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どうしてこうなった。
「ん~、何だろうね?とりあえず、僕たちは一番右に入ってみるかい?」
鎧を纏っているのに軽そうな男、銀色連盟のギルドマスターである銀河がそう言って歩き始める。他の銀色連盟のプレイヤーたちもそれに続いた。
「問題なく入れたよ、僕たち」
「では、私たちパーティ4は左から二番目、パーティ5は右から二番目に入ってみましょう」
白いローブを来た聡明そうな女性、プロポーションも抜群で胸が特にでかい。……そんな彼女、カナリアが、黄金騎士団のメンバーに指示を出して進んだ。
やっぱりちゃんと入れてる。どういうことなんだ?
俺はもう一度、一番左に入ってみる。進めない。
それなら一番右だ。これまた進めない。
右から二番目、左から一番目…………なんだこれ。俺だけディスられてんの?
まだ残っているのは俺と、ハヤブサと同じパーティ2の女の子ふたりだけ。
「え、と。どうしましょうか、私たち」
「真ん中辺りに張ってみる?そこの【俺ギル】の密偵さんと一緒に」
おお、仲間に入れてくれるというのか。
「そ、それなら君たち、悪いんだけど俺と手を繋ぎながら入ってくれないか?同時に入れば問題ないかもしれない」
「……ま、いいけど」
「わかりました」
うおお、まさに両手に花状態だ!
左には穏やかで、ちょっと気弱そうな回復の女の子。右は、ちょっと生意気そうな魔法の子。まあ、どっちも可愛いから許す!
「それじゃ、行くぜ。……せーのっ」
結果。
無事通過できた。
「わあ、よかったですね!」
「アンタだけあぶれなくて良かったねえ」
うむ、もっともだ。っていうか、何で今まで入れなかったんだ。
「……これは、あれっスね。ひとつの道につき4人までしか入れないとか」
ああ。なるほど。それなら合点が行く。
そこらへんの情報、できれば事前に仕入れといて欲しかったぜ。
「まあ、こっちは俺とミヤとクウとハヤブサで行くから、ヘロは黄金騎士団のかわい子ちゃんとよろしくやってくれや」
「う、うっす」
コウモリたちを払いつつ、俺たちはさくさくと進む。
回復の子はバニラ、魔法の子はストロベリーという名前らしい。
初めて一緒に狩りをする子たちだ。うまく連携を取れるかどうか……。死んでも足手まといにはなりませんように、俺。
そうだ、ガチャのDランクアイテムで、低レベルでも使えるヤツあったな。
「君たち、これを持ってて。危険なときに使ってくれ。敵単体をひるませる効果がある」
そう言って100個ずつ手渡した。これだけあれば充分だろう。
「ちょっと! これ有料アイテムじゃん。こんなに貰っちゃって良い訳?」
「ああ。君たちが生き残ることのほうが、何よりも大事だ」
お、ちょっとカッコイイこと言った? 俺。
「深く感謝します、ヘロさん」
「重課金キモい。……でも、助かるよ」
ぶっちゃけこのアイテム2000個以上持ってるし、彼女たちが気にする必要はないのだが、まあいいや。お礼を言われて悪い気はしない。
道が分かれていたあの場所から、歩き続けること10分。
そこは、祭壇のような場所だった。
多分、石できているんだろう。いたるところに装飾が施されており、非常にきらびやかだ。
「よし、戦法の確認だ。俺が敵をひきつけることに専念するから、ストロベリーはひたすら攻撃してくれ。ヘイトを集めすぎて敵がそっちに寄ってきたら、さっきのアイテムを全員で投げまくって、隙を作る。その間に俺がまた敵をひきつける。俺は回避しまくるからそうそうダメージを受けることはないだろうが、危なそうだったらバニラ、ヒールを頼む」
「わかりました」
「オーケー」
祭壇に足を踏み入れる。
すると周囲が漆黒に覆われた。確認できるのは、バニラとストロベリーの存在だけ。それ以外は何も見えない。
前方からおどろおどろしい唸り声が聞こえる。モンスター……おそらく、ボスだろう。
やがて奴の咆哮が響く。少しだが、それだけで俺たちのHPが削れた。
すかさずバニラがヒールを全員にかける。
俺は奴のモンスターネームを確認した。……なるほど、【最初の悪魔】か。
俺はナイフを腰にしまう。このゲームの仕様上、武器を持っていない状態の方が速く動けるからだ。
にしても3人だけというのは、ちと失敗だな。まさか人数が分散されるとは思わなかったし。
俺は【影縫い】を最初の悪魔に仕掛ける。敵の動きを止めるスキルだが、ボス相手では一瞬しか通用しない。
悪魔の紅々しい眼が、俺の姿を捉えた。ズン、ズンと地響きを発生させながら近づいてくる。
悪魔が大きく振りかぶり、パンチを繰り出した。それを【ステップ】で回避する。
どうやら動きは大して速くないようだ。当たったら大ダメージだろうけどな。
すかさずストロベリーが【ファイア】をぶちかます。……ダメージがほとんど通らない。
「なるほど、こいつの属性は【炎】だね」
つまり、【ファイア】と同じ属性ということだ。その場合、ほとんどダメージは与えられない。
炎属性は雷属性に抵抗を持ち、たとえば【サンダー】で攻撃したとしても、実際の威力の約半分程度のダメージだろう。
こいつの弱点はずばり、【氷】だ。
「いくよ!【フリーズ】!」
氷の塊が、次々と悪魔を襲う。【フリーズ】は一定確率で相手を凍結状態にするが、残念ながらそうはならなかった。
攻撃されたことに苛立った悪魔は、矛先をストロベリーに移す。
「今だ! 投げろ!」
全員でひたすら石を投げる。先ほど渡した、敵をひるませることができるあのアイテムだ。
悪魔が動かなくなったところで、俺は【ダッシュ】で瞬時にストロベリーの前へ移動する。
そこで【ハイジャンプ】をし、狙いを俺へと戻させる。
「グオオオッ!」
やべ、着地前にパンチを食らわされた。俺は勢いよく吹っ飛ばされる。
HPは……やばい、半分以上減ってる。
「ヘロさん!」
バニラの【ヒール】が飛んできた。これによってHPは全快。
今度は悪魔の突進が、俺を襲う。
俺は【ハイド】を使った。このスキルは自分の姿を消すことができ、攻撃が来ても当たることがないのだ。
悪魔が体制を崩したところで【影縫い】。さらに攻撃を避け続け、その間にストロベリーが【フリーズ】をかます。
……よし、順調だ。