13
時折吹く強い風。舞い上がる砂嵐。
そう、砂漠だ。
そして、なぜか湧き出ているのは、温泉。
「あ゛ー。砂漠に温泉があるなんて知らなかったぜ。ありがとよ、ハヤブサ」
湯に肩まで浸かった豚丸が唸る。
「へへ、ごく一部のプレイヤーしか知らない穴場スポットっスよ。無闇に口外しないでくださいっス」
そう言って泳ぎ回るハヤブサ。
岩に囲まれた場所。充満する白い煙。
いや、のん気に温泉に入ってる場合じゃないのだが、心身共に休息するのは大切なことで……。
『さあ、この際はっきりさせましょうか!アイスさんとバニラさん、果たしてどちらの方が一番おっきいのか!』
『そういうネロちゃんと、あと桜ちゃん。君たちこそどちらが最も小さいかはっきりさせるべきだと思うよ』
『クウ、貴方が最小だと言う可能性も充分あるわよ……』
『ミヤこそ、最大の可能性があるんじゃないかな。個人的には大きさなんてどうでも良いのだけど』
『あのう、あたしは?』
『ストロベリーは明らかに並サイズだから』
『バニラひどす!』
……隣から聞こえてくる喧騒。迷惑なような、羨ましいような。
「女子たちは盛り上がってやがるな……。こっちにも何か話題ないですかね?」
「なんだよヘロ、俺たちもアレの比べ合いをしろと申すか」
「いや、それは……」
「ちなみに俺の胸囲は90センチっス! ゲーム内でも現実でも!」
「そうか、おじさんは110センチだ! ゲーム内でも現実でも!」
「どうでもいいわ!」
ザバァ、と湯船から立ち上がる。
「ヘロちゃん、もう上がるのかよ?」
「まだ恒例の女子風呂覗きやってないっスよ?」
それ、絶対ロクな目に遭わないイベントだろう。
「結構です。俺が見たいのは、たった一人の女の子だけだから!」
ああ、クウちゃん。……まあ、あの子極小だけどな! ゲーム内でも現実でも!
脱衣所で装備を整え、その場から立ち去る。
これから集まった10人で狩りに行く予定だ。場所は【蟻地獄】と呼ばれる場所。
レベル30前後なら適正レベルだと思ったから提案したんだが、どういう訳か俺が最近パーティを組んだ女の子たちまで、ついてくることになったのだ。
つーか、バニラとストロベリーは黄金騎士団だろ? こんなところについて来て良いのか?
「ほんとみんな、のん気だよねえ」
うおおっ!? 誰かいたのか!
……なんだ、クウちゃんだったか。肩ほどまでのさらさらとした髪、やや低めの背丈。病的なまでに細っこい手足。
「クウも先にあがってたのか。ていうか久しぶりだな、こうやって二人きりで話すの」
「うん、そうだね」
やべ、心拍数が上がってきた。
隣にクウちゃんだよクウちゃんまじで二人きりとかどうすんだよやばい。
「……」
「……」
……うおおお、何か言わないと!
「ク、クウ。お前その…………座高いくつだっけ?」
「えっと、多分80センチくらい? 何でまた急に?」
……。
何を聞いてんだ俺はっ!?
「ねえ、私も質問して良いかな?」
……お?
「いやさ、大したことじゃないのだけど。あのさ、もし」
「ん?」
「もしも、私と貴方の命、いずれかひとつだけが奪われるとして、貴方はどちらを差し出す?」
……。
……哲学的な話か?
「どっちも嫌なんで、豚丸さんの命を差し出すじゃダメか?」
「ダメ」
「……それじゃ、金ならいくらでも払うから両方助けてくれってお願いするのは」
これもダメなんだろうな。つーか選べるわけねぇっつの。
「アリかも」
アリなのか。基準が分からん。
「それで、いくらなら出せるの?」
「うーん……1億円でどうだ?」
クウはなんだか嬉しそうだった。……何故に?
「そっか。それなら、大丈夫。みんな助かるよ、きっと。だから、大事にとっておいてね」
「……はあ」
……?
大事にとっておく?何をだ?
蟻地獄ダンジョン、一階。
人間とほぼ同サイズの巨大な蟻がうじゃうじゃとひしめいている。
少々気持ち悪い光景だが、まあ、巨大ムカデの大群とかよりはマシだ。……うぇ、想像しちまった。
「はーい皆さん、おじさんの言うことを良く聞いて~。これから、3人グループを3つ作ってもらいます。バランスを良く考えて決めてね。
作り終わったら最後に、おじさんが一番女子の多いグループに入ります!」
で、組んでみた。
ひとつ目のパーティは、ミヤ、クウ、俺。
ふたつ目はバニラ、ストロベリー、ハヤブサ。
最後にネロ、桜、アイスだ。
……まあ基本的に、これまでにパーティを組んだ経験がある人同士が集まった、という感じだな。
「それじゃ、宣言どおり俺はネロちゃんたちのところに……」
「いや普通に俺たちのパーティに入れよ!?」




