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クローバー:コード  作者: 坂津狂鬼
セカンドステージ
26/68

しおり

「なぁなぁ、千秋さんや」

「どうしたの一輝?」

適当に千秋を探しに行ったのは良いのだが、数十秒で見つかるから嫌なんだよな。

もうちょっと手間を掛けさせろ。あの空間に俺を戻させるな。

っていうかいっその事、相談してみるか千秋に。

「俺、なんかあの空間、気まずいんですけど」

「それは一輝の心に罪悪感というものが生きてる証拠だね。良かった、良かった」

「良くは無い。何が良いんだよ」

「直したげて。ヘヤピン」

「………それが目的かよ」

俺はようやく千秋が見舞いに行かせた理由が分かった。

ようは壊れてしまったヘヤピンを即刻直せとのご依頼だったわけだ。

しかも依頼料は俺の罪悪感。最悪だね。

「無理だ」

まあでも、それが出来たら俺だってすぐにやってるわけだよ。

気持ちを落ち着かせるために、即刻に。

「嘘吐き。一輝なら出来るでしょ?」

「お気に入りを変えたくはない。それに色々と下準備が必要だ。今すぐ直すのは無理」

「ちぃが居れば、下準備なんて必要ないでしょ?」

「まあ、そうでもないわけだ」

ともかく今すぐは出来ない。それが結論。

「じゃあ、一輝が何か作ったげて」

「……は?」

「梓美ちゃんに、一輝が、何かプレゼントしてあげて」

「俺のプレゼントなんてすぐに捨てるぞ、鋼凪は」

「じゃあ、すぐに捨てそうもないプレゼントをあげて」

わぉ! この銀髪、なんていう無茶振りしてきやがるんだ。

「時間稼ぎはしてあげるから、あと1時間以内に作って」

「姫様? それは私には無理な所業でございます」

「作れ」

「無理だっつってんだろうが、人の話を聞け」

「作れ」

こっちの話は聞かないってか? 上等じゃねぇーか。

多少プランに変更はでるが、バカ千秋に売られた喧嘩を買わないわけにはいかないだろ。

「1分。病室へと戻るこの間に創ってやるよ」



「凄いね、一輝はもしかしたら作家とかになれるかもよ?」

「なりたくないし、あの程度のでっち上げなら幾らでも誰でも作れる」

「…………? 濁川先輩、何の話をしてるんですか?」

病室へ戻ってくるなり鋼凪が質問をかましてきた。

まあ俺じゃないから良いんだけど。

「一輝の発想の凄さについて話してたの」

「俺は自分の発想よりも、お前のバカさ加減に驚くがな」

「だって優しい幻想と厳しい現実だったら、優しい幻想を信じたくなるもん」

「……だから何の話をしてるんですか?」

主語が抜けたような会話をしてたからか、鋼凪が不貞腐れ始めた。

会話の輪に入れないからって不貞腐れるなよ。子供かよ。

「ほら」

仕方なく、俺はポケットから鋼凪にある物を渡す。

「…………しおり?」

「そう。一輝がなんか気まずいからって作ってきたの」

四葉のクローバーの押し花がしてある栞を見ながら千秋が言う。

というか嬉しそうに語る千秋を一発ぶん殴ってやりたい。

「気まずい……何が?」

「一輝はね、梓美ちゃんが怪我したこととか物が壊されたこととかを自分にも責任があると思ってるの。だから壊れたヘヤピンの代わりになればっと思って作ってきたの」

「…………ふっ」

何を考えて吹き出したのかは知らないが、失礼な事に鋼凪は、俺の顔をマジマジと見たあとで吹き出しやがった。

まあ、似合わないとか思ってるんだろうけどね! そのくらい自分でも分かってるわ!

俺だって恥ずかしいんだよ、こんな嘘!

「似合わない……ふはははは!!」

「言うな! 笑うな! 自分だって知ってるわボケ!」

鋼凪、大爆笑。ムカつくくらいに大爆笑。

こいつの辞書には失礼って単語の意味は載ってないのか?

「ご、ごめん……あまりにも面白くて」

そう言う鋼凪の顔は、今まさに笑う事を限界まで耐えようとしてる顔だった。

こいつ、まだ笑う気だ。

「でも……これは……似合わな過ぎる…………ふふふははははっはははは!」

「だから笑うな!」

「笑うしかないって、これはもう!」

もう耐えることを諦め、ベットをバンバン叩きながら鋼凪は大爆笑してやがった。

千秋の野郎…………あとで覚えとけ。

「で、でも一応大事にはするよ……ふふっ……はははははははは!!」

「あぁー、でもお前じゃ読める本も無いし返せよやっぱ」

「ヤダ。これ一生物のネタにできるから!」

「ネタとか言うな! やっぱり返せ!」

「ほらほら一輝、そろそろ帰るよ」

「千秋、テメェ……本当に覚えとけよ! 十倍で返してやる」

「うん、そうだね。だから帰ろう、もう」

ぎゃああああ! 千秋ごときに軽くあしらわれたぁー!!

もうダメだ、俺のパーソナリティがズタズタだ!

ボロボロを通り越して、ズタズタだ!

「あ、そうだカス」

病室を出て行く前、鋼凪が声を掛けてきた。

「何だ? 文学少女になる宣言でもするのか?」

「違うわ。これはちゃんと大事にする。それと――――」

言葉を一旦区切り、鋼凪は笑顔でこう言った。

「もう、わたしは大丈夫。お蔭様で立ち直ったよ」

「……そりゃ良かったな」

まさか、鋼凪から礼を言われる日をくるとは。

なんか調子狂うんだよな、最近。

ホント、なんとなく調子を狂わされてばかりな気がする。

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