魔女の館
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
千秋からの返信も、虎杖からの呼び出しも無い。
あっちの方は、今一体どうなっているかは分からない。敵だって、《禁思用語》とテロリストだけとは限らない。
《干渉不可》に鋼凪が誘拐され、俺がその救出に向かった後、学校で《禁思用語》がテロを起こした。
この関係から言って、《干渉不可》と《禁思用語》が手を組んだと考えて間違いない。
まあ、俺に一度接触した後に、協力関係を結んだんだろう。自身にも相手にも都合がいい関係だから。
ということは、《禁思用語》の他にもコード使用者と協力している可能性がある。《結論反転》《絶対規律》あたりと。
となると学校の方にはもう一人、コード使用者がいる可能性もあるわけだが……。
今はそちらばかりを心配している場合では無い。
「ここか……」
誘拐犯からの指示に従い着いた場所は、住宅地の一角にあるボロっちいアパートなんだが。
まずそのただでさえボロ臭いアパート全体に蔦が巻き付いていて、アパートの周りも雑草やらよく分からない花やらが生い茂りまくって、挙句の果てに木々まで在りやがって、その枝やら幹やらがアパート壁に沿って成長してやがった。周りと比べて、その異様さは何かよく分からないオカルト的な禍々しいオーラすら感じさせ、言うなれば森の中にある魔女の住む小屋のようはアパートだ。
なんでこんな不気味な場所に呼ぶかね。ここなら人殺しだろうが何だろうがしても問題なさそうだからか?
それともここが単に一番近くにあった廃墟だからか? っていうか廃墟なのか? 人住んでるのか?
「……なんか、ここに用かね?」
俺がボロアパートの敷地に突入するのを躊躇っていると、後ろからヨボヨボの婆さんが話し掛けてきた。
……これまた、魔女っぽい人が話し掛けてきたなぁ…………。
「いえ、ちょっと。友達に呼ばれまして」
なんて本当は誘拐犯からココに呼び出されたなんて素直に言えるわけもなく、適当な嘘を吐いて俺はその場をやり過ごそうとする。
「友達……ってことは茜ちゃんのボーイフレンドかね」
「え、えぇ」
茜……《干渉不可》の名前か。また面倒な事になってきたぞ。こんな婆さんと話してる場合じゃないのに。
「いやぁ、まさか茜ちゃんにボーイフレンドがいるとはねぇ」
「あはは……あのちょっと聞きたいんですけど、茜の奴、本当にここに住んでるんですか?」
「そうだよ。まあこんな外見だからねぇ。近所からは魔女の館って呼ばれて、入居希望者が少なくて大家として困ってるよぉ」
どことなく残念そうに婆さんが語る。
っていうか正気かよ。こんな魔女の小屋によく住めるな、《干渉不可》のやつ。
というより、本当に魔女の館なんて呼ばれてるのかよ…………。
「にしても、茜ちゃんの顔を最近見ないんだがねぇ……アンタ何か知らないかい?」
「風邪引いたらしいですよ」
次から次へと俺は嘘を吐く。まあこの婆さんはある程度《干渉不可》の情報を知ってそうだからな。
弱みを見つけ出すためにはどうにか会話しなくちゃいけないだろ。
「本当かい! ……そりゃ大変だ。魚でも焼いてやろうかねぇ」
「魚? 茜の奴、焼き魚とかが好きなんですか?」
「そぉだよ。前にあたしが七輪で魚を焼いてるとこを覗いて来てね、食べるかいって聞いたら食べるって言ってねぇ、食べたら美味しい美味しいって言って、それからよくあたしの所に魚を食べに来るようになったんだよ」
「へぇ……そうなんですか」
つまりこの婆さんと《干渉不可》には繋がりがあるってわけか。それも顔見知りとかじゃなくて、ご飯を食うに行くような仲。
まあ、あの見ず知らずの子供を助けるようなやつだ。知り合いなら普通に助けようと動くだろう。
…………案外簡単かもな。鋼凪を救い出す、《干渉不可》を負かす方法は。
「あの……すいませんが、その今すぐ魚とかって焼いてもらえる事って出来ますか?」
「まあ、出来るけど……どうしたんだい?」
「いや、茜の奴が喜ぶんならそうしてくれた方がいいなって。それに案外、今すぐ食べれる事を知ったら風邪も治るかもしれなませんし」
「そうかもしれないねぇ」
「あ、あと七輪で焼いてくれませんか?」
「ん? どうしてだい?」
「いや、俺がちょっと気になるんですよ。それに茜の奴も焼ける匂いとか嗅いだら元気が出るかもしれませんし」
「そうだねぇ……それじゃあ、久し振りに七輪で焼くかねぇ」
「お願いします。それじゃあ俺は茜の奴に会ってきますね。また後で」
そう言って、俺はボロアパートへ逃げ込むように……というのはちょっと行き過ぎた表現だが、できるだけ自然な形でアパートに入る様に婆さんと別れた。
……まあ、これである程度の策が出来た。
あとは《干渉不可》次第。まあ奴は素直に鋼凪を逃がしはするだろう。わざわざ命を奪う様な非道な行為はしない。
なんせ目的である《無影無綜》が来たんだからな。だから鋼凪は自然と逃がされる。
問題はその後。俺と少し会話……子供を人質にとったことの糾弾やらコードについてやらの疑問やらをぶつけた後に殺す、または壊すか。それとも会話なんて抜きにして俺を壊しに来るか。
出来れば、前者がいい。出来るだけ時間を稼いでわざわざ蒔いた不幸の種が芽を出すまで持ち堪えたい。
まあでもともかく、これからの結果のうんぬんを決めるのは他でもない俺だ。
「やっぱりお前だったか、《干渉不可》」
ボロアパート2階の、指定された部屋のドアを開け、待ち構えている赤い瞳の少女に向けて俺はそう告げる。
文章グダグダ。
仕方が無いじゃん、だって俺だもの。本当にすいません!