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クローバー:コード  作者: 坂津狂鬼
セカンドステージ
29/68

快気祝い

「鋼凪梓美、復活しました!」

「あぁ、それはよかったな鋼凪。ところで千秋? この状況を説明してくれ」

鋼凪の復活宣言を蹴り飛ばすように流し、千秋に問いかける。

今日は11月最後の日曜日。

退院した鋼凪の快気祝いをすると言われて、千秋に引っ張られるまま連れて来られた場所は……県内にあるウォーターパーク。

そう言えば、くじ引きで3等が当たったとかなんとかメールしてきた記憶があるが。

まさかこのウォーターパークの無料入場券とかそういうふざけた物を当てたわけじゃないだろうな千秋の野郎。

いやでも、そんな在り来たりな回答じゃないことを祈りつつ俺は問いかけた。

「これからプールに行くんだよ」

しかしながら、俺の儚い幻想は千秋の一言によってことごとく打ち砕かれたのだった。

…………嫌な予感程、よく当たるものはない。

11月の最終日曜日……まあ言い換えれば、月末といってもいいだろう。

そんなもう冬場といっても過言ではない季節に何故、プールなのだろうか?

夏なら分かる。春でも分かる。秋だとどうにか分かる。冬は絶対に理解できない。

冬≠プールである。これが世界の常識であり真理といってもいいと思う。

「皆、ちゃんと水着は持ってきた?」

「はい!」

「えぇ、まあ一応」

鋼凪、虎杖が千秋にそう答えるのだが、幾分俺には理解できない。

そもそも、俺は千秋に一言たりとも水着などと言われていない。

「だってプールだって言ったら、一輝泳げないから嫌がるじゃん」

「え、カスって泳げないんですか? ダッサーイ」

千秋の一言にたまらず鋼凪が食いついてくる。うん、こりゃ完全復活してるな。

後で覚えておけよ、このバカ女二人。

「まあ一応水着も貸出してるみたいだから、大丈夫だよ一輝」

「千秋、お前は本当にあとでシバくからな」

「一輝、そんな事言ったら、水の中に沈めるよ」

互いに笑顔で微笑ましい会話をする俺と千秋。うんうん、仲が良いってこういう事を言うんだな。

「珍しい……濁川先輩の目が笑ってないなんて」

そんなことを鋼凪が言っていたようないなかったような。まあ、どうでもいいか。

「さ、皆早く中入っちゃお」

千秋の案内で俺たち四人はホテルに入っていった。



「おぉ! 凄ぉい!」

そりゃ、ウォーターパークだもの。

ウォータースライダーや流れるプールだってあるに決まってる。

しかし、さすがに冬場なので屋外施設は使えないという表示があった。

でもまあ、屋内施設だけでも充実している。

…………全て、泳げない俺にとってはどうでもよいことだがな。

「でも、正直言って……こういう場所に来たからって盛り上がりませんよね」

珍しく虎杖がノリの悪い事を言う。いつもなら思っても口に出さない性質なのに。

……女性の水着姿を見て、動揺でもしてるのか? ウブだなぁ。

「あれ? 虎杖君も泳げないの? 泳ぎ方教えてあげよっか?」

「ごめん。鋼凪に泳ぎで負ける自信が無いから、別にいいよ」

鋼凪の親切心を挑発で返す虎杖。本当に珍しい。やはり動揺しているのか。

「……虎杖君、ごめん良く聞こえなかった」

当然、癪に障った鋼凪は虎杖に謝罪の場を設けるが。

「余計なお節介だよ、って言ったんだ。今度はよく聞こえた?」

何故か今日は毒舌の虎杖は、さらなる挑発をした。

……実はもしかして独りで泳ぐのとかつまらないから、わざと鋼凪を挑発して対決しようとしてるのか?

そこまで、泳ぐのはつまらん事なのか? 泳げないから分からないけど。

「うん、良く聞こえた。ちょっとあっちに25メートルの競泳用のプールがあるんだけど、行かない?」

鋼凪、めっさ笑顔。

目が笑ってないとか、そういう失態をせずに、全力の笑顔で虎杖を地獄へ誘う。

「あぁ、いいよ」

「虎杖」

虎杖が鋼凪の誘いを受け、移動しようとする前、俺は反射的に声を掛けてしまった。

「……死ぬなよ」

「えぇ」

その俺の一言に、虎杖は短くハッキリと答え……戦場へと行ってしまった。

「…………一輝、誰に向かって敬礼してるの?」

戦場へ行ってしまった虎杖にしばらく敬礼を送っていると、遅れて千秋がやってきた。

………チッ、パーカーみたいなのを羽織ってやがる。

「っていうか……あれ? 梓美ちゃんたちは?」

「戦場へ……行ったよ…………」

「???」

俺の回答に合点がいかないのか、千秋は首を傾げている。

まあ、千秋には分からないだろうな。虎杖の勇気は。

「まあ、いいや。梓美ちゃんたちが居ないなら先に話しておきたい事があるし」

「何だ?」

「《完全干渉》の件なんだけど」

「居場所が分かったのか?」

「うん。それと《干渉不可》と接触してた」

「………いつ?」

「ちぃが3等当てた日」

あの日か……鋼凪の退院祝いの知らせを聞いた後、携帯の電源を切ってたからな。

電話だったら、通じない。

「メールすれば良かっただろ」

「だって緊急事態だと思って…………」

「そうか…………なら、何でその日のうちに俺に伝えなかった?」

「…………買い物してたら忘れてました……」

「この事を思い出したのは?」

「ついさっき……着替えてる時に」

「はいはい、よく伝えられたねー。偉いねー」

「ごめんなさい!」

別に謝らなくていい。伝えてくれただけまだマシだ。

《完全干渉》と《干渉不可》が接触か…………また、仕掛ける前に仕掛けられそうな展開だな。

「一輝……お詫びに泳ぎ方、教えてあげようか?」

「千秋。お前正直、詫びる気ないだろ?」

注意:水着は取れません。

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