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クローバー:コード  作者: 坂津狂鬼
セカンドステージ
52/68

形勢逆転

「……チッ」

取り敢えず、救急車。

そう思って携帯を取り出した僕に対し、男は拳銃を取り出してきた。

大丈夫。もう観測した。今から10分以内にあの銃口から弾丸が飛び出すことはない。

だから僕は男と距離すら取ればいい。そうして捕まらなければ僕はみんなを救えるかもしれない。

引き金を引く金属音のみが小さく鳴り、男は少しばかり銃に視線を移して捨てた。

「救急です! あの学校で皆が血を流して倒れてて―――」

僕は僕で、電話のコールが繋がると共に早口で事態を告げるとともに男から目線を離さないでしっかりと距離を取っていた。

人質の多さが男にとってアダとなった。

量が多過ぎて……障害物が多過ぎてすぐさまに僕に近付けない。

そして僕は体育館の出入り口側にいる。男はまだ体育館の中ほどまでしか辿り着いていない。

走って距離を詰めるにしたって、足の踏み場がないくらいに人が横になっている。

人を踏めば足場が安定しなくなり、結局スピードは出ない。

大丈夫。これならみんな助けられる。

…………こう思っていた時点で気付くべきだった。

そもそも例え千秋先輩が《禁思用語》を敗退させたところでそのコードが使用不可能になるわけではない。

コードによる思考封じ……思考誘導が行なわれたとしてもゲームのルール上ではなんの問題も無い。

だってゲームのルール上では敗者が物を壊す事、参加者を殺すことを禁止にしているだけなんだから。

それ以外の妨害行為をしたところでルール違反にはならない。

いや、そもそも大前提が間違っていた。

この男は、僕が職員室に置いてきた人質を助けたという確証を得ていない。

僕の言動や行動が演技だった場合を考えれば、そもそも取引自体が成立しない。

だって可能性の一つとして僕は、自分の命と職員室にいる人質の命を天秤にかけて自分の命を優先したかもしれないんだ。

男からしてみれば、僕が体育館に来た理由だってコード使用者である自分を討ち取るためだけに来たという風に考える事もできる。

確証はないんだ。男にとって、僕の天秤が人質に傾いたという確証が。

なら簡単なことで、この場で確定させてしまえばいい。

「最後の演出によくぞ引っ掛かってくれた」

体育館の中央で男は止まり、そう僕に告げた。

携帯から聞こえてくる声を無視して、思わず僕は男の言葉に耳を貸す。

「ネタ晴らしをするとな、この虫けらのように地べたに這いつくばっているゴミ共はまだ助かるんだ」

僕だってそう思った。だから救急車を呼ぼうと電話を掛けた。

「救急車を今すぐ呼べば、もれなく全員助かる。そう言う風に怪我の具合をわざわざ調節してやった。何故かといえば、お前にわざわざ助けるチャンスをやるためだ」

その言葉を聞いて、途端に僕は今までの事に違和感を感じる。

「そもそも出来過ぎちゃいないか? 体育館にきたらオレしかいなくて、人質をたまたま踏んで誤って悲鳴を上げさせて、拳銃の弾は一発もなく、その上こんなにお前との距離が遠い。偶然にも程があるだろ」

つまり全てはわざと……仕組まれていたことなんだ。

違和感に気付くタイミングならいくらでもあった。でもそれに気付けなかった。

原因はコード。思考を封じるとあるコード。

だから違和感に気付けない。違和感に対して考えることが封じられているから。

「まあ、それでも賭けではあった。もしかしたらお前が羊の皮を被った狼かもしれなかったからな。でもそれは取り越し苦労だったみたいだ」

嵌められた。奴らの仕掛けた最後の罠にまんまと嵌ってしまった。

こうなれば未来はコードを使わずとも観測出来てくる。

今すぐ救急車を呼ぶのを止めたら、僕は敗退。人質は死ぬ。

このまま何もしなければ、僕は敗退。人質は全員死ぬ。

今この場で《結論反転》を敗退させれば、奴はゲームのルール上、コードで僕が命と同等以上に大切に思った人質たちを殺す事はできなくなる。

でも距離が有り過ぎる。部分観測で大切な物が何でどこにあるかが分かっても、素手では時間が掛かり過ぎる距離だ。アサルトライフルの弾も陽動のさいに大方使ってしまって残り数もほんのわずかしかない。

そもそも素人の腕で標的を射撃できるかどうかが怪しい。ほとんど無理だろう。

形勢逆転。いや、そもそも僕は最初から有利じゃなかったからこの言葉は合わないか。

ともかく、僕の浅はかな考えでまた誰かを救えずに立ち尽くすことしかできないってわけか……。

…………くそっ………………。

「敗退おめでとう。心の底から祝うよ」

皮肉の言葉かどうかは知らないが、男は僕にそう言うと指を弾きこう言った。

「 反転(リバース) 」

「 干渉(アクセス) 」

世界の変える力には音はなく、ただ人の知らぬうちに人為的に変えてしまう。

「うわぁ患者が一杯で儲かりそうだ」

「なんで棒読みなんだよ。お前医者だろ? もっと喜べよ。稼ぎ時だぞ」

「不謹慎、カスはカスらしく黙っとけ」

どこからか影も形もなく突然、三人が姿を現した。

今年最後の更新。よいお年を

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