宝くじ、当選しました。
……残念ながら1等ではなかった。1等の配当金は12億円だが、俺が当選したのは前後賞というやつ。配当金は、3億円。
それでも充分に高額なのは言うまでもない。
数年前からコツコツと買い続けていたが、遂に報われる時が来たのだ。
俺は心の底から歓喜した。
配当金の受け取りはネットで可能だ。手続きは簡単で、あっという間に口座に届く。
疑義があった場合は時間が掛かるらしいが、幸いそういったことはなかった。
よく、高額当選者が当選したことを周囲にばらすと、ロクなことが無いと言う。
家族も近しい親戚もおらず、リアル友達もいない俺。近所づきあいも全く無いし、別に心配する必要はないな。
3億円か。
22歳の俺が、仮にあと50年生きたとして……全く仕事をしなくても、何とかやっていけるレベルか。
そう考えたところで、実行はしないのだが。
『宝くじに当たったら、全部ネトゲにつぎ込む!』
あらかじめ、そう決めていたから。
俺が幼少のころからプレイしているネトゲは、【ヒーローオンライン】というVRMMORPGだ。
国内では人気があるらしく、運営の管理も徹底している。
RMT、BOTといった不正行為は俺の知る限りないし、ハラスメント行為をしたプレイヤーには速やかにアカウント停止処分を行う。
数十年前、VRMMOがまだ存在しなかったころのネトゲは、運営の管理が行き届かずそれはもう凄惨な状況だったらしい。
俺は経験したことがないが、自称【紳士な中年プレイヤー】の豚丸さんがそう言っていた。
「メンテ終了は……あと4分後か」
そういえば、ゲームメンテナンスについても豚丸さんがぼやいてたっけな。
『メンテ終了時刻が1時間、2時間延長するのは当たり前。稀に次の日になるまでプレイできないこともあった』
信じられん。冷めたピザを平然とよこす宅配サービスみたいなものではないか。
メンテ延長を経験したことなど、俺は一度もない。っていうか、よくそんなクソみたいなゲームをプレイできたな、昔の人は。
当時を知る人にとっては、今のネトゲは楽園に等しい環境なんだろうな……。
そんなことを考えつつ、パソコンの電源を入れる。即座に表示される初期画面。
無線で繋がったVRデバイスを頭に装着。
視界が真っ黒になる。瞼を閉じ、顔を覆ったときよりもさらに黒い、漆黒。
やがてロゴが表示される。VRデバイスの名である【リアライズフューチャー】そして【ヒーローオンライン】。
アカウント、パスワード入力は記憶させているので必要ない。
やがて表示されるもう一人の俺、【ヘロ】の全身像。
剣を腰に下げ、赤いマントを翻している。前時代の勇者像といった感じだ。
OKと呟けば、そこはもうゲームの中。
ヒーローオンラインの世界だ。