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【遠目】スキルを発動させる。
今回こんなことになったせいで、俺は改めてスキルを変更した。【遠目】はそのひとつだ。
このスキルの熟練度を最大まで上げると、1000メートル先にいるモンスターを容易く射ることができるようになるらしいが、今はそこまで上げている余裕はない。
200メートルほど先、茶色い兎のモンスターがいるのを確認する。
馬鳥という、人間が乗って移動するために飼い慣らされたモンスターの上で、弓を引き絞り兎に狙いを定める。
……くっ、外した……!?
やはり弓は難しい。相手の動きが素早いせいもあるのだが。
今日の午前0時、【強制決闘】が始まった。
俺たち4人は魔法都市のギルドハウスに向かう途中だったが、そこはまさに阿鼻叫喚だった。
「お、おい待てよ。俺たちは親友だろう!?」
「そんな……お前が対戦相手だと!?」
「この俺に勝てると思ってんのか? 死ぬのは俺じゃなく、お前だ!」
「ねえ、お願い、お願い! 貴方、私のためなら死ねるって言ってたでしょう!? だから、お願い殺さないで……いやあぁああああ!!」
「……ひどい有様だわ」と、ミヤは苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「結局、PKマップ追加よりもおぞましいことが起きてしまったね」
クウは、いつもと変わらない様子でそう呟いた。
そして豚丸が、怒りを隠しきれない様子で叫ぶ。
「ちくしょう! この企画を考えた奴、外道過ぎるだろ……!半分以上の人間が死ぬことが確定してるとか、ふざけんなよ!」
「同感だ……くそっ」
俺は拳を強く握り締める。
どうして、こんなことになってしまったのか。
このイベントの主催者は……いや、そもそもデスゲームを仕掛けた人間は、いったい何を考えている。
プレイヤーが殺されていく様を見たかった?
それもただ殺されるだけはなく、ときにはモンスターに蹂躙され、ときには仲間を裏切り、憎しみ合い殺されていく。
そんなことに、いったい何の意味があるんだ……!?
『やはりそうか。対戦相手はみんな、【ゲーム内で親しかった者】【ゲーム内で因縁のある者】のいずれかに該当している』
そう言っていたのは、誰だったか。
つまりそれは、デスゲーム主催者が『俺たちの行動、会話を監視している』ということになるんじゃないか?
ふざけやがって。
「メニュー画面を開くと、自分の対戦相手が表示されるけど……私、この人と戦うことなんてできないわ。あまり会話をしたことない人だから、なんでこの人なのかよく分からないけど……。とにかく、人を殺すくらいなら、殺されたほうがマシよ!」
豚丸さんはこくりとうなずき、こう続けた。
「俺だって、あいつとなんか戦いたくねえ! 俺も殺すくらいなら……って思うけど、きっとあいつも同じこと考えてると思うんだよな。でもこのままじゃ、時間切れ……明日の0時の時点で、二人とも死んじまう……」
「何か、両方とも生き残る方法はないのかな」
二人のどちらかのHPがゼロになった時点で、決闘は終了する。
24時間以内に決着がつかなければ、両者のHPがゼロになり、二人とも死亡する。
「何かないのか、抜け道は……!」
俺は必死に考えた。
何かきっと、きっとあるはずだ。
「……そうだ、あのアクセサリ」
18508回目に当てた、あのアイテム。
あれを使えば、生き残ることができるかもしれない。
ただし、装備可能レベルは90。
しかも、一度それを手にしたプレイヤー……俺だけしか、装備することができない。
それは、気概の指輪という。
一撃で自分のHPがゼロになった場合、HP1で復活することができる。
対戦相手を説得し、これを装備した俺を一撃で倒してもらえば、復活することができて俺は助かるかもしれない。
ただし、これを装備するためにはレベル90にならなければいけない。
そのレベル90になった俺を一撃で倒すには、相手もそれなりの高レベルじゃないといけない。
戦士や魔法タイプであれば、そこそこのレベルでも俺を一撃死させることができそうだが、回復だと最悪だ。あれは支援が本業で、攻撃向きじゃない。
……よりにもよって、決闘相手がその回復とは。
「……なあ、クウ」
「どうしたの? ヘロ」
彼女が俺の決闘相手。……よかったぜ、彼女なら俺の提案を受け入れてくれるだろう。
だが、期限は明日の0時。果たして間に合うかどうか……。
「俺はレベル90。クウは……レベル100、カンストまで」
カンストでなければ厳しいだろう。いや、それでも不可能という可能性もある。
「明日の0時までに上げて来い。と言ったら、できるか?」
クウは少しだけ笑った。……そして、こくりと頷く。
「もちろんだよ。そうすれば私たちは二人とも、生き残ることができるんだろう? 死んでも達成してみせるよ」
「はは、死んだら達成しても意味ないけどな」
もう、それしかない。他のプレイヤーを助ける方法が分からないのが問題だが……まだ、諦めた訳じゃない。




