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「一輝言ったよね? 問題無いって」
「……はい」
「で、一輝はさっきまで何をやっていましたか? ちぃに分かり易く説明してみてください」
「……なあ、お前いい加減ちぃって呼ぶの―――」
「つべこべ言わずに早く。ナウ」
「……《否定定義》のコード使用者である鋼凪梓美が好戦的な態度をとった上に殺意をむき出しにされて自分の命の危機を感じましたから、自己防衛のため、鋼凪梓美の首筋に刃物を突き立てて抑止していました」
叩かれた。千秋にジト目で思いっきり俺を叩いて来た。
「一輝が交渉とかには向いていない事がよく分かった」
「俺は交渉とかに向いてないわけじゃない。お前よりは向いてる自信がある」
「分かった言い直す。一輝は平和的交渉には絶望的に向いていない事が詳しく理解できました」
「……返す言葉もございません」
いや別に俺が、俺のみが完全に悪いわけじゃないと思うんだよ。
鋼凪にも非はあるし、そもそも鋼凪が仕掛けて来なければこっちは争う気なんて微塵も無かったんだから。
俺のみが怒られるのは不公平って言うか……まあ公平なんてものがあるなんて信じては無いけど……絶対に千秋の言い方だと俺が10割方悪いように感じるじゃんなんか。
気に食わないな……気に食わない…………。
「ウチの一輝が、本当に失礼しました」
まるで犬が誰かを噛んだりした時のように千秋が謝る。
いや、俺は犬ですか? 躾けが成ってない犬とでも言いたいんですか?
「いえ、ロクに話を聞かないで喧嘩を吹っかけた僕達も悪いわけですし」
虎杖も、まるで犬同士が吠えあった時のように苦笑いをしながら謝る。
ちょっと待て。鋼凪が犬だろうがネコだろうがダニだろうが構わないが、俺をそれと同種のように扱うな。
俺はあんなにバカじゃない。アイツと同種にされるのだけはご免だ。
「ちぃ……私たちがそちらに接触した理由は、偵察の一環なんです」
「審査って、さっきは言ってたんですけど?」
「まあ審査もあながち間違ってはないですけど。私たちはあるコード使用者を探してるんですよ」
千秋の言う通り。俺たち……正直言えば、俺があるコード使用者を探している。
「そいつを見つけたらどうするんですか?」
「半殺しだ」
虎杖の問いに、千秋の代わりに俺が答える。
「あいつのコードを奪って、精神を壊して、牢獄へブチ込む」
「なんだ。わたしとなんら変わらないじゃない、貴方も」
「変わるさ。殺すなんて生温い方法を取ってるお前とは」
口を挟んできた鋼凪をすぐに否定し、また睨み合いになる。
っていうか鋼凪を睨んでたら、千秋に蹴られた。痛い。
「ともかく私たちが捜しているコード使用者は危険なんです。世界レベルで」
「……それで僕の《非観理論》を使ってそのコード使用者を探そうと?」
「ちょっと違います。《非観理論》でも見つかるかどうか怪しいので、そんな曖昧なものには頼りません」
虎杖は少し驚いた顔をする。
まあ本来、《非観理論》は全ての事象を観測できる。
でもコードを使えば、その監視の目を掻い潜る事だって可能だ。
虎杖が驚いたのは、こいつがまだそれ程多くの……《否定定義》と《完全干渉》の二つのコードしか近くに無かったからだろう。
「私たちが接触した理由は、私たちが追っているコード使用者がそちらに接触してないかを確かめるためです」
《否定定義》と《非観理論》。
この二つが揃えば、無限に未来を予知できる。
出来れば、味方につけたいコンビである。まあ俺は鋼凪とは気が合わないと思うから味方に付けたくないんだけども。
ともかく俺が追ってるコード使用者は今何処で何を考え何をしてるかが分からない。
だからまずは悩みの種を摘み取っていく。
取り敢えず、こいつらはまだコード使用者に会っていない。
だが、後々接触される可能性がある。だから俺はわざわざこの高校に監視目的で転校してきたわけだ。
「一輝は少しはしゃぎ過ぎましたけど、私たちに敵意はありません。できればそちらと協力したいとも思っています」
「「絶対に嫌だ」」
嫌な気が合う俺と鋼凪は同時に言い、その直後、俺は千秋に踏みつけられた。
このヤロウ、絶対に後で覚えておけよ。夕飯はお前の嫌いなピーマンとナス炒めにしてやる。
「ま、まあこっちも多分……最低限、僕は敵意がありませんのでそちらに協力したいと思います」
踏みつけられている俺の姿を見て、口を押えてバカにするように鋼凪が笑っていたので俺は唸り牙を剥きながら威嚇していた。
……じゃなくて、苦笑いをしながら虎杖が返事をする。
取り敢えずこれで、千秋と虎杖の協力関係は結ばれたわけだ。
ただ一つ言える事があるとするならば。
その後、放課後の体育館裏で俺と鋼凪が喧嘩をしたことを知ったら、もう次は千秋が激ギレして折檻してくるかもしれないという事だ。