サイド
《干渉不可》は築40年以上の、周りの住民からは魔女の館と呼ばれる雑草や木々が生い茂るボロアパートにてメールを受け取った。
「……《無影無綜》?」
連続して送られてくるメールの中で、《干渉不可》の興味を一番惹いたものはそのコード名であった。
(……《無影無綜》って、どういう事? アイツは確か…………)
《干渉不可》は《無影無綜》とは面識がある。あるがしかし。
《干渉不可》が知っている《無影無綜》はもうすでに他界しているはずなのだ。
(アイツが生きてたって事……? そうだとしたら…………)
自分がこの手で《無影無綜》の全てをぶち壊してやらなければ。
最初の獲物を定めた《干渉不可》は静かに動き出す。
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「ゲームだぁ…………?」
雑居ビルの2階にある診療所にて《完全干渉》はメールを受けていた。
やっと仕事が終わったというのに、こんどはこんな迷惑メール。
連続して送られてくるメールが癪に障り、思わず携帯を折ってやろうかという思考まで行きついていた。
が、ある文面を見てその気持ちは消え去ってしまう。
『勝者は失ってしまった大切なものを復元する事が出来ます』
『例えそれが命であっても』
その文面を見た途端、《完全干渉》の気持ちが大幅に揺れた。
別に何か失ってしまった物が、どうしても元に戻したいものが有るわけではない。
ただこの二言が《完全干渉》の今までの人生を否定することになっていた。
だから決める。自分がこのゲームに参加することを。
勝者を出させない為に。今までの人生を肯定するためだけに。
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《禁思用語》と《結論反転》は同じ場所でこのメールを受信した。
「……ねぇ《結論反転》。手を組まない?」
そして《禁思用語》が提案してきたのが協定であった。
「何故? お前と組んで最後まで残れたとしてもお前との潰し合いだ。意味が無い」
「こっちのコードは独りきりだと基本的に弱い。この参加者9名の中じゃ最弱を誇ってもいいくらいかも。だけどサポートに回ればまま強い」
「……つまり、お前の為に組めと?」
《禁思用語》を睨みつけながら《結論反転》は問う。
「そっちの為でもある。もしも最終的に残れたとしたら、あとは最弱のコード使用者を潰せばいいだけ。リスクが少ないでしょ?」
「…………まあ、他の使用者が単独で行動するとは限らないからな。いいだろう」
そして今、《禁思用語》と《結論反転》のコンビが結成された。
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「『勝者は失ってしまった大切なものを復元することができます。例えそれが命であっても』か……」
《絶対規律》は自分の胸に手を当て、メールの文面を音読する。
(もしも、これが本当だと言うのなら……本当だと言うのなら…………)
失ってしまった命さえも元に戻せるというのなら、自分の望む物は一つしかなかった。
自分に一番大切なことを教え、一番大切なものをくれたあの人を生き返らせること。
自分のコードを持ってしても叶えられない儚い望みを叶えられるというのなら。
《絶対規律》は自ら進んで参加する。
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『参加者9名にはそれぞれの命と同等に大切にしている物を壊し合ってもらいます』
その文面を見た瞬間、《非観理論》……虎杖紀亜は困惑した。
(僕が命と同じくらいに大切にしているもの……それって何だ? 何なんだ?)
物心ついた頃には母親は居なく、父親も夜遅くまで働きその上転勤も多かった為、友達と呼べるような関係も作れぬまま今まで過ごしてきた。
家でも外でも独りっきり。そんな自分が命と同等に大切にしている物など思いつきもしなかった。
「どうもクソも無いな。まず最初に狙われるのは千秋と虎杖だ」
一輝のその発言で自分が物思いに耽っていたことに気付いた紀亜は取り敢えずその言葉を肯定する。
「《非観理論》を使ったら、何を壊せばいいかバレますもんね」
そう自らのコード《非観理論》を使えば、自分がどんな物を大切にしているかが分かる。
しかし、そうしなければ何を大切にしてるかが分からない自分が居る事がとてつもなく嫌だった。
嫌悪感に負け、紀亜は《非観理論》を使用し調べるのを止めた。
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(…………ゲームなんて、ふざけてる)
一輝への質問が終わり、鋼凪はそう思った。
正直、命と同じくらいに大切にしているものを壊し合えなんてふざけたゲームに参加はしたくなかった。
そんな事を考えた下郎を引きずり出して、ボコボコにしてやりたかった。
自ら行った復讐以上に酷い目に遭わせたかった。
しかし、
(……それをするには、わたしもゲームに参加しなきゃいけない…………)
そして勝ち残るためには、参加者全員の……虎杖や濁川千秋の大切な物も壊さなければいけない。
どんな理由を並べようとも、その行為は絶対に悪だ。
そのくらい鋼凪も分かっている。勝ち残るためには途中で裏切るしかない。
だから決心する。自分が悪党になってでも自らがしたい事をするために。
(……わたしは勝者になって、皆の壊された大切な物を元に戻して、そして主催者をブッ飛ばすッ!)
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「参加者《絶対規律》か…………」
「……?」
一輝がおかしい。そう千秋は直感的に思った。
自分がした質問の答えとならない言葉を呟き、その顔は何か不気味な笑いで歪んでいる。
おそらく一輝は何かの答えに辿り着いた上で発言しているはずだ。
《絶対規律》。それが失った物を復元させるコードなのか?
しかしだとしたら、何故、このゲームに参加している?
このゲームはそもそも出来レースだったという事なのだろうか?
だとしたら何故《絶対規律》はこんな酔狂なゲームをするのだろうか?
出来レースならば賞品だって嘘ということになる。ただ大切な物の壊し合いの虚しいゲームに変わってしまう。
参加者全員への復讐のため? それともコード使用者への復讐?
どちらも千秋にはしっくりこなかった。一輝もきっとそうだろう。
では《絶対規律》は主催者ではないということか?
何が何なのか千秋の頭が混乱し始めた時。
「あひゃ」
一輝が堪えきれなかったように笑い出した。
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
「一輝…………?」
思わず、千秋は一輝の名前を呼んでいた。
一輝がそこまで喜びを示すほどの、何かに自分は未だ辿り着けないでいる。
どこか自分が一輝に置いて行かれているような気がして、思わず名前を呼んでしまった。
(いやだ…………)
千秋は心の中で否定する。拒絶する。嘆く。求める。
(一輝にまで置いて行かれるのは、いやだ…………ッ!!)
ちょっと色々間違えちゃった。まあいいか