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パイプやら歯車やらがいたるところに配置されてる、機械工場。
今回のクエストではレイドが組めないため、俺とネロ、桜さん、アイスさんの4人でボスを倒しに行く。
前の洞窟に比べれば随分明るく、進みやすいな。
「げ、またトラップか!? 状態異常毒って……うわどんどんHP削れる」
稀にこんなこともあるが。
「何で貴方ばっかり引っ掛かるのよ……【キュア】【ヒール】!」
「か、かたじけない」
機械工場に入ってから、いまだにモンスターと出会っていない。
その代替と言わんばかりに、いたるところに罠やら何やらが仕掛けられているのだ。
「……そういえば桜さん、他の回復の人と比べると、ヒール量少ないよな? ひょっとして、純支援じゃないとか?」
「うん。ソロで狩るときもあるから【サクリファイス】持ってるわ。自分のHPを半分犠牲にして、敵にダメージを与える奴ね」
「そっか。アイスさんは、ひょっとすると防御特化? 盾持ってるし」
「ああ。攻撃手段もなくはないが、【防御力上昇・小】や【ステップ】、【かばう】などで自分や味方の身を守る役割をすることが多いな」
ふむふむ、なるほど。
「俺が回避特化で、アイスさんが盾役、桜さんが回復メインで余裕があれば攻撃。で、メインアタッカーはネロだな」
「分かりました。頑張ります」
即席パーティーとはいえ、意外とバランス良く纏まってるな。
強いて弱点を挙げるとすれば、魔法……
「ってうお! また引っ掛かった! 今度は麻痺かよ!?」
いや、足引っ張りまくりな俺がいることが、まさに弱点か。
「……あの扉だけ、色が違いますね。ボスがいる部屋でしょうか」
罠だったら嫌だな、とっても。
「それじゃ、誰が最初に乗り込む? 遠距離アタッカーのネロは後ろに控えてもらうとして、残り3人の誰かだな。どうやって決めよう」
「うーん、くじ引きとかかしら」
「じゃんけんの方が手っ取り早いのではないだろうか?」
「よし、分かった。変顔対決だ」
結果。
俺の惨敗でした。
美人でもあんな顔できるんだな……恐ろしい。
「そ、それじゃ俺が……先に、入ります」
扉の右にあるボタンに触れる。中から槍なんかが飛んできてもおかしくないので、全員が臨戦態勢で待機する。
……何も飛んでこないな。
「よし、ゆっくり先へと進むぞ」
部屋の中には、俺の背丈より少し大きい培養器みたいなのがずらっと並んでいる。なんだか不気味だ。
「ここにいるのか? ボスは」
そのときだった。高い天井からガシャンッと落ちてくる物体。
シャンデリアかよ!? と突っ込みを入れたくなるくらい、その物体の形はシャンデリアに酷似していた。
ただし、サイズはその何倍もあるが。ほとんど黒色なので、シャンデリアの豪奢といったイメージとはかけ離れている。
名前を確認する。【電気放射器】。……何だそりゃ。
っていうか電気だと。
……まさか!?
「アイス、離れろ!」
咄嗟にアイスが【ステップ】を使い、俺たちの後方へ。
直後、【電気放射器】が充電をしてるような素振りを示す。
あれを一気に放射するってか!?
俺は【ステップ】で後ろに思いっきり飛んだ。前に出すぎていた、桜の首根っこを掴みながら。
「わぷ!? ちょっと、何で引っ張るのよ!」
四方八方に放出される電磁波。
「引っ張らなかったらお前、今頃黒コゲだったぞ?」
幸い誰も食らわなかったが、相当強力だな、あれ。
今のは雷属性攻撃だ。属性攻撃は、物理攻撃扱いのものと魔法攻撃扱いのものがある。
いったいあれはどっちなんだろうか。
もし、魔法攻撃だったら危険だった。戦士タイプであるアイスは、魔法防御力が相当に低い。下手したら即死、と言う可能性もある。
……まあ、密偵である俺の方が、戦士より魔法防御低いんだけどな!
あと、ネロがナイフ使いじゃなくてよかった。
「アイスは念のため、攻撃範囲外にいたほうが良い! そして、盾を構え続けていてくれ。アイス自身と、ネロを守るんだ」
盾は物理攻撃、魔法攻撃両方を軽減する効果がある。回復である桜は物理防御、魔法防御共にそれなりにあるので、少なくとも即死はないだろう。
自分とアイス、ネロをひたすら【ヒール】して耐えてもらうしかない。
そして、俺が敵をひきつける。なに、当たらなければどうということはない!
「おっと!」
シャンデリアモンスターが体当たりしてきた。すかさず【ステップ】で右に回避。
ネロはひたすら銃を撃ちまくっている。パッシブスキルである【ニ連撃】が時折発動するため、いい感じのダメージ量だ。
体当たりの次は直線攻撃か!? 明らかに俺を狙っている。
今度は左に【ステップ】……ッ!?
「ぐあっ!」
「ヘロさん! 大丈夫ですか?」
か、拡散攻撃だった……。HPが一気に6割ほど削れている。【ステップ】じゃなくて【ハイド】で隠れるべきだったな……。
うお、しかも体が動かない。麻痺か。桜はアイスたちに【ヒール】をかけている。
俺に支援が来るのはしばらく先か……。
ここでHP回復ポーションを一気飲み!! ……したいところだが、麻痺で動けん。
敵は容赦なく、彼女たちに電撃を浴びせる。桜の【ヒール】で持ちこたえているが……。
敵は、桜のほうに狙いを定めてきた。【ヒール】を連発したせいで、ヘイトが溜まったのか。
彼女のHPは3割程度。やばい、いくら魔法防御力が高いといっても、次に食らったら死ぬんじゃ……?
「うおっ……おおお! 動け、動けよ俺!」
麻痺が切れた。俺は思い切り桜を跳ね飛ばす。
次の攻撃が来る。拡散攻撃か。俺のHPはいまだに残り4割。
ああ、詰んだわ。
……そうか。
俺、死ぬのか。
死ぬ前に、生身の女体に触れたかったな。
こんなことなら金、ネトゲじゃなくて女の子との交際費にでもすれば良かったんじゃないか?
まあ、時すでに遅し、か。
……ごめんな、みんな。
 




