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洞窟の中は意外と広かった。先頭の豚丸さんが持つ【松明】アイテムの明かりを頼りに、ゆっくりと進む。
しばしば他のパーティと遭遇するので、ときには会釈を交わしながら、最奥を目指す。
「クエストを受けられる場所は、もう少し先だ。そこでハヤブサが待ってる」
ハヤブサというのは密偵タイプのプレイヤーで、情報収集に関しては彼の右に出る者はいない。
これまで俺たちが知りえた情報の大半は、彼の活躍によってもたらされたものだ。
単独で行動するのが性にあっているようで、ギルドには所属していないし、狩りは大抵ソロで行っているらしい。
過去、豚丸さんに世話になったことがあるそうで、唯一豚丸さんだけフレンドリストに登録しているとか。
……人だかりを発見した。よく見るとNPCが二人いる。
一人は、話しかければクエストを受けさせてもらえるNPCで、もう片方はHPとSPを無料で回復してくれる神官NPCのようだ。
「豚丸さんたち、遅かったっスね」
「悪い、待たせたな」
ハヤブサだ。紺色の忍び装束のようなものを身に纏っている、小柄な男。アクセサリ装備である狐面を被っているので、顔は確認できない。
「いや、別にいいっスよ。ここのクエストはレイドを組まないと進行できないんで……知らない人しかいないレイドには入りたくないんで、一緒に行ってもらえるってだけで嬉しいっス」
「おう、よろしくな。ハヤブサ」
「頼りにしてるわよ」
「みんなで力を合わせて、クリアを目指そう」
「……よ、よろしくお願いしま、す。ハヤブサさん」
たどたどしい挨拶になってしまった。俺自身はハヤブサと大して面識がないのだ。若干人見知りの俺は、しばしばこんな感じになってしまう。
ヒーローオンラインでは、パーティを組める人数は最大で4人。
ただしレイドというシステムがあり、特定のクエストを受ける際に組むことができる。4人パーティを5パーティまで、最大20人で結成することができるのだ。
パーティリーダーである豚丸さんが、ハヤブサにレイド申請をする。
無事レイド結成だ。別パーティであるハヤブサのHPなどの情報は見れないが、これで経験値が平等分配されたりする。
「でも、5人だけで大丈夫かしら? 20人まで組めるんだし、人数を増やしたほうがいいんじゃない?」
「それは抜かりないっス。既に2つのギルドに声をかけてあるんで。彼らももうすぐ到着するはずっス」
彼らは情報を高く買ってくれたんで結構儲けたっス、などと言いながら、ハヤブサはフフリと笑みを浮かべた。
いったい誰が来るというんだ。俺だけタイプを変更してるわけだし、足を引っ張ったらどうしよう。
「お待たせしました、ハヤブサ」
「やっほ、俺たちも全員ついたよん」
……ぶっっ!?
どんだけの有名人に声をかけやがってくれたんだ、こいつは。
「紹介するっス。ご存知だと思いますが、GvGで負けなしの強豪ギルド【銀色連盟】のギルドマスターの銀河さんと、そのメンバーの皆さん。
そちらは、ヒーローオンライン最大の規模を誇る【黄金騎士団】のサブマスターのカナリアさんと、そのメンバーの皆さんっス」
最強と最大のギルドに声かけるとか、何事だよ……。
「で、そっちは小規模ながら侮れない強さを持つ【俺らのギルド】のギルドマスター豚丸さんと、そのメンバーの皆さんっス」
こうして、俺たちはレイドを組んだ。
俺らのギルド所属の俺たちがパーティ1、ハヤブサと黄金騎士団の魔法の子、回復の子で構成されたパーティ2、銀色連盟の4人がパーティ3、残る黄金騎士団の8人がそれぞれパーティ4、パーティ5、全員で19名だ。
「これだけいれば、問題ないはずっス。NPCに話しかけてクエストを受諾したら、奥へ進みましょうっス」
先頭を歩くハヤブサ。近づいてくるコウモリ型モンスターを、ときには【影縫い】で足止めし、またときには忍者刀で一掃する。
なるほど、手馴れてるな。つーか、刀もありなのか。確か、刀装備で補正値が上がるのは、戦士だったはずだが。
「お察しの通り、刀よりナイフや弓、銃を使ったほうが密偵は強いっスよ。でも、忍び装束に忍者刀は、俺のこだわり何スよ」
見上げた奴だ。下手すれば死ぬかもしれないというこの状況で、なおも己を貫くとは。
さて、クエストの手順の話だが、これは実に単純明快。洞窟の奥に複数存在するボス級モンスターを1体討伐し、先ほどのNPCと会話すれば終了だ。
こうやってクエストを介して、全プレイヤー合わせて1万体の討伐を成功させればクエストクリア。常闇の塔が出現するかもしれない。
そのとき、ハヤブサが足を止めた。道が何十にも枝分かれしているのだ。
「……とりあえず、一番左で良いっスか」
銀色同盟のギルドマスター、黄金騎士団のサブマスターが共にうなずく。豚丸さんも「良いぜ」と短く答えた。
まず、ハヤブサが奥へと進む。続いて、豚丸さんが。ミヤちゃんとクウちゃんも後に続く。
さて、俺も行くか。
歩を進める。あと数歩で彼らの元へ……というところで、俺はある違和感を感じた。
……足を動かしても動かしても、前に進めない。
「な、なんで! 俺だけ!?」