作戦会議
姿を晒すと言っても、そんないつまでも晒していたら「きゃー、覗き魔!」と善からぬ称号を貰ってしまう。
そんな称号は貰いたくないので、一瞬でドアに触れ、そして自分の姿と保健室のドアを消した。
そしてそのまま敵前逃亡! だって、一瞬であれバレたら逃げるが覗き魔の常識だから!
「……あのカス野郎!」
俺の姿を一瞬捉えてしまった鋼凪は、追う様に保健室を出る。
虎杖も《非観理論》で隠れたまま、保健室を出る。
「待って、梓美ちゃん!」
千秋は多分、冷静に状況を把握し、いきなり出て行った鋼凪を追う様に、自然と保健室を出る。
これで、全員逃亡は成功だ。
次に考えるべきは、相手のコード。
学校側の人間に無理に検診を設けさせ、さらには女医ではなく自分を推薦させるようなコード。
簡単にまとめれば相手の思考を捻じ曲げるコード。
九つのコードの内、そう言ったことができるものは《完全干渉》《絶対規律》《結論反転》の三つ。
……と言っても俺が勝手に予測したルールでの判断だが。
まあ後で虎杖に《非観理論》を使って調べさせればいいことだ。
ということは、四人で一度合流しなければいけなくなるか。
保健室から一定距離以上を離れたので、立ち止まり、姿を現す。
ポケットから携帯を取り出した直後、誰からか着信する。
と言っても誰だかは分かっている。千秋からの電話だ。
「千秋、無事か?」
『一輝こそ、敵に捕まってない?』
「敵に捕まる前に、教師や鋼凪に捕まりそうだ」
『これにこりたらコードを乱用して覗きなんてしないこと。分かった?』
「お前に、お前のコードだけには言われたくない」
『まあ、確かにね』
「特別教室棟の2階と3階の間にある踊り場。他の二人にメールで伝えておいてくれ」
『分かった』
千秋がそう言うと同時に電話を切る。
まだ一番最後に出たはずの千秋が捕まってないとなると、まだ相手は動き出していないのか。
一応、医師と来たから仕事は最後まで責任もってやるつもりとかか?
つまりそれは最後まで他の女子の半裸を見続けるってことかこん畜生絶対にぶん殴ってやる。
息継ぎせずに男医師(仮名)への怨念を再確認しながら、俺は自らが指定した集合場所へ向かう。
「覗き魔」
鋼凪は集合場所についた瞬間に、それより前に来ていた虎杖と俺に向かってそう言った。
「いや僕は一輝先輩に無理矢理連れて行かれただけで―――」
「そうだぞ。虎杖は女子の半裸を見たって表情一つ変えないムッツリスケベなんだ、責めるなよ」
「一輝先輩一発ぶん殴ってもよろしいでしょうか?」
鋼凪がジト目で虎杖を見るからって、俺に八つ当たりすんなよ。
「変態、最低」
鋼凪は最後にそう言い、それ以降口を閉じてひたすら男二人を睨み続けていた。
「ちぃ……私が最後かな?」
「あぁ。そうだ」
千秋の到着と同時に、作戦会議に移る。
「虎杖、鋼凪は《非観理論》であの医師が誰だか調べてくれ」
「分かりました」
鋼凪は返事をせず、虎杖だけが返してくる。まあ実質、調べるのは虎杖だけだからな。
「千秋はコードを使うな」
「何で?」
「俺の予測だと敵は《完全干渉》《結論反転》《絶対規律》の三つのうちのどれかだ。《完全干渉》だった場合、逆算されてお前のコードがバレるかもしれない」
「分かったけど……私に何かできることがある?」
「《完全干渉》じゃなきゃ、有るんだが」
「残念ながらその《完全干渉》があの男医師のコードみたいですよ」
調べ終わった虎杖が、そう答える。
《否定定義》によって《非観理論》の規制が解けたからなんだが……この連携は痛手になるかもな。
「なら今回は《無影無綜》《非観理論》《否定定義》の三人でいく。千秋は……まあ、お留守番でもしてろ」
「一輝、言い方が酷い……」
まあでも仕方が無いだろ。今回のスタメンではないんだから。
さて、スタメンのスタメンによるスタメンのための戦略を立てようではないか。
「鋼凪、《完全干渉》のルールについて教えてくれ」
《否定定義》と《非観理論》は過去に《完全干渉》と対峙したことがある。
……と言っても、あの男医師と対峙したわけではないんだが。
取り敢えず、誰が使おうとも《完全干渉》は変わらない。
「……自分を中心とした半径20メートルの範囲を5分間、干渉できるってルールよ」
「他に特典は? 《非観理論》みたいな規制とかそんな感じの」
「特には。ただ《非観理論》の他者から観測されないってルールが通じるから……多分、カスの《無影無綜》によって消し隠れるルールも通じるとは思う」
「そうか、それは朗報だな」
「でもわたしと虎杖君の二人だけで十分よ。一度《完全干渉》を潰したことがあるから」
「いやでも――――」
「確かに、虎杖君は覗きをした。でも本人の主張だとカスに嵌められたからだと言ってるの。それに間違いはない?」
「えぇ、まあ」
「そう。じゃあ覗きの主犯格であるカス野郎はここで地に這いつくばるように土下座しながら反省してなさい。濁川先輩、監視お願いします」
「うん、任せておいて」
「それじゃ、行ってきます」
「行ってきます」
「行ってらっしゃーい」
………………えっ?
え、何? 何が今この場で起こったの?
もしかして俺、鋼凪に言いくるめられて、置いて行かれた!?
「一輝」
俺の肩に手を置いた千秋は一言。
「土下座」
つまり本当に俺は鋼凪のようなバカに言いくるめられて、義妹の前で土下座をしなければならないピンチに陥ったということか。
いやまあ、悪いのは全部俺だから仕方が無い様な気もするんだけどね。
まあ、覗きは犯罪ですもんね。
コードとかいう異能とか関係無しに土下座するべきですよね。
主人公とか関係無しに。