逃走準備
「ごめんな、お嬢ちゃん。このクソバカ女には俺が先に用があるんだ。だから後にしてくれ」
だせぇ、クソだせぇ、凄くだせぇ。
千秋にさっき《干渉不可》の話を聞いたから、なんとなく直感的にあの赤い瞳の貧乳そうなスク水少女がそうかもしれないと思ったんだよ。
もしもそうなら手を掴んで直接止めることは不可能。ならば何か物を前に出せば妨害できるって。
いや、予想通りに《干渉不可》の手は止まったよ。多分、違う意味で!
何で俺の手元に焼きそばが入ったプラの箱が有ったんだよ! なんで鋼凪はそんなもんを買って来いって言ったんだよ!
そもそもなんで普通に売ってる店があるんだよ! 焼きそば売るなよバーカ!
バーカ、バーカ、バーーカ!!
……なんてイジケてる場合じゃない。
現在プールサイドにて。多分、ほぼ、襲撃された。《干渉不可》に。
状況的に何が狙いで、どうしてグッタリしてる虎杖を狙わなかったのかは分からないが……。
取り敢えず、ゲームに勝つことが目的では無さそうだ。
「…………お前、誰?」
俺の顔を見ながらスク水少女はそう言った。まるで俺に喧嘩を売ってるかのように。
……いやぁ、俺はつくづく思う事が一つあるんだよ。
歳上のことをカスやらお前やら……最近の子供は敬語ってものを知らないのか?
いや、この少女が俺より歳上だったら分かるけどさ……絶対にガキんちょじゃん!
スク水ってセンスあたりがもうガキじゃん! ビキニとかにすればいいじゃん。胸無さそうだけど。
ともかく絶対にこのガキが俺より歳上ってことは無いね!
だからまずは敬語を使え、敬語を!
「ガキぃ、ともかく見逃してやれって言ってんだから大人の言う事はちゃんと聞こうねガキ」
「……ガキ、ガキうるさいな。ブッ飛ばしますよ?」
…………どぉやら、俺は歳下との相性が極上を通り越して、超絶的に悪いらしい。
今すぐにこのガキを地獄の淵へと突き落して埋めてやりたい。
「何だ? 最近のガキは力の差ってもんを知らないと口を慎まないのかガキだから? そこら辺どうなんだガキ?」
「……さっきからガキばっかり連呼して、バカの一つ覚えですか? そうなんですか?」
「ぶっ殺されたい気持ちはよぉぉく分かったからよガキ。この邪魔者たちを除けていいか? 邪魔されると不愉快なんだ」
「分かりました良いですよ…………とでも言うと思いましたかバカヤロウ。バカヤロウみたいな三下さんには用は無いんですよ。だからさっさと退きやがれ」
「上等だ。そっちがそう言うなら、消すまでだ」
そう言った後、まずはムカつく焼きそばが入ったプラスチックの箱を離して千秋に触れ、自分の姿と同時に消す。
その後、鋼凪と虎杖の近くに姿を現して、二人にも触れる。
そしてまた同時に全員の姿を消し、これで《干渉不可》からの逃走準備は完了した。
「お前達はそのまま逃げろ。あのガキんちょは俺が引付ける」
その後、しばらく離れた忌々しき焼きそばの売店の物陰に隠れながら三人に俺はそう言った。
《干渉不可》はまあ当然最強の防護服のようなコードだが、逃げるのは容易い。
一度姿を隠して適当に走ってしまえば、すぐに簡単に振り切れる。
だからこうしてまた全員姿を現して作戦会議ができるのだ。
「何言ってるの一輝! このまま逃げようよ! あの子を敗退させる気でも無いんでしょ?」
「あぁ、ゲームを進行させる気は無いが……性格的にあのガキが気に入ら―――」
情け容赦なく千秋に頭を叩かれた。痛い。
叩く事はないだろ、叩く事は。
「もう逃げれる状況なんだから、わざわざ相手しなくたっていいじゃん」
「いずれ相手にする。その前に相手のコードの情報を実戦で集めようとしてるだけだ」
「《非観理論》を使えばいいよ」
「《非観理論》はあくまで未来の出来事を観測するだけで理論値しかでない。実戦じゃ、理論値だけじゃカバーできない事が沢山あるんだよ」
「そんなの建前でしょ?」
「それを言ったら、理屈の全てがそうなっちまう」
まあでも、千秋の言う通り、俺のコードの情報とかそこら辺は全て建前なんだけどね。
俺はあのガキが性格的に気に入らない。鋼凪のほうがまだマシかもしれない。
初対面の時に俺を指す代名詞として貴方っていう風に言ったもんな。
それに比べて、誰? だってよ。
まったく本当、最近の教育現場が悪いのか親が悪いのか、はたまた育った環境が悪かったのか。
どれだかは知らないが、基本的な人に対する礼儀ってもんを教えてやらないと気が済まない。
その情熱が、絶不調の俺を覚醒させたのかどうかは知らないが。
千秋の反論に屈せず、折れない普段の俺の精神状態に戻っていた。
どうやらなんか、調子が戻ってきたみたいだ。これならいける。
「一輝、ヘマとかは絶対にしないでね」
最後に千秋は反論する事を諦めたのか、俺に向かってそう言ってきた。
ホント、
「誰に向かって言ってるんだ、それ」
卑怯で卑屈な主人公。敵前逃亡とは何事か!
強制的にバトらせてやろうか?