プールサイド
「凄いね一輝! ちぃが一時間教えただけで、水に顔を浸けられるようになったね!」
バカにされている…………今物凄く千秋にバカにされている……ッ!!
「前なんて、プールに入る事すら躊躇ってたのに……あの時から考えると、凄い進歩だよ!」
バカにされている……千秋にこの上なくバカにされている…………ッ!!
「にしても、水に浸かるのが怖くてちぃに抱き着いて震えてた時の一輝は可愛かったなぁ~」
「何年前の話じゃ!」
もう無理だ! もう耐えられない! 我慢する必要なんてない!!
もうこれ以上、千秋にバカにされてしまったら俺の脳神経回路が爆発してしまう!
少し昔の俺の不様な醜態を懐かしむように語る千秋に、俺はとうとう怒号を浴びせた。
「でもだって本当に可愛かったよ? 母性本能をくすぐられる様な……小っちゃい子供みたいにプルプル涙目になって震えちゃって―――」
「それ以上は言うなぁぁあああああああああっ!!」
これ以上この話を聞いてしまったら、俺の精神と記憶とプライドが腐りに腐りきってしまう様な気がしてたまらなかった為、大声を出して強制終了させた。
大体そもそも俺は初めから水が怖かったわけじゃなくて、義父に『おっと、たまたま手が滑った』とか言われて大豪雨の時に川に流されたトラウマがあるからであって、幼き頃の醜態だってそれが原因だから断じて怖がって千秋に抱き着いたわけじゃなくて……その、本能的に何かに掴まらないと流されるとかそういうのが…………。
「ともかく、水が克服できてよかったね」
「あぁ、そうだな」
結局、結論としては千秋の言う通りである。
まあ、でも水に浸かれるとはいえ、あまり長時間は浸かりたくない。
俺はお風呂派じゃなくてシャワー派なのだ。全く関係ないけども。
「お腹減ったぁー…………」
俺と千秋がプールから上がると同じぐらいで、鋼凪たちが戻ってきた。
虎杖は割とまだピンピンしてる……わけはなく、まるで死闘の末に敗北して疲労困憊のような雰囲気を纏っている。足取りも重そうだ。
「23勝27敗でした…………」
それが虎杖の最後の言葉だった。
……いやまあそれはちょっと言い方が変なんだけど、それ以降、疲れ果てた虎杖は一言も喋らなくなった。
っていうかお前ら50回も泳いだのか。つくづくバカな奴らだ。
「おいカス、何か食べ物は無いの?」
勝者である鋼凪も疲れ果てており、空腹のようだ。
「食い物なんて探せばどこかで売ってるよ」
「歩く気力も体力もないから、買ってきて」
「は? 何言ってんのお――――」
「一輝、ちぃは焼きそばとかが良いかも」
「ついでに虎杖君のも買ってきて。カスの自腹で」
…………嘗めきってやがる、この女共。
しかしまあ、多数決的に俺が買ってくることは確実なので、仕方なく売店を探す。
まあ、でも見つけたとしてもテイクアウトとかじゃなくてその場で食う事になると思うから、買ってくることはほぼ不可能だとは思うんだけど。
探すだけ探してみるか。
ポリポリと頭を掻きながら、俺は適当にほっつき歩く。
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「あのぉ……すいません」
赤い瞳びのスクール水着を着た、中学生くらいの女の子がちぃに話しかけてきた。
一体、ちぃたちに何の用なんだろう? 弟とかが迷子になったとか、かな?
だとしたら探すのを手伝ってあげなきゃ。一輝なら関係無いやら面倒臭いやら言って探さないだろうけど。
……それより、なんか頬っぺたプニプニしそう。触りたいなぁー。
「濁川一輝っていう人を―――――って何するんですか!?」
頬っぺたに触ろうとしたちぃを避けながら、女の子が怒り出す。
さすがに、問答無用で頬っぺたを触ろうとするのは礼儀がなさ過ぎたかな?
「頬っぺたを触らせてください!」
「土下座まですることですか!?」
ん? 一輝に、人に頼み事をする時はまず土下座、って教えてもらったのに………。
何か間違ったこと、したのかな?
…………あっ! 敬語が足りなかったんだ!
「貴女のそのプニプニしそうな頬っぺたをプニプニさせてください!」
「それって日本語ですか!?」
んん? 何で驚かれてるんだろう?
あと足りないものが分らないし……一輝みたいに教えてくれそうも無いし…………。
……そういう時は、強硬手段にでるしかないなぁ。
一輝もよく、話し合いのできない相手には武力と暴力と権力を持ってして相手を屈せればいい、とか言って事態をややこしくするけど…………。
こういう時は、仕方が無いよね!
「あの……いい加減、頭をあげてください。ほっぺは触らせませんけど」
「――とりゃぁ!」
「うわっ! いきなり何すんですか!? ってちょっと! え!? 何でそんな飢えた獣のような目をしてるんですか!? 何体をフラフラ揺らしながらこっちに近付いてくるんですか!?」
「しゃぁーッ!!」
「ちょっと、ホント、止め―――ッ!!」
一度目の襲撃を、スク水女の子は飛退きながらかわす。
…………こいつ、できる!
そう思いながらもちぃは二度目の襲撃を行うのです!
サブタイを考えるのが、面倒臭い