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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

百合の小径

あなたは少女のままで

作者: 杏藤 輝行

 誰も居ない深夜の駅のホーム。時計の針が午前一時を指す頃、女子高生の幽霊が現れるとの噂だ。私は彼女に会うために、毎日ここに居る。



 好き、と、言われたのはいつの事だっただろうか? いや、明確にはそのような告白は無かったかもしれない。自然とそのような幻想を思い描いていたことだけが鮮明に残っているのかも。けれども、幼い頃からずっと一緒で、お互いに好きあっていた。大好きだった。

 いきなり吹いた強い風“出そう”な雰囲気を演出しているようだ。そんな事を考えながら反対車線のホームを見続ける。

 女子高生の幽霊は、線路に飛び込自殺をした幼馴染だと思っていた。思っているだけ。幽霊を観た人の話による特徴や、彼女を知っている人は「間違いなくあの子だった」と口を揃えて証言する。だから毎日来ているのに、私だけが会えたことがない。消えてしまいそうな電灯の灯り、一瞬消えたり点いたりを繰り返す。また強い風が吹いた。その冷たさに思わず身震いをする。冬がすぐそこまで来ている事を実感した。一人でかじかんできた手をさする。昔はこんなとき彼女が手を握ってくれた事をふと思い出した。

 ホームでは風の吹く音だけがこだまする。それが午前中の電車が頻繁に走っている時の賑わいと比較して、静かな場所であることを強調させる。時計を見ると一時半近かった。そろそろ終電が来るから、午前中までとはいかないが賑わいが少し戻る頃だろう。今の風の音しか響かないここは現実世界とかけ離れた場所のように思えた。彼女もきっと同じことを考えていたのだと思う。ここはあまりにも寂しい。生きている一歩手前のような気がする。現実に戻ることが出来ずにそのまま死んでしまった彼女。


 初めてキスをしたのはこの場所だった。彼女と共通の友達の家へ二人で泊りに行ったけれど、夜にいきなりその子の彼氏だか男友達だかが来て、帰されてしまったのだ。誘ったのはあっちなのにとか文句を言いながら、終電を待っていた。不良になったみたいだねなんて笑いあっていた。一通り文句も言い終って少しの間が空いた時、彼女にキスをされた。驚いたけれど嫌ではなかった。それに自分でしといて耳まで真っ赤になっているから面白くて、悪戯に笑ってみせると、涙目になりながら俯いてしまった。

 友達同士のちょっとした悪戯だったといえば、それで終わったかもしれないけれども、私たちの好きはどんな好きかが分からなくなってしまった。あの日から、今まで以上に特別になって誰よりもお互いを愛していると信じていた。ずっと一緒に居ようと約束していた。


 終電が来た。生きてる心地が戻ってきた気がする。それに乗り込み、最寄りの駅まで転寝うたたねをするのがいつものパターンとなっていた。明日の学校の事等を考えながらいつの間にか意識を手放すのだ。先ほどまであふれていた彼女の事は考えない。忘れた事は一度だってないが、現実ではすっかり昔の事となってしまっているからだ。あのホームでは彼女といた時の状態で止まっている。だからそれしか考えられないのに。

 最寄駅のホームに着くと待っていてくれる彼氏。いつも家まで送ってくれる。前は「会えたの?」と聞いてきたが、今は何も言わない。私の様子がいつもと変わらないからだ。それにしてもこんな夜中に懲りることなく迎えに来てくれる事に感謝するとともに、変な話だけれど感心していた。私の両親は彼女に会いに行っている事を知っているから、色々と考慮しているのか何も言わないけれど、彼の両親はどう思っているんだろう? と考える。彼がそのままを話しても呆れられるだろうし、学生がこんな夜中になんて、良く思わないだろう。

 そんな彼と付き合い始めたのは、高校に入ってからすぐ。初めて告白されて付き合った。私も彼を好きだった。じゃあ彼女に対しての好きは? 私はあの時初めて疑問を持って悩んだ、いや、それは嘘でずっと気が付かない振りをしていた。それを分かってて彼氏が出来た事を伝えると、彼女もとても喜んでくれて、自分も早く欲しいと言っていた。内心ほっとしていた。でも、それから直ぐに自殺してしまった。原因につては書かれていなかったが、皆に対しての謝罪のみ書かれたような遺書らしいものがあった。きっと私の所為だろう。彼が他の人を好きになったら、私は気持ちが荒れるだろう。彼女の好きはそういう好きだったのだから。


 次の日も私はあの駅のホームにいる。彼女には会うことは出来ないだろう事を私は知っていたが、ここに居る。昔に戻った気がするから。そう感じるのは私はすっかり大人になってしまったからだと思う。大人は戻ってこない過去を求め続けるものだ。彼女はここへ、少女のままの自分を永遠に残してきた。そんな彼女と別れてしまった自分は、その思い出を思い返すことしか出来ない。会いたいと願いながら。

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― 新着の感想 ―
[一言] 寂しいですね…でも、この空気感、とても好きです! 彼氏出来たんですね…笑
2015/06/30 17:18 退会済み
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