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クローバー:コード  作者: 坂津狂鬼
セカンドステージ
33/68

《無影無綜》

「おやおや、そこのお嬢さん。独りで何かお探しかい?」

再びプールへと戻ってきた俺は、キョロキョロと何かを探すように辺りを見渡すスク水少女へ話し掛ける。

「…………あ、れ?」

スク水少女は俺に視線を移した後、ようやく辺りで起こっている異常に気付く。

異常といっても、それ程、大きな事じゃない。

スク水少女以外の人間が、このウォーターパーク内に俺以外、誰もいないというだけだ。

そういった状況を作るのは簡単だ。

鋼凪のコード《否定定義》はコードであれ常識であれ何でも無効化できる。

まあ、言い方を変えれば、何でも否定できる。

だからこのウォーターパーク内に濁川一輝以外の人間が居ることを否定してもらった。

まあ無効化とは少し違う使い方で、第一成功するとは思ってなかったのだが……結果は反するものとなった。

《干渉不可》にはコードは通じない。

だから必然的に、このパーク内に居る人間は俺とスク水少女だけとなった。

「……別にいいや。目的は達成しやすくなったし」

「…………つまりそれって、目的は俺だったってわけか?」

少女の目的も言葉の意味も、一切分からない。

だから質問するしかない。取り敢えず、このクソガキが何で俺たちに接触してきたかが分からなきゃ。

上手く交渉すれば、こっちの仲間になるかもしれない。

「アンタのコードは《無影無綜》よね?」

「だったら?」

「アンタは濁川一輝じゃない」

「……はぁ?」

…………いきなり何を言い出すんだ、このガキは?

「こっちは過去に《無影無綜》に会った事があるの。でもソイツは学生でも無ければ濁川一輝という名前でもアンタみたいな顔でも無かった」

「……おいガキ。最近じゃコードを引き継ぐって便利な事ができること知ってるか?」

「知ってる、《完全干渉》もそう言ってたからね。でもそれは実現不可能な事なの」

「何言ってんだ? コードの引き継ぎは可能で、引き継いだ者はこの市内に二人はいる」

「確かに、コードの引き継ぎは可能かもしれない。というかそんな可能か可能じゃないかはどうでもいい。根本的に不可能なの《無影無綜》に限っては」

「あぁ? 何が不可能っていうんだよ?」

……ヤバい。このままじゃ、バレる。

ただでさえ、先日の千秋のせいで支障が出てるってのに……ここでバレたら一大事だ。

「さっき言ったでしょ? 過去に《無影無綜》に会った事があるって。だから今、ソイツがどういう状況に居るかも知ってるの。今何処で何をしてるのか、全て知ってる」

「…………」

「ソイツは今、県外の刑務所で服役しているはずなの。これどういう意味か分かる? 本来、県外に居るはずの《無影無綜》が今この場、あたしの目の前に居る。これは明らかに矛盾してる」

「……チッ」

「ココから導き出されることは一つ。現在服役中の《無影無綜》は脱走して、身分を偽り、このゲームに参加している」

「…………おいおい待て、ちょっと待て。身分を偽りって……名前や年齢は誤魔化せても顔までは偽ることができないだろ?」

「協力者が居るんでしょ? そういう偽る事に関して卓越しているコードを使用できる協力者が」

「……ふふ……ふははははははははッ!!」

突然笑い出した俺に、スク水少女は警戒したように身を構える。

…………バァァカッ!!

バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バーカ!

「よりにもよって気付くとはな……最低だよ、このクソガキ」

最低脳! このクソ馬鹿ガキが! んなわけねぇーだろ、バーカ!

「だがな、俺だって……取り戻したいものがあるんだよ」

「アンタの失ったものなんて、自業自得じゃない! カッコ付けて、自分が何をしたか忘れたの!」

知るか! 知ってるわけねぇーだろ! なんて言ったって、俺の《無影無綜》は――――、

偽物なんだから。

「アンタを勝たせはしない。アンタの大切にしている物をあたしが壊す」

「やってみろよクソガキ。お前みたいな甘チャンに俺が負けるかよ」

俺の挑発の言葉が終わると共に、スク水少女は突撃して来た。

触ることすら叶わない、触れようとしたら押し返される。

それがスク水少女のコード。おおよそ世界最強の防御壁……いや、防護膜とかの方が正しいな。

それに対してこちらは姿を消し隠すだけのコード。盗みや覗きや逃走でしかその真価を発揮できない。

俺一人ではこの少女に勝つのは到底不可能。

そもそも鋼凪の無効化も、虎杖の観測も、千秋の覗き見も、こちらの陣営のコード全てが通じない。

《完全干渉》すら、この少女を殺す事は可能でも、抑止することは無理だろう。

俺の周りにあるコードではこの少女を止める事はできない。

まあ、今の俺はこの少女から逃げればいいだけ。そんなの楽勝。こちらに圧倒的な分がある。

でもいずれはこの少女を倒さなければいけない。

いや倒し方ならある。周りの環境を利用すれば、この少女を殺す事も、場合によっては止めることも可能だ。

問題はその、場合、が成立するかだ。

だから、まあ千秋には建前で言ってしまったが実験をしなければいけない。

非道で下衆な悪魔的手段を用いて、この少女がどういう人間なのかを確かめなければいけない。

周りの空間に溶けるように姿を消しながら、俺は少しばかり笑みを浮かべる。

相も変わらず、絶好調になると外道になる主人公。

いっその事、永遠に不調だったらいいのに。


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