《禁思用語》
《禁思用語》の復活。これに枯峰が気付いたか?
気付いたとしたら、間違いなく《絶対規律》で殺しにかかってくるだろう。
まあ《禁思用語》だってバカじゃないんだから、《絶対規律》対策はすぐさまするだろう。
だから《禁思用語》が再度死ぬことはない。そうでなければ駒として使えない。
まあ枯峰が復活対策をしているのならば、また別問題となるが。
先に病院に行かせた鳴神から何の連絡もないところからして、対策を打ってはいないだろう。
「ココだ」
雑居ビルの2階についた俺たちはそのまま診療所内へ入っていく。
「待ってたぜ、濁川一輝」
早々に出迎えてきた春永に、鋼凪は少し睨み付けるような視線を送る。そういや学校でも同じだったな。
そんなに自分の物を壊されたことを引き摺らなくたっていいだろ。
「《禁思用語》の様態は?」
「良好だ。もう話せる状態だよ」
「なら、会わせてくれ。二人はここで待っててくれ」
「分かった」
二人を待合室に待機させ、春永と診療所の奥へと進む。
「……正直驚いた。さっきまで死後硬直が進んで蒼白くなってた顔が、一瞬にして元の状態になって起き上がるんだからな」
「それがコードっていうものだろ。精神状態とかは平気なのか?」
「あくまで会話が出来る状態ってだけだ。元の精神状態と同一なのかは不明。そもそも臨死体験をしたら性格やらが温厚になるっていう報告だってあるんだ。まあ、ありゃ温厚ってよりは気弱だがな」
「気弱?」
「実際に話せば分かる」
診察室の扉を開け、春永に続くように中に入る。
そこに居たのは二人の少女。一人は鳴神で、暇そうに診察室内を物色している。
もう一人はベットに座ってる一度見た事がある少女。まあ見たことがあると言っても死体としてだが。
「《禁思用語》、話がある」
俺の声に反応し、こちらに視線を向けてくる。
「な、何の用ですか…………?」
向けてきた視線は泳ぎ、声もどこか震えている。確かにこれじゃ気弱だな。
多分、演技なんだろうけど。
「《絶対規律》がお前の命を狙ってる。まずその対策はしたか?」
「は、はい……多分…………」
「……まあ、いい。それで《禁思用語》。一つ頼まれてくれないか?」
「ら、乱暴はよしてください…………すいません……」
「春永、お前これどういう事だ?」
「考えられる原因は二つ。元からこうだったか、死んだことで性格が丸くなった」
「どうにかしろよ」
「俺は精神科医でもなければ、コードを使って人の精神をどうのこうのするつもりもねぇーよ」
「チッ…………」
何か、こう……小学生やら幼稚園児やらを相手にしているようで嫌だ。
テロを誘拐を同時に起こす奇襲を仕掛けた人間だから、まあ何か条件付きでの協力を求められるかと思えばこれだよ。
千秋に見せれば、喜んで玩具にしそうなくらい気弱だ。
《禁思用語》と同じくらいの視線の位置まで体を屈め、目を合わせる。
本来こういう子供相手との会話には千秋の方が向いてるんだが……いないんだから自分でやるしかない。
「……《禁思用語》、君の名前は?」
「う、宇津木陽菜です…………すいません……」
「謝らなくていいよ陽菜ちゃん。これからお兄さんの聞く事に『はい』か『いいえ』で答えてくれるかな?」
「……は、はい…………」
「うん。よしそれじゃ、まずコードは使えるのかな?」
「はい……つ、使えます…………」
「そうか、凄いねそれは。それじゃ次。陽菜ちゃんのコードはどの位まで言葉を指定できるのかな?」
「……に、二十個です…………すいません……」
「謝らなくていいよ。凄い事だよ、二十個も言葉を封じられるなんて。俺には全然出来ない事だ」
「あ、ありがとうございます…………」
「それじゃ次の質問。ちょっとお兄さんに協力してもらえる?」
「協力……ですか…………?」
「そう。二十個封じられる言葉のうちの、二個分を貸してほしいんだ」
「二個…………だけですか……?」
「うん。二個だけ貸してくれればいいんだ」
「わ、分かりました…………」
「それと陽菜ちゃん。演技下手」
「…………えっ?」
「やっぱテロと誘拐を同時に引き起こしただけはあるよね。普通に気弱なまま貫き通したかったら、二個だけなんて確認を取らずにすぐに分かりましたと言うべきだった。まあ、元から気弱でその自信の無さを消すために今まで《禁思用語》で自分の思考を誘導してたんじゃないかな?」
「い、いつから……気付いてたんですか…………?」
「そもそも君は臨死体験をしたわけじゃなくて、死亡したんだよ? 普通発狂やらして取り乱して会話なんて不可能な状態だ」
それなのに宇津木陽菜という人間は、生き返ってほんの1時間足らずで会話ができるほど落ち着いた状態になっている。
それは《完全干渉》で精神を安定させたとばかり思っていたが、どうやらあの口調だと春永はコードを使っていない。
となると自身のコードで小細工したとしか考えるのが普通だろう。《禁思用語》による思考停止がすぐさま思いつき、それを活用したと考えついたのは偶然だが。
気弱な性格も装うためか元からかの二つだとは思ったが、カマを掛けた時の反応で元からだと判断できた。
「まあここからはバカにした口調は止めよう。宇津木陽菜、俺の策が気になるのか?」
「そ、それはまあ……たった二個だけで《絶対規律》に勝とうなんて…………」
「二十個もあるんだから、それを存分に使って戦う? まあそういう手もあるだろうけど、自分への害も大きいだろ。《禁思用語》ってのは」
「だから二個だけ…………?」
「まあ一個でも良いんだけどな。念には念を入れて、二個だ」
「そ、そんな少しで本当に《絶対規律》に勝てると…………?」
「当然だ。それを成すのが、俺のコードだからな」
会話文が面倒臭い。というか長い。本当にこの主人公はお喋り大好き人間だな。
ペテン師かってんだ。