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「でも俺、既にギルメンとパーティー組んでるからさ。申し訳ないけど、断らざるを得ないな」
彼女はとても残念そうな顔をしているように見える。ああ、心苦しい。
「そう、ですか。では、一度だけ……今回だけでも良いので、私とパーティを組んでいただけませんか?」
「一度だけか。それなら、まあなんとか……」
「良いのですか!?」
「ちょ、ちょっと待て。今ギルメンに聞いてみるから」
豚丸さんに聞いてみよう。ちなみにギルメン同士でも、遠距離通話は可能だ。
「……と、言うわけなんですが……豚丸さん俺、どうしたらいいでしょう」
『んー、未だにに人が集まらないそうだからな。今、7000人ちょっとってところらしい』
「それなら、一人でも多く集めたほうがいいですよね?」
『そうだな。俺たちのことは心配するな。ハヤブサに相談してみる。お前も二人で特攻なんて危険な真似せずに、人数確保しておけよ』
「分かりました。それじゃ」
プツン、と通話が切れる音がした。どうやら了承を得られたようだ。
「どうでしたか……?」
「君と一緒に行って良いそうだ。だけど、二人だけでは危険だから仲間を……」
「できれば二人きりが良いのですが」
そりゃあ俺も君と二人きりになりたいよ。
……でも、安全には変えられないからなぁ。
「それが原因で死んだらどうするんだ?」
「貴方と一緒なら本望です。……と、言いたいところですが、それは困りますね」
彼女は顎を押さえながら、考え込んでいる。
「だよな。こうなったら現地に行って、そこで組める人を捜してみるか。確か、時計台の町だったな。君は何のタイプなんだ?あと、レベルはいくつ?」
「……それが、密偵なんです。それから、レベルは1です」
をい。
それじゃあ尚更二人で行くのは危険じゃないか。
「私、死ぬのが怖くて……だからずっと、ここで装備を売っていたんです。それで、頑張って攻略している人に少しでも協力したくて、だから、今まで作った装備を投売り価格で……」
「あーなるほど、そういうことか」
それで8ゴールドねえ。ふむふむ。
「ま、とりあえず時計台の町にいこう。これやるから、使ってくれ」
渡したのは、例の高位転送のやつだ。
「これ、確か有料アイテムの……」
「気にするな。まだ沢山持ってるし」
「重課金ですか。正直ちょっと引きますけど……でも、お礼は言っておきます」
それはどうも。
「ああでもその前に、近くの海岸にでも行って、モンスター狩りに行こう。レベル1ってのはなんか不安だ」
「え……でも、危険じゃないですか?」
「これからもっと危険なところに行く予定なんだが……とにかく、俺が壁役をやるから、君はただ攻撃してれば良い。強いていうなら、ナイフより弓か銃の方が良いかな」
彼女は棚から、一丁のハンドガンを取り出した。
それは良いが俺に向けるのは止めてくれ。撃っても無傷なのは知ってるが、何か怖い。
「これが、私の得物です。その名も、デザートイーグル+1」
わお。強そう。
そんでもって、港町近くの海岸へやってきた。
青く澄み切った海。泳ぎたい。
そして、サラサラの白い砂浜。
「初デートが海って、なんだかロマンチックですね……」
「そうだね、初デートで海岸の巨大ガニをぶっ殺しに行くなんて、刺激的だね」
そう、今回の目標は巨大ガニ。経験値が良い割に弱いのが特徴だ。
「そんじゃあやるぞ」
近くを横歩きしているカニに向かって【影縫い】。
怒り出した……のかはよく分からんが、動けるようになったカニが俺の方へ向かってきた。
はさみで切られる前に【ステップ】と。
「よし、いいぞ。攻撃してくれ」
彼女――名前をネロというらしい。俺とちょっと被ってるな――は、すかさずハンドガンを構え、連射する。
レベル1なので、当然スキルは使えない。一撃のダメージも低く、これは1体倒すのに10分ぐらい掛かりそうだな。
だが、1体倒しただけでも相当レベルが上がるはずだ。
……あ、倒せた。
「レベルいくつ上がった?」
「今、9になりました」
おお。やっぱり。
「じゃあ、20までサクっと上げちゃおうか。20になるとスキルスロットがひとつ増えるからな」
「はい。分かりました」
それから30分後。
無事に彼女がレベル20になったので、港町に戻ってスキルを貰うことにした。
「銃だから……【ニ連撃】【射程延長】【遠目】はあったほうが良いよな」
「分かりました。そのようにします。……はい、終わりました」
よし。あとは、二人の仲間を捜すだけか。
「回復役は必要として……あとは戦士と魔法、どっちが良いのかな。まあ、美人ならどっちでも良いけどな」
「美人、良いですね。私、美人もイケメンもありだと思います」
「イケメンは俺がいるから良いだろ?」
……。
……あれ、何も言ってくれない。さっきイケメンだって言ってくれたのに。くすん。
そのとき、神のお導きか何なのか知らんが、いい感じの美女の二人が横切った。
気が強そうな子の方は白ローブに杖だから回復だろうし、長身の女性は鎧を着てるから戦士だろう。
連れがいるという可能性もあるが……これは声をかけるしかない!
「なあネロ。あの二人ナンパしていいか?」
「良いですね、ナンパ。では、私が行ってきます」
お前がかよ。
それ、ナンパって言うのか?




