか。
先ほどポイントに変換した1000ポイントを使い、1回回してみる。
……。
高位転移アイテムだった。たぶん、Cランクなんだろうな……。せめて既存のもの以外のアイテムを出してくれよ。
こうなったら、聞いたこともない強力そうなアイテムを出すまで、回しまくるか。
回しました。
結果、47714回目でAランクと思われるアイテム、出ました。
……めっちゃ連打したのに、どんだけ掛かったんだ。
「ぜぇ、ぜぇ、なんだよこれ……!ひょっとして確率、5万分の1とか!?」
つーか、勢いで回しまくってしまったが、また不正行為だと疑われないだろうな……。
Aランクアイテムの多くは驚異的な性能を持つアクセサリであり、【神器】とも呼ばれる。
今回出たアイテムも、【神器】という名にふさわしい性能を持つ……あるいは、それ以上とも言える。
こりゃあSランクアイテムというべきか?【神器】というより【スーパー神器】だな。
その性能とは。
『装備しているプレイヤーのHPが0になったとき、瞬時にHPが全快する』というものだ。
もちろん消費アイテムではないので、何度でも使うことができる。
平時の時であっても、この性能は最強といえるアイテムだろう。なにせ、戦闘不能に陥ることがないのだ。
しかもデスゲーム中である現在、これを装備していればおそらく『現実世界で死ぬことはない』ということ。
すげえチートだ。
実際に試してみないと確証は得られないが……残念ながら装備できるのは、レベル100……カンストプレイヤーのみ。
試すのは当分先になりそうだ。まあ、死なないのが一番だけどな。
「おっそいわねアンタ!何時だと思ってんのよ!?」
宿屋についた途端、ミヤちゃんに怒鳴られました。ありがとうございます。
「ヘロ、いったい何をしていてこんなに遅くなったの?」
クウちゃんは優しく問いかけてきた。マジ天使。
……しかし、『5万回ガチャしてたら遅くなりました』とは言いにくい。実に。
「まあ、無事なようでホっとしたぜ。とにかく飯にしよう。さっきから俺、腹が減って仕方がなくてよ」
「そ、そうですね」
港町に泊まるには、100ゴールドが必要となる。ちなみに、夕食は20ゴールド。
ゲームの中にいるのに腹が減るとは、実に不思議だ。まあ、今に始まったことではないが。