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たとえ強力なモンスター相手でも、数千人で挑めば負けるはずがないだろう。
そう思っていたのだが……
「魔法タイプの俺でも一撃で倒せるほど弱いとは、恐れ入ったぜ」
「地上にいる敵は、聞いていた以上に弱っちいわね」
「でも、本当に危険なのは地下洞窟らしいね。ここで可能な限りレベルを上げて、挑んだほうが良いよ」
「そうよね。……て、ヘロ! 退屈だからって鼻ほじってんじゃないわよ!」
ち、気づかれたか。
今の得物はナイフだから、片手で適当に振り回せば敵がばんばん死ぬもんでつい。
「よしお前ら、レベル20になったらスキルを取りに行くぞ。幸いこの島で、基本的なスキルはNPCに話しかけるだけで使えるようになるってよ。あ、ヘロは密偵タイプ初めてだし、慎重に決めろよ」
「大丈夫、分かってますよ」
密偵タイプはギルメンのあの人がやってたから、ある程度は知識がある。本当はその人が今ここにいれば、いろいろ助かったのだが……。
……あの人はデスゲームに巻き込まれなかった。そのほうが良いに決まってるじゃないか。
不謹慎なことを考えてはいかん。
目の前の植物系モンスターを切り刻む。根を張っているので近づいてくることはないし、おそらく手であろう蔓は貧弱。
顔であろう大きな花の部分には、目や鼻がなく唇だけが存在し、とにかく滑稽な姿だ。おまけに弱いとか……ご愁傷様。
頭の中でファンファーレが響く。よし、レベル20達成、と。
ヒーローオンラインには、特定のタイプのみが使用できる専用スキルと、誰でも習得可能な汎用スキルがある。
正確な数は分かっていないが、全てを合わせれば1000ほどのスキルが存在してるとか。
密偵タイプは素早さが高く、トリッキーな動きが出来るのが特徴だ。
という訳で、真っ先にとるべきスキルは……【ダッシュ】【ハイジャンプ】【ステップ】【ハイド】【影縫い】【素早さ上昇・小】ってところかな。
とにかく敵をひきつけて、攻撃を避けまくる。火力役はミヤちゃんと豚丸さんに任せよう。
で、危なくなったら【影縫い】で敵を足止め。
よし、完璧だ。
……そういや、今まで忘れてたけど。
俺はメニューウインドウを表示させる。そして確認した。
なんと。ガチャを回す、のボタンがまだある……! ひょっとして、今でもガチャを回せんのか!?
ガチャを回すには、自分が指定した口座にある金を【ポイント】に変える必要がある。
【ポイント】に変えてしまえば、二度と現金は戻ってこない。ゲーム内で消費する以外に選択はなくなるのだ。
俺は残りの金額、2億8149万2000円は、まだポイントにはなっていない。
試しに1000円、ポイントにしてみる。
ポイントになった……! やっぱり、ガチャは機能してるのか。
正直、今まで迷っていた。でも、もう迷う必要はない。
こんなところで死ぬくらいなら、全額ゲームに費やして、生き残ったほうがマシだ!!
俺はもちろん、ミヤちゃんやクウちゃん、豚丸さんも。……そして、できるだけ多くのプレイヤーが死なずに済むように。
とはいえ、ここで全額ガチャするのは危険だ。やはり目立ちすぎるのは怖い。もう遅いかもしれないが、運営に目を付けられるだろうし――
ヒーローオンラインはごく一部のエリアを除きPK不可だが、これも仕様が変わる可能性がある。
今いるエリアでPKが可能かどうかは、メニューで確認ができるはず。
この場所はPK不可だ。俺は再びそれを確認し、そして安堵する。
俺にPKを仕掛けてくるプレイヤーが、現われないとも限らないからな。やはり目立たないように行動したほうが良い。
とりあえず、昨日回したガチャのハズレ景品をどう使うか考えるか。ハズレとはいえ、それなりに有用なものばかりだ。
とは言っても、レベル制限のせいで今は使えないものがほとんどだが。
昨日ひとつだけ出たAランクアイテムも、装備できるのは90以上だしな……。
……ん?
あれ?
一番左に表示されてるのは、無料ガチャ。ゴールドを消費して回せる奴だ。そして二つ目は、俺が昨日散々回したガチャ。
そしてその右。三つ目のガチャ……? 俺、こんなの今まで見た覚えないぞ!?
……何でデスゲーム中に、新ガチャが実装されんだよ。
「おう、ヘロ。スキルは取り終えたか?」
「あ、はい」
ガチャのことは後回しだ。まずやるべきことは、戦術の確認。
「いろいろ考えた結果、俺は完全に回避役に回ることにしました。なので、攻撃はミヤと豚丸さんにお任せします。クウはいつも通り、支援に徹してくれ」
「うん、分かってるよ」
「おっしゃ。ヘロ、ミヤ、クウ、準備は良いか? そろそろ地下洞窟に乗り込むぜ」