お見舞い
「そろそろ動き出す」
「えっ?」
スーパーで色々と買って、家帰って、食材洗ったりして、みじん切りして、こねて、空気を抜いて、型作って、焼いて、蒸して、さらに盛り付けて、食ってる最中。
見せびらかすように俺がハンバーグを食い、釣られて千秋もハンバーグを口にしている時。
俺はそう言った。
「それってどういう事?」
頬にケチャップを付けた千秋が俺に問うてくる。
「打って出る、ってことだな。ケチャップ拭け」
「ありがと」
俺が差し出したティッシュで頬を拭き、続きを訊きたそうな顔をしてきた千秋。
「今までは参加者の誰かが動き出すのを待ってたが……まあ《完全干渉》がよりにもよって俺たちを標的にしてきたからな。こっちが手を組んでることは他の参加者にもバレただろ」
「だから、隠れることから潰し合うことに変えるの?」
「現参加者は7名。こっちには3名。残りは4名。でも、鋼凪の協力が得られればこっちも4名。人数的には対等に立てる」
「……でも、敗者はゲームに介入できないんじゃないの?」
「ゲームじゃない。敗者が禁止されることは、物の破壊と参加者の殺害だ。協力してもらう分には問題無い」
「じゃあ、他の4名だって《完全干渉》に話を持ちかけるかも……」
「《完全干渉》はその話を棒に振る。アイツは元々……学校に来る前から俺たちの事を調べてた。多分、アイツには4人が手を組んでたこともバレてただろう。それでも奴は独りでやって来た」
「……他の参加者と協力する気なんて更々無かったから?」
「その通り。だから奴は、協力しない…………っつても俺から話を持ちかけるつもりでいるんだが」
「…………一輝って、昔より外道になったよね」
「勝つためだ。その為だったら外道だろうが下衆だろうが鬼畜だろうが悪魔だろうが何だってなってやる」
「そう…………。でも誰とも協力する気が無い《完全干渉》が手を貸してくれるとは思わないんだけど」
「そういう時は《非観理論》の使い時だ。情報を集めれば自然と見えてくる、アイツのゲーム参加理由」
まあ、ロクでもない事だとは思うけどな。
利点があれば《完全干渉》は俺に協力するはずだ。
「ともかく……まず次に誰を敗退させるかだ」
「それより前にやる事があるよ」
「…………えっ?」
千秋の言葉に俺は耳を疑った。
俺が何かを見逃していた? そんなバカな。まだ悪夢心地ってことか?
「梓美ちゃんのお見舞い。一輝はまだ行ってないよね」
「面倒臭い。パス」
「《非観理論》を使うんでしょ? 《否定定義》が無ければ聞き出せないんじゃない?」
「くっ……」
千秋に極めて正論を言われてしまうなんて…………ホント今日は調子悪い。
「……分かった。いつ行けばいいんだ?」
「明日」
「あぁーと、その…………」
「行くよね?」
「……はい」
バカな千秋に言い包められてしまうなんて……もう今日はダメだ。ダメの日だ。
あぁ、もう、調子が狂う。いつものペースじゃない。
「御馳走様」
「ごちそうさま」
翌日の放課後。
学校を無断欠席したんだとずっと思っていたんだが、どうやら昨日は勤労感謝の日だったらしい。
っていうことは、もうすぐ11月も終わるんだなー。
つーか、昨日、千秋はどこに出掛けてたんだ…………って、鋼凪のお見舞いに行ってたのか。
普通に考えればそうだろうな。多分。
「おーい、鋼凪、元気かー」
病院の個室のドアを開け、適当に間延びした適当な言葉を投げかけてみる。
「…………」
返事が無い。ただの屍のようだ。
……じゃなくて、ただ普通に寝ているだけである。
「……タイミング悪いね」
「だな」
一緒に来た千秋の言葉に激しく同感しながら、室内に入る。
病院の個室……人生初の侵入である。
あんま怪我しても病院なんて行かなかったからなぁ。
「ちぃ、お花の水、変えてくるね」
「分かった」
適当にあった椅子に座って呆然としていると、千秋がそんな事をいって花瓶を持って出て行った。
…………する事が無い。ある意味、気まずい。
いっその事、本人を起こしてしまおうか。ぐっすり寝ているのがムカつくし。
いやしかし、これでも俺は人の子。それはやってはいけない気がする。
まあ、でも鋼凪だしイイかな?
「……イイわけないでしょ、変態覗き魔」
「あれ? 起きてたか?」
俺が行動に移ろうとする前に、鋼凪がうっすらと瞼を開けて、体を起こす。
「何しに来たの、カス?」
「何って、千秋の付き添い」
「…………濁川先輩は?」
「花の水変えるとか言って出て行った」
「そう……」
「………………お前、大丈夫か?」
「何が?」
会話が途切れそうだったから、適当な言葉を投げかけただけなんて言えない。
「脚とか……精神的な面とか」
「脚の方は治ってきてる。精神的な面ってのは意味が分からない」
「ならそれでいい」
うん、やっぱ気まずいから一旦退室!