s9
「……美味しかったです、すいませんでした」
鋼凪敗北。俺勝利。
いやぁ、物凄く気分が良い。余の気分は最高潮だぞ。ハァーハッハッハ!
…………少し反省しようか自分。
「そう言えば一輝。なんか教室で二人に話があるって言ってたけど」
「ん……あぁ、そうだな」
千秋の発言で俺は真面目モードに入る。
……っていうか、俺に真面目モードなんてものがあるのだろうか?
まあ、どうでもいいか。
「そういえば千秋。《完全干渉》の件はどうなった?」
「んん……あれはまだ市内にいるよ」
「ちょっと待ってよ。《完全干渉》って言ったの?」
険しい顔つきをしながら鋼凪が俺に問うてくる。
「あぁ。だがまあ安心しろ、お前が今危惧している事は起こってない」
「…………? 何を言ってるの?」
「虎杖の《非観理論》は本来のコード入手法以外で手に入れただろ。それと同じ事が《完全干渉》にも起こってる。詳細は不明なんだがな」
「……僕が日記帳を見たみたいに、誰かが《完全干渉》が残した何かを見たって事ですか?」
「そういう事だ。つまりまあこの市内に《完全干渉》のコード使用者がいるって事になるんだが」
俺は一旦言葉を区切り、少し間を空ける。
理由は簡単。
この先の言葉はあくまで俺の予測であって確証がない。だから言う必要が無いかもしれないと思ったからだ。
でもまあ、可能性が低いわけではない。一応言っておくか。
「この市内だけでコード使用者が6人以上いる状況になったかもしれない」
「6人以上?」
千秋が少し驚いたように聞いて来る。
「ココに居る4人。そしてこの市内にいる《完全干渉》。そして今朝方の逃走犯。誰かが逃走の手助けをした可能性があるから6人以上だ」
「……逃走犯って、朝のニュースでやってた奴ですか?」
「あぁ」
虎杖の確認に、俺は短く答える。
「ちょっとニュースの記事を見ておかしな部分が有ったら調べてみたんだ。当時の大まかな状況、それと逃走犯が捕まる以前に何をやらかしたか。どちらとも調べたんだが、おかしいんだ」
「何がおかしかったんですか?」
「直観的に、おかしいと感じた」
「…………カスは頭の中もすっからかんという事が分かったわ」
「一輝、もう少し論理的に考えようよ」
鋼凪にバカにされた上、悟ったような声で千秋にもっともな事を言われた。
こんな屈辱は初めてだ! このクソ野郎共が!
俺だって論理的に考えたいが、相手のコードが分からない上に、コードによって事実は変えられてんだから論理的に考えるのは不可能なんだよ!
比較して変わった部分を見つけるにしても、変更前の情報がない。だから論理的に考えるのは不可!
「上等だ、この尼ども! 証明してやるよ!」
「一輝。言葉遣いをもうちょっと考えようよ。そんな興奮しないで」
「尼? なんでいきなりア〇ゾンが出て来るわけ?」
何なんだこの女二人は!
千秋はさっきから俺を諭してくるし、鋼凪に関しては尼は隠語じゃないほうの意味なんだよバカヤロウが!
あぁ、だから言うのを躊躇ったんだ。ほぼ確実にこうなるから。
「でもなんでそんな風に思ったんですか? 直観以外にも理由があるから言ったんじゃないんですか?」
「ほぼ経験則だな」
「虎杖君、このカスを相手にしてたら自分が疲れるだけだから気を付けた方がいいよ」
この四人の中の唯一の良心、虎杖に忠告する鋼凪。
まあ確かに、疲れるだけだから反論もできない。
「ともかく、この市内にコード使用者が集まってる傾向にあるってことだ」
「あ、一輝が無理矢理話を進めた」
こら、千秋。余計な事を言うんじゃない。鋼凪が食いつくだろうが。
「というか、別にコード使用者が集まったとしてもこっちが不用意に力を使わなきゃお互い気付かないんじゃ?」
お、鋼凪はそっちに食いついたか。よかった。
「おいバカの鋼凪。一つ良い事教えてやる」
「何? 言ってみなさいよカス」
「ここに集まってきているコード使用者の目的は《非観理論》だぞ。不用意とかは関係無い」
だからわざわざお前ら二人を我が住処へ招いたんだよ。
「でもそんな簡単に虎杖君が《非観理論》の使用者だってバレることは―――」
「ある。俺たちが証拠だ。コードには使用者を探せるようなものもあるんだよ」
「…………」
鋼凪が押し黙る。先程とは違って実際にそうだと分かってしまうからであろう。
「まあ、俺たちは《非観理論》……虎杖の味方だ。他のコード使用者に好き勝手にはさせない」
「他の使用者を伝って、目的の人物との関係を持たれると困るからですか?」
「まあそういう事。それにお前を助けて損になるような事は無いからな」
俺はそう言い、食器を洗いに行く。
まあ今やらなくてもいいけど、俺が言いたい事は言ったからな。
後は本来の親睦を深めることを勝手に三人でしてくれや。
ほら、グダってきたグダってきた。