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拡散攻撃が、眼前に迫っている。
もう、だめだ。
盛大に吹っ飛ばされる俺、床に叩きつけられる体。
痛みはそれほど強くない。あくまでゲームなんで、現実の痛みに比べればかなり緩和されている。
だから、最初はあまり実感がなかった。
でも、これで死んだか。
そう覚悟したときだった。
「……やっぱり、今のは物理攻撃だったみたいですね」
……ん?
俺、生きてる?
慌てて自分のHPを確認する。ゲージの色は緑ではなく、赤の危険域を示していたが……。
僅かに残っている。
「1回目の拡散攻撃のときと、最初の挙動が違ってたからもしかして、と思ったのよ」
「どうやらあいつは、魔法攻撃と物理攻撃を使い分けているみたいだ」
「だから、私たちはあのときアンタに貰った、防御力が微増するアイテムをアンタに投げまくった訳」
なんと。
「……そろそろ、終わりです。さようなら、シャンデリア、さん」
そう言ってネロは、引き金を引く。
敵の眉間(なのか?)に見事命中し、黒い巨体を爆散させた。
ああ、心臓に悪い。
マジで自分が死んだと思ったぞ。
「ごめんなさい、ヘロさん。私のレベルがもう少し高ければ、もっと速やかに倒せたのに……」
「レベルに関しては私たちも同じだ。正直、油断していた」
「あー、気にしないでくれ。結果オーライだ」
とはいえ、次からはもっと慎重にいこう。うん。
またしてもビービーと警告音が響く。
4回目だというのに、本気でビビッてしまった。
『……先ほど、雷の島においてクエストの成功が確認されました。それによって……』
これで、残る島はあと4つ。……多分、全てクリアしないといけないんだろうな……。
「3人とも、今日はありがとう。いろいろ考えさせられたわ。また会いましょう」
そう言って桜が、フレンド登録を飛ばしてきた。
続けてアイスからも。
うへへ、これでフレ登録した女の子の数は4人になったぜ……!
「あの、ヘロさん」
「ん、なんだ?お前もフレンド登録か?」
これで5人目ゲットか!
うおおおお! ビバ・ハーレム!
「えっと、あの、その……」
「ん?」
「…………いえ、また今度、私のお店に来てください。良い装備を用意しておきますから。……次からは、適正価格で販売させてもらいますね」
それじゃ、とネロは足早に立ち去った。
なんじゃそりゃ。
……ま、いいか。レベル上がったらまた、寄らせてもらうことにしよう。
そういやレベル、いくつになたんだっけ。
メニューを開いて確認する。まだ29か。
せめて40まで上げたいところだ。それまでは島のクエスト参加は止めておいた方がよさそうだな。
不意に頭の中で、電話のコール音が響く。
遠距離通話の呼び出し音。ミヤちゃんからだ。
「よう、ミヤ」
『よかった、ヘロも無事みたいね。私たち、今からギルドハウスに向かうつもりなんだけど、ヘロはどうする?』
「そうか、なら俺も行くよ」
『オッケー。さっさと来なさいよ。それじゃ、またね』
ギルドハウスか、なんだか懐かしさを感じるな。数日前に行ったばかりなのに。
そういや、3人は高位転送を使って行ったのだろうか?それとも徒歩?【ライディング】を覚えられるのはまだまだ先だしな。
……歩くのも面倒だし。いいや、使っちゃえ。
いざ、魔法都市へ!
魔法都市はそれなりの規模があり、魔法商店街、魔法学校、馬鹿でかい図書館なんかも存在する。
紫を基調とした、どこか浮世離れした場所。それが魔法都市だ。
とりあえず、ギルドハウスに行くか。
と思った刹那だった。見知った3人組とばったり遭遇。
「ようヘロ。無事でよかったな」
「まあ、なんとか。そっちは?」
「全然余裕だったぜ。一緒にパーティ組んだハヤブサが優秀だからな」
まじか。
もう俺じゃなくて、ハヤブサと組んだほうがこのパーティにとって良いんじゃね?
……いやいや、卑屈になってはいかん。
もっと精進せねば。
「次のクエストがどの場所かは、まだ分かってないそうだ。船も、転送用NPCも見つかってないんだと。
つー訳で、誰かがそれを見つけるまでの間、俺たちはどこかでレベル上げでもした方が良いんじゃないかって話をしてたんだ」
「せめてレベル40にはなっておきたいところだね。先導組の中には、50くらいまで上がった人もいるんだって」
「場所は、どこが良いかしらね。フィールドは弱いモンスターばかりだから、そろそろダンジョンに篭ったほうが良いかも。安全に狩れることを確認しなきゃだけど」
なるほど、俺も同意見だ。
ダンジョン、どこが良いかな。30前後だから……。
うーん。
……そうだ!
「なあみんな、あそこのダンジョンはどうだ?」




