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 ゲームの中に閉じ込められた人数は、およそ4万人らしい。ごく最近の、昼前の同時接続者数がそれくらいだったとのこと。


 一夜明け、プレイヤーたちは少しずつ落ち着きを取り戻していた。


 常闇の塔というのがどこにあるのか、誰も知らないそうだ。

 だが、そこにいる最後の悪魔とやらを倒さなければ、このゲーム世界から出ることは出来ない。そう言っていた。

 ならば、常闇の塔を出現させるしかない。


 ヒーローオンラインの主な舞台である、六角形のような形をした大陸。その周辺には、6つの島が存在している。


 北西に炎の島、北に雷の島、北東に氷の島、南東に闇の島、南に砂の島。そして、南西にある島は幻の島と呼ばれている。

 ――ただし、いずれの島にもプレイヤーが立ち入ったことは、これまで一度もない。

 今後のアップデートで進入可能になるのではないか。そう言われ続けてもう10年が経つが、何度アップデートを重ねても、それは叶わなかった。


 そして今。

 南東の島……闇の島行きの船が、港町の船着場に定期的に出現しているとのこと。

 そしてその島では、とあるクエストの受注が可能との情報があった。


 闇の島という名前からして、そのクエストをクリアすれば常闇の塔が現われる可能性が高い。

 一刻も早くそこへ行って、誰かが最後の悪魔を倒さなければいけない。


 さもないと……さもないと……!


「無断欠勤した俺はクビになってしまうぅう! ちくしょう! 今まで皆勤だったのに!」


 ――ここは、港町の船着場。


 何千人と集まったプレイヤーの中心で、俺は思わずそう叫んだ。

 案の定、みんなの視線が痛い。すごく痛い。


「……ちょっとヘロ、なに叫んでんのよ。そういう恥ずかしい癖は中学生で卒業しときなさい」


 同じギルドのメンバーであるミヤちゃんに叱られてしまった。リアル美少女高校生に叱られた。


「わ、悪い」


 小恥ずかしいのと同時に、ちょっと快感だった。ああ、どうか存分に罵ってくれ!


「ミヤ、仕方ないよ。みんな気が動転してるんだ。こんなことになってしまったからね」


 中性的な喋り方をする彼女は、やはり同じギルドのメンバーであるクウ。これまたリアル美少女高校生。


 そして、俺の初恋の人。その想いは今もなお継続中だ。


「ふ、二人は、やけに冷静だな。若い女の子だし、もっと怖がってるのかと思った」


「ん。確かに、ここから出られないって聞いたときは驚いたわ。……でも、目の前で気持ち悪い悲鳴を上げてる誰かさんを見てたら、不思議と冷静になれたの」


 ミヤの冷たい視線の先には、黒いローブの男。痩躯の長身、そしてイケメン。忘れがちなので改めて言っておいた。

 外見だけならパーフェクトな彼の中の人は、アラフォーの豚丸さんだ。


「わ、悪かったな。俺もあのときは、気が動転してたんだよ。なあヘロ」


「そうだぞ、ミヤ。ちなみに俺が今、半裸にマントという羞恥プレイに及んでいるのも、気が動転してるせいだ」


「ちょっ! なにやってんのよ!? 単に上着装備忘れてきただけでしょう! 船が着く前に倉庫からとってきなさい! 後姿しか見えなかったから気づかなかったわ……!」


 また叱られてしまった。別に、叱られるつもりで忘れてきたわけではないが、またもや快感を味わうことが出来た。ご馳走様です。


 ……とにかく早く取りに行かねば。本当に船が来てしまっては困る。


 ここに集まったプレイヤーたちは、闇の島のクエストをクリアするためにやってきた。

 港町に辿り着くまでに苦労した者も多いのだろう。なぜなら、今まで存在していた町から町へのテレポート機能が、使用禁止になっていたからだ。


 俺たち4人は高級転移アイテム――ちなみにこれは、ガチャのCランクアイテム――を使って、時計台の町から瞬間移動してきたが、徒歩で半日かけてここにたどり着いたプレイヤーもいるという。


【ライディング】を使えば馬などに乗ってもっと早く移動できるのだが、残念ながら俺たちは全員、覚えていたはずのスキルを消失していた。


 デスゲームの開始を宣告された直後に起こった、変化のひとつ。

 それは、プレイヤーが全員【レベル1】にされてしまったということ。


 ……鬼畜だよな。こんな状態で死なずにクリアしろとか。


 無論、俺もミヤちゃんもクウちゃんも豚丸さんも、みんなレベル1。

 徒歩でここへやってきたプレイヤーたちは、道中でモンスターを倒しながら来たらしいからレベル10~20程度にはなってるそうだが。

 その道中、モンスターに倒されたプレイヤーも少なくないらしい。……痛ましいことだ。


 上着を装備しながら船着場へと急ぐ俺。その間も俺は考え続けていた。


 彼らは……ゲーム内で死んだ後、いったいどうなったんだ?


 まさか、本当に……


「ねえ、ちょっとヘロ」


 不意にミヤに声をかけられ、俺は思考を止める。


「あなた、結局本当に、【戦士】から【密偵】に変更したの?」


「……ああ、そのことか。そうだよ」


 レベル1の新米プレイヤーはがまずやらなければならないのは、各所に存在する通称【職業決定NPC】と会話し、キャラクターの方向性を決めることだ。


 それは、4タイプ存在する。【戦士】【回復】【魔法】そして【密偵】。


 それを行うことによって、例えば【戦士】なら攻撃や防御、【魔法】であれば魔法攻撃や魔法防御といったステータスが急上昇する。

 逆に言えば、必ずこれを行わなければキャラクターをレベル2以上に成長させることは出来ないのである。


 それで。今までの俺は、【戦士】だった。ミヤも同じく【戦士】で、クウが【回復】、そして豚丸さんが【魔法】。

 俺たちは4人でパーティを組み、狩りに行ったことが何度もある。もちろん、野良パーティも全員が何度も経験している。そして、常々感じていたのだ。


 【戦士】が二人いるより、【戦士】一人、【密偵】一人のほうが戦いやすい、効率が良い、と。


 ……命が掛かってるとなりゃ、変更するしかないよな。ミヤちゃんの方が明らかに【戦士】としてのプレイヤースキルが高かったし、やっぱり、俺が。


 俺たち4人のまとめ役――というか、俺たちが所属しているギルドのマスターである豚丸さんが、珍しく真面目な顔をして言った。


「ヘロ、よく決断してくれたな。そしてみんな、俺の意見に賛成してくれて感謝する。モンスターと戦わず、脱出できるまで町に篭るという選択肢もあったが、町が絶対に安全とも限らん。少しずつでもレベルを上げたほうが賢明だと思う。……改めて聞くが、お前たちは一緒に来てくれるんだな? サポートはするが、万が一死んでも俺は責任取れないぞ」


 みんなの心は決まっているはずだ。俺も、迷いはない。


「はい、行きます!」


「もちろんよ」


「行動は私たちの本質。町でじっとしてるなんて、私たちの性に合わないよ」


 やがて船が到着する。

 それは数千ものプレイヤーを飲み込み、未知の島へと舵を取った。

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