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「………チッ」
転入初日の騒動から数日後。
俺が起きた時刻は4:27。
いつも学校に行ってる時間は7:00。
遥かに無駄に早起きしてしまった模様だったため、朝食と弁当を作ったりしていたわけなんだが……。
現在時刻は6:30。
そろそろ眠り姫、千秋を起こしに行くべき時間か。
っていうかアイツ。そんなに夜更ししてるわけじゃないのに、むしろ夜の8時には寝てるような子供のような生活を送っているのに、何でこの時間までブッ通しで寝れるんだ?
……まあ一番打倒な理由は精神的な疲労だろう。
容姿のことでとやかく言われないわけが無い。俺は知らないがイジメなどもあるかもしれない。
まあイジメなんて物をされれば、千秋はその倍返しで相手の精神をズタボロにぶち壊すこと間違いないが。
「入るぞー……」
元ゴミ屋敷、現俺の住処であるこの家。
2階まである一戸建てで、まあ物凄く広いわけでは無いが、家族単位で暮らすには問題無い広さがある。
その2階の部屋の一つのドアを開け、俺はノックもせずに中に入る。
千秋の部屋。ベットとクローゼット、それに縦長のデカくて全身が見れる鏡……姿見が一つ置いてあるだけだ。
まあ本来なら無駄なプリントやらペットボトルやら缶やらが散乱していたのだが、つい最近、俺の手によって全て片付けられた為、現在はこうしてシンプルかつ綺麗な部屋となっている。
…………んな苦労話はどうでもいい。
ベットに薄いタオルケットを一枚掛けて寝ている千秋。
秋も暮れ始め、もう一ヶ月しないうちに12月になるのにタオルケット一枚は寒かろうに。
「おい、起きろよ眠り姫」
そう言ってタオルケットを引き剥がす俺。
そして、その直後、静かにまたタオルケットを丁寧に掛けて上げたのは、決して千秋を可哀想だと思ってやったわけじゃない。
まさか義妹であり幼馴染のようなものであり親友でもある千秋が裸ワイシャツで寝てるとは思わなかったからです。
裸ワイシャツでタオルケット一枚…………こいつは風邪を引きたいのか?
「おい、千秋。さっさと起きろ。学校遅刻するぞー」
無理矢理起こす方法から、体を揺さぶって起こす方法にチェンジ。
数秒後、のそりと千秋が起き上ってきた。機嫌が悪そうな顔をして。
「……ちぃ、吐くかと思った」
「吐く物も食っちゃいないだろ。さっさと朝飯食え」
そう言って俺は千秋の部屋から出て行き、1階に下りダイニングに一人分の食事を用意する。
俺はもう千秋を起こしに行く前に食い終わってるから、千秋の分だけを用意する。
十数秒後、千秋が騒がしく階段を下り制服姿で俺に向かって喚き散らす。
「一輝! 見てないよね!? ちぃのその……見てないよね!?」
「あぁ、見てない。それにしても人間の体って凄いよな。昔は貧相だったものも今では大きく豊かになってるんだものな。俺さっき驚いちゃったよ」
「それって何の話!?」
「にしても裸ワイシャツにタオルケット一枚は止めておけ。もうそろそろ寒くなってくるんだから風邪引いちまうぞ」
「見たなぁ!!」
千秋が朝から柄にもなく無駄に大はしゃぎしている。何故だろう?
あ、バカで寝起きだからか。
「おいおい千秋、胸倉を掴むな。行儀が悪いだろ」
「行儀も礼儀も仁義も知ったものかぁ! ちぃの恥ずかしい姿を見た限り、一輝の死は確定しているぅ!」
「恥ずかしいと思うなら、ちゃんと服着ればいいじゃないか。それに俺はお前の裸を見たわけじゃないし、ワイシャツ越しだったし。それと後、下着越しでもあったな」
「だからその下着姿が恥ずかしいってちぃは言ってるの!」
「ワイシャツが有った。問題無い」
「うるさい黙れ一発殴って記憶を抹消してやる一輝のバーカ!」
「ハァ…………6:42。賢いお前なら意味分かるよな?」
俺が現在時刻を言った途端に急いで朝食を摂り始める千秋。
本当、バカって扱い易くて楽だわ。
そう思いながらテレビを……付けたくても我が家にはそんな物は無いので、新聞を……読みたくても我が家はそんな物を取っていない。
仕方が無いので、携帯でニュースを見る。
政治、経済、その他諸々。スポーツと芸能は除いてる。興味が無いからだ。
暇ならニュースを見ろ。義父……まあ俺と千秋を引き取ったクソ野郎に昔教え込まれたことの一つで、俺にとってはちょっとした一環になってきているものだ。
ニュースは出来事の断片的な部分しか伝えられないが、多くの情報を得られる。
その多くの情報の中には、時々コード使用者が起こした事件も含まれている可能性すらある。
それに、コードなんて異能を持っていて悪用をしないのは平和ボケで頭がマンネリ化したような奴かよっぽど正義に憧れたバカ野郎しか居ない。
だから月一のペースでコード使用者が起こした事件が入ってるはずだ。
そんな風に、義父は言ってたような気がする。
まあその後に、その事件を見つけられるかどうかはお前の洞察力や直観次第だけどな、と付け加えていたが。
直観なんて哲学的な言い回しでムカついたことを今でも覚えている。
しかしまあ…………。
「送検中の強盗致死罪の男が逃走。今朝方、この市内で目撃された情報あり……か」
「普通の人からしたら怖いね、それ」
朝食を呑み込みながら、千秋がそんな感想を呟く。
まあそうだろう。普通の人も、普通じゃない人も警戒すべき事件だ。
この市内は思ったよりも物騒かもしれない。
グダる。いっそ、もう本番へ入ってしまおうか?