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私、ミヤはとりあえず装備を整えようと思い立ち、魔法都市にある魔法商店街へとやってきた。
ここではNPCのアイテム販売はもちろん、プレイヤーの店の数もおそらく他の町より多いだろう。
残念ながら、以前と比べて開店している店はほとんどないが。
「それじゃあ、適当に店を選んで……いくらであろうと構わないから、チャッチャと買っちゃいましょう」
私はさっさと店に入る。「いらっしゃいませ」と女性の声。
カウンターにいるのは――見覚えのある、眼鏡を掛けた無愛想な少女。
「……ッ!? あ、あなた!」
どうして、彼女がここに。
「……いろいろと事情があり、港町から魔法都市へお店を引越しさせたんです。これからどうぞ、ご贔屓に」
クウと同じだ。
彼女も相変わらず、感情が全く読めない。
「こ、これからなんて、ないわよ……。 貴方、状況が分かってるの? のん気に店開いている場合じゃないでしょ!?」
「それは、デスゲームだからですか?」
確かにそれもある。事実、デスゲームが始まって以来プレイヤーの装備やアイテム販売は激減した。
皆、初期値に戻ったレベルを上げるために必死でいるか、町に逃げ込んでがたがたと震えて脱出できるのを待つか――そのいずれかの行動を取っている。
稀に、ゴールドが乏しくそれを稼ぐために店を開いているプレイヤーも存在するが、この少女に貧困にあえぐ様子は見受けられない。
「それとも……」
彼女が私にハンドガンを向ける。
まずい。原則として町の中ではプレイヤーを攻撃することはできないが、現在は例外が存在する。
「私が、貴方の決闘相手だからですか?」
そう、決闘相手に対しては、町の中であろうとどこであろうと、攻撃することができるのだ。
「……くっ」
私は唇をかみ締める。
やはり、戦うしかないのだろうか。二人が助かる方法など、存在しないのだろうか。
「ねえ、ミヤさん。どうして私たちが戦うことになったのか、分かりますか?」
……分からない。
決闘相手は、【ゲーム内で親しかった者】【ゲーム内で因縁のある者】のいずれかであると聞いている。
ネロは私にとってどちらにも該当しない、と思う。
出会って間もないのだ。信頼も確執も、生まれようがない。
「私には、心当たりがあります」
……え?
「はっきりと言います。ミヤさんは、ヘロさんのことが好きなんでしょう?」
……は?
なんですと?
「ない、ない!それはな――」
「嘘ですね。だって、それしか考えられません。……私も、彼のことが好きです。貴方もそうであるなら、【ゲーム内で因縁のある者】 に私たちは該当することになります。違いますか?」
う。確かに、つじつまは合うかもしれないけど……。
私が、あいつのことを好き?そんな、バカみたいな話……!
「戦いましょう。ミヤさん。この勝負で生き残った方が、ヘロさんと結ばれる。それで良いじゃないですか」
そうだった。
彼女と決着をつけなければ、死ぬ。
「ま、まあ誰が好きとかいう話は置いておくとして……」
私は背から大剣を抜き、そして構えた。
大丈夫、相手は密偵だ。1対1なら、戦士である私の方が有利。油断さえしなければ……!
「ごめんね、ネロ。でも、私だって生き残りたいから……!」
やった。
ついに俺、ヘロはやってのけた。
レベル90。メニューを開き、現実時間を確認する。
23時48分。ぎりぎりセーフだ。あとは彼女、クウが成功していれば……!
コール音が響く。……クウだ。
「もしもし! クウ、俺はやったぞ! そっちはどうだ!?」
「……問題ない。さっき、レベル100になったところだよ」
よっしゃあ!
つーかすげえ。どうやったら1日でカンストするんだよ。まるでチートじゃねえか。
「そ、それじゃ、ギルドハウス前で会おう!高位転送を使って、今すぐに!」
急ごう。あと11分……10分。
「それで、どうなんだ? 俺を一撃で倒せそうか?」
「……絶対大丈夫、とは言えない。でも、この方法しかないから……とりあえず、身に着けているものを全部、脱いで」
は?
……あ、そうか。装備を外せば、それだけ食らうダメージが多くなる。
俺は速やかに装備を外した。ボクサーパンツ一丁。
こんな姿を彼女に見られるなんて……ちょっと興奮してる場合じゃない。
「そして、これを着て」
「この服は……」
アンデットジャケット。装備すると、ゾンビやスケルトンのようにアンデット属性になるという代物だ。
そうか、この手があったか。
「それじゃあ、やるよ」
「あ、ああ」
クウが目を閉じる。愛用のメイスではなく、魔法攻撃力が大きく向上する杖を持ち、そこに魔力を込める。
ごくり。
「……いくよ、【ターンアンデット】!!」
光が俺に注がれる。俺の全てを浄化し尽くすような、強力な光。
「…………ッぐあぁああ!?」
ドサ、と俺は大の字になって倒れた。意識がだんだんと遠のいていく。
果たして成功か、失敗か。
運命の女神は、俺に味方してくれるのだろうか。




