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「えと。こっちが桜さんで、鎧の方がアイスさんだな」
女性的な喋り方なのが桜さんで、ややぶっきらぼうな口調なのがアイスさんだ。
それにしてもネロのやつ、あっという間にナンパに成功しやがった。こりゃ、俺が行かなくてよかったかもな。
こうして4人パーティ結成に成功した。あとは雷の島に行くだけだ。
彼女たちに高位結晶アイテムを渡す。最初は二人とも受け取るのをためらっていたが、
「重課金か、あまり感心しな……いや、ありがたく貰っておくよ」
「どうせ親の金でしょ? 人として恥ずかしくないの? ……まあ、くれるっていうなら使わせてもらうわ」
などと言って受け取ってくれた。罵ってくださりありがとうございます!
「それじゃ、時計台の町に行くか」
昨日の港町と同じく、人が大量に集まっている。
皆、足止めされていることに苛立っているのか、険悪な雰囲気だ。
豚丸さんと連絡を取ることにしよう。メニューを開き、操作する。
「……豚丸さん?今、時計台に来てます。人はどれくらい集まったんですか」
『ヘロ。ハヤブサが言うには、もうすぐ9000人だそうだ。多分、あと1時間はかかるんじゃねえか』
「そうですか……」
1時間、か。手持ち無沙汰だ。
「暇だなあ……。そうだ、こうして皆さんにお会いしたのも何かの縁ですし、ここはひとつ、雑談でもしますか」
「賛成です」
「うむ」
「そうね」
女性3名の了承を得たところで、雑談を開始する。
……。
…………話題が思い浮かばん。
「……それじゃ、私から。皆さん、デスゲームが開始されたことについてどうお考えですか?」
いきなり結構、重い話題だな。
「どう、って。俺はとっとと現実世界に戻りたいって思ってるよ。これまで一度も、生身の女体に触れたことないからな……」
「ふうん。……それってつまりアンタ、もしかして……」
「ん?何だ?」
「べーつに」
……まあ、いろんな女の子たちとパーティを組むことになったし、楽しいといえば楽しい、か。
死なずに済むなら、この世界も悪くない。
レベルカンストしたら、例のスーパー神器を装備して……どこかの町で、美女たちと遊んで暮らすのもありだな。
「よっしゃ、がんばってレベル上げるぞ!」
「ふふ、なかなかの心意気だな。君は昨日から攻略に参加しているんだろう?偉いな」
「そうよね。私たちはきっと、貴方に声を掛けられてなかったら、町周辺の安全なところでのんびり過ごしてたと思うわ」
「んー、別に正義感とかがあって参加してるわけじゃないんだけどな」
俺たちは、あくまで打算的なのだ。このゲームはヒーローの名を冠しているが、俺はヒーローになりたいなんて、これっぽっちも思っちゃいない。
俺と、知り合いが生き残れればそれでいい。可能な限り、死ぬプレイヤーは減らしたいと思っているが……所詮、知らない人間だしな。
と、そうだ。
「お前たちには、これやるよ。ガチャのランクDアイテムだけどな。自分や他プレイヤーに使うと、防御力が僅かに上昇する。重複して使えるから、やばくなったら使ってくれ。あ、魔法攻撃には効果ないから、注意な」
と言って、3人に100個ずつ渡す。
敵単体をひるませるやつは手持ちがなかった。倉庫に行くのも面倒だし……まあ、これで良いだろう。
「そんな、いいのか?100個ということは、ガチャ10万円分だろう?」
「一体何回回したのよ、アンタ……」
6622万2000円分であります!
……なんて言えないので、俺は適当にはぐらかす。
「そ、それよりだな。攻略に参加しないのはいいが、レベル上げはしといたほうが身のためだぞ」
「あー、次のアップグレードする予定だったってPKマップのこと?確かに、ちょっと気になってはいたのよね」
「ご忠告感謝する。これからは、積極的にレベル上げに励もうと思う」
「ああ、死なない程度にな」
生き残らなければ、何の意味もないのだ。
……そう考えると、豚丸さんやストロベリーは大変だな。魔法タイプって、一番死にやすいし……。
生存率が高そうなのは、盾を持った防御特化戦士や、自己回復ができる回復タイプだろうか。
ネロのように、遠距離から攻撃できる密偵タイプも、結構死ににくそうだな。
俺は回避力がウリとはいえ、うっかり攻撃が当たってしまえば、最悪即死なんて場合もある。どちらかというと死にやすいほうだろうな。
「……おい、みんな。1万人の寄付が終わったようだぞ!機械工場の扉が開いてる!」
誰かがそんなことを大声で叫んでいた。
「お、思ったより早かったな。……さて、中のボス様をぱぱっと倒しちゃいますかね」




