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クローバー:コード  作者: 坂津狂鬼
ゲームスタート
12/68

序盤戦況

「…………」

目覚めたばかりの頭で携帯の時刻表示を確認する。

現在時刻、8:46。

いつもならとうに学校にいるべき時間だ。

しかし幸いな事に今日は土曜日。俺たちが通ってるあの学校は私立校じゃないため、入部もしていない俺がわざわざ土日に行く必要は無いのだ。

しかし珍しく体が怠い。頭がまだ全然働いていない気がする。

しばらく天井のシミを数えていると下から香ばしい……いや確実に焦げている臭いが…………火事か?

いや、千秋だな。

起動しなかった脳の活動が急に活発化し、いそいで俺はキッチンへ向かう。

あのダメ人間、まさか料理を作らない俺に対して、料理で故意に火事を起こして殺すなんて暴挙に出たわけじゃないよな!?

頭の中でいくら否定しても、無意識での殺人という不気味な言葉が浮かんできて仕方ない。

「千秋、何をした!?」

キッチンに行くと、顔中に煤を付けたエプロン姿の千秋が居た。

「……ごめんなさい」

千秋は自らの罪状を告げずに、俺に謝罪の言葉を言ってきた。

取り敢えず、キッチンに燃え盛る炎は確認できなかった。

火は出てない。しかし何かを焦がしたんだろう。まあ、不幸中の幸いかな。

「ハァ……取り敢えず、お前は顔洗って来い」

換気扇のスイッチを入れ、近くの窓を全開にしながら俺は千秋に言う。



前言撤回だ。何が幸いだ。大不幸じゃないか。

よりにもよって俺の秘蔵のDVDをグリルで焼きやがったよ畜生め。

そりゃ焦げる臭いがしても火が出ないわけだ! だって溶けてんだもん!

ホントこの尼、どうしてくれようか!!

「……だ、だって……一輝が悪いんじゃん!」

「アァ!?」

このクソ野郎、俺に罪を転嫁しようとしやがって。

処刑だ、死刑だ、極刑だ!

「昨日ちぃが覗いた時に、そんなものを見てる一輝が悪いんだよ!」

「お前に価値が分かる物じゃねぇーんだよ!」

一体、俺の何が悪いんだ?

自分のパソコンでDVDを見て、何が悪いと言うんだ!?

俺のどこに非がある!? むしろ勝手に覗いたうえでグリルで焼いたこのバカ野郎に全ての非があるだろ!

ちなみに、俺が見ていたDVDの内容は……パンダが生みたての実の子供を殺したり、親の酷い虐待映像だったり、まあ大雑把にまとめてしまえば動物の子供が酷い仕打ちにあっている映像の類を見ていたわけだ。

「あんなものに価値が有るわけが無いじゃん! あんなの見たって―――」

「俺には価値が有るんだよ。お前なら分かるだろ?」

「分かるかぁ!」

千秋が怒号を上げて俺の言葉を否定する。

酷いなー、この趣向を分かってくれると思ったのに。

いや、千秋のコードなら分かってしまう。

《異見互換》

相手の主観性や価値観などを解析理解する。また、相手の視界を共有することが出来るルール。

それが千秋のコードだ。

つまり相手の考え方や判断基準を理解することが出来る。

それを使えば、俺の物の価値だって理解できるのだ。

だがまあ、千秋はこのコードを大概、覗き見で使っている。

相手の視界を共有することができるルールを使い、俺を何処に居るかを確かめてパシリに使ったり、メールを見たかどうかを確認したうえで俺が無視したらしつこくメールをしてきたり、何か俺をパシリに使いたい時に何をしているかを確かめたり。

まあ、最初に俺が鋼凪と虎杖に接触する前にあいつらの居場所が分かったのも覗き見のお蔭なんだが。

大体は俺をパシリに使うために乱用されているコードだ。

本当、使いようによってはコード使用者を探せたりするんだが……使用者が残念なため残念な使い方しかされていない。

「ともかく、俺のDVD焼いた罰として昼食は抜き。決定」

「え、待ってよ! ちぃ、そんな事されたら死んじゃう!」

「死ぬほど反省しろという意味だ、理解しろ」

「酷い! 最低、外道、鬼畜、下衆、悪魔ぁ!」

「そうだぞ、お前のお兄ちゃんは最低で外道で鬼畜で下衆で悪魔でサディストだ。よーく覚えとけ」

「うにゃー!!」



というわけで昼飯を作らなくてよくなったので、しばらく俺はソファに座りながらB4ノートに色々と書き綴っていた。

「ちぃはお昼御飯が食べたいです。お願いします、許してください」

と言う言葉をまるまる無視しながら。

ノートに書いている事は、ゲームの事だ。

よく分からないあのメールから数日。鋼凪と虎杖には無闇にコードを使うなとは言ってある。

《完全干渉》《干渉不可》《禁思用語》《結論反転》《絶対規律》。

この五つのコード使用者が動き出すまでこちらは動かない体勢だ。

無闇に動き出さなければ、こちらのコードがバレないから。

幸い、俺の予想とは違い、この中に使用者を探し出すようなコードは無さそうなのだ。

コードは大体、名前の通りのルールしかない。

《無影無綜》にしても《非観理論》にしても《否定定義》にしても《異見互換》にしても。

名前通りのルールを有している。

だから五つのコードの名前を……まあ全て漢字だからその一字一字の漢字の意味を徹底的に調べ上げた。

その結果、二つを除いた他の三つのコードは安全と判断。

残った二つ……《完全干渉》と《絶対規律》の動向を《非観理論》を使って虎杖に探らせ、その結果を元に五つのコードには使用者を探し出すコードが無いと判断した。

まあ更に、こっちには《非観理論》と《異見互換》の二つがある。両方とも情報収集に向いているコードだ。

まあ《非観理論》には観測した事象には干渉できないという規制があるが《否定定義》もこちらにいる為、規制無しで情報も集め放題だ。

となると、やはり問題は……。

「……《非観理論》と《否定定義》か」

問題となるのはこの二人。今は味方であるこの二人。

まあでも、幸いなのはこのゲームが殺し合いではなく壊し合いということか。

殺し合いのゲームならばこの二人を終盤まで脱落させてはならない。死んでは困るからだ。

だが壊し合いのゲームなら、敗退したとしても援助を受けれる。死なないから。

しかし普通に考えて、自分が勝ち残りたいから命以上に大切にしてる物を壊させてくださいと言われて『はい、どうぞ』と言う奴なんてこの世にはいない。

ってなると必然的にあの二人とはいずれ対決することになる。

それはできれば避けなければいけない事態だ。あの二人の援助を受けなくてもいいくらいに参加者が少ない終盤でなければ対立できない。

まあ、二人の合意の上で敗退させる手法はあるが…………できればそれは緊急回避の手段として用いたい。

つまり俺がこのゲームの中盤まででやらなければいけない事は一つ。

一つは、あの二人のどちらかを敗退させること。しかも自らの手を汚さずに。

もしも五人の使用者の誰かを利用して敗北させるとしても、こちらが疑われないようにごく自然に立ち振る舞わなければダメだ。

なんとも難易度が高いゲームだこと。

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